鳥の話

鳥の話 23 (最終回)

一般的にマジックに用いる鳥の足を観察してみると、鳩の場合は前方に3本
、後方に1本の指があります。
インコ・オウム類は物をしっかり掴むためなのでしょうか、前方と後方に
それぞれ2本の指があります。

私のバードマジックレパートリーの一つで、スケッチブックに描いたオウム
の絵が本物に変化して飛び立つというのを時々演じるのですが、ある時オウ
ムの指を鳩のように前方に3本、後方に1本描いた(自分ではそんな意識は
なく、ついうっかりなのでしょう)ことがありました。
後日、その時の演技を見ていたという鳥マニアの方から、オウムの指は前後
にそれぞれ2本ですよと指摘されました。(マニアは見逃しませんね)

今回は鳥の指の先端…爪のケアの必要性について書きたいと思います。

人と同様に鳥の爪もいつの間にか結構伸びるもので、定期的に切る必要が
あります。
伸び過ぎると色んな物に引っかかって怪我をする恐れがあるからです。
鳩の場合はほとんど止まり木や餌箱の上で過ごしていますが、インコや
オウムは物を掴んだり鳥かご全体をジャングルジムのように動き回る習性
があるので、爪の定期的なケアは鳩以上に欠かせません。
定期的とは言ってもどのくらいおきに切ればいいのかという明確な指針は
ありませんが、日頃から手乗りとしてコミュニケーションをとっている習慣
があるならば乗せた指先に痛みを感じたら切り時だと判断してよいでしょう。
ただし大型鳥は握力が強いせいか、爪を切った後でも多少の痛みを感じるか
もしれません。
鳥かごの中で飼いっぱなしという鳥は、爪が伸びっぱなしになりがちなので
特に注意が必要です。

マジシャンという立場からの理由としては、爪のケアをしていないと演技
に多大な支障をきたすことがあるからです。
鳩出しの演技で、爪にシルクが引っかかったりあるいは絶対に見えてはな
らないハーネスまでもがぶら下がって慌てるマジシャンを見てきました。
ほとんどのケースが爪のケアさえしていれば防げたミスのはずです。
専門的になりますが、爪が伸びているとベアハンドプロダクションの際にも
衣装が大きく動くなどスマートな出現の支障となります。

爪の切り方や長さについては書店に並んでいる専門誌に記載されているので
詳述はしませんが、爪の途中までは血管が走っているので深爪は禁物です。

近年のクロースアップを中心としたマジックブームに伴い、副産物のように
ブームになったのがマジシャンの手(特に爪)のケアではないでしょうか。
解像度が大幅に向上した大型テレビが普及し、マジシャン達の手が容赦なく
アップで映される現代においては良い習慣でしょう。(この習慣の元祖は間違
いなくマリック氏だと思います)
一般の方々からも時々「テレビを観てて思ったんですけど、マジシャンの手
ってきれいで爪がピカピカですよね」という声を耳にします。

私もテレビ出演やクロースアップショーの前は一応のマナーとして手や爪の
ケアをするように心掛けていますが、いかんせんバードマジシャンの宿命で
生傷が絶えません。
日々の調教に加えてバードマジックのステージが続いた後は、それはそれは
酷いものです。先日も練習中にコンゴウインコにおもいっきり噛み付かれて
大出血してしまいました。

銀座のクラブに出演していた頃、私の手の生傷を見た酔客から「ねぇマジシ
ャン、猫飼ってるでしょ?」と何度尋ねられたことか…確かに猫も飼ってる
んだけどなあ、でも違うんだよなあ…と思いつつも真相を話して会話が長引
くのを避けるために、生傷を猫のせいにしたのは言うまでもありません。

大型鳥を使うパフォーマンスは、鳥を購入するのも世話するのも調教する
のもハーネスや仕掛けを考えるのも移動するのも全て大変ですが、それら
の苦労を差し引いても、観客がどよめく醍醐味を味わえればそれで報われる
と思えるマジシャンだけが踏み込む資格があるフィールドなのです…完。


(あとがき)

2009年から2011年にかけて23回に渡って書きおろした「鳥の話」です
が、今回のPDF化にあたり、時系列の明確化や最新の知見の必要性を感じ
て若干の加筆修正をしました。

23回で完結した直後、バードマジックに興味がある一部のマジシャン達
からは連載を続けて欲しいとの要望(特に調教の秘密について)もありま
した。鳩に関しては鳩出し自体がポピュラーなマジックであることとダブ
アクターの人口を考慮すれば需要があると判断して詳しく解説したわけで
すが、まだまだ珍しい大型鳥の場合、その調教の秘密や仕掛けを開陳した
ところで今の日本ではたして何人の役に立つことなのかと考えた時、単な
る暴露に過ぎないのではないかと判断しました。
ましてや会員制でもなく不特定多数の人が訪れるこのコーナーにおいて
詳述するべきことなのか…そして何より私がまだ現役のバードアクトパフ
ォーマーであるからには、これ以上の開陳は自分の首を絞めることにもな
りかねないこともご理解ください。

ただし以前から本当に真摯な質問に対しては、個人的に答えられる範囲
で誠実に対応しておりますので、ご意見ご感想ご要望は下記アドレスま
でお願いします。

drzuma@mac.com

自分自身では備忘録、いや大げさに言えば生き様を含めた自叙伝を書いて
いるようでやりがいのある連載でした。
文化祭…大学受験…コンテスト…Mr.マリック…国家試験… 研修医…調教
…バードアクト…銀座…人生の転機を彩った様々なキーワードが今でも頭
の中で走馬灯のように駆け巡ります。

最初に書いたように、単にバードマジシャンのために役立つと同時に、
マジシャンでなくても面白い読み物とするように心掛けたつもりですが
いかがでしたでしょうか?
ご愛読ありがとうございました。

Dr.ZUMA

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鳥の話 22

以前の考察で、鳩の調教については私なりの考え方や方法を詳しく
述べさせていただきました。

私の経験上、鳩を調教した時間とその結果は比例します。
ある意味苦労は報われます。
従って、あんなに調教したのに結果がダメだったなどと愚痴る人は
そんなに調教していないのです。

また、汚れていない美しい鳩を使っているマジシャンの鳥かごや
道具は当然のように清潔で美しく、おそらく自宅の部屋や車内も
同様のはずです。
翻って、糞だらけの鳥かごで鳩を飼っているマジシャンの部屋は
タバコの吸い殻だらけの空き缶までが放置されているものです。
まあ、呼吸器の弱い鳥類のいる部屋や移動の車中で喫煙すること
自体がバードマジックを演じる資格はないのですが…。

話がそれましたが、人間に馴れた鳩は誰が手にしても扱い易く、
マジシャン同士で鳩の貸し借りが常態化している事実からも最も
マジックに適した鳥であることは確かでしょう。

今回は、現在私が演じている大型インコ・オウムについて少しだけ
触れることにします。

一般的にインコ・オウムの調教というのは、言葉を覚えさせて喋ら
せたり、自転車漕ぎ等のサーカス芸をイメージしますが、マジック
における調教というのは出番までおとなしく隠れている、あるいは
観客の頭上を飛行してマジシャンの手元に戻る等を意味します。

そのように育て上げるためにはどうすればいいのでしょうか?
知能が高く感情表現豊かで、ある時は極めて凶暴な大型鳥をショー
で使いこなすために必要なもの…それはズバリ「信頼感」です。

これ重要です。
つまり「信頼感がなければ調教がスタートできない!」ということ。

では信頼感を築くために必要な最大の条件は…常に鳥の視界に入る
場所でできるだけ長く一緒に過ごしてあげることです。
私は研修医時代に無理をして飼ったことがありますが、早朝に出掛
けて夜遅く帰宅してコミュニケーションをとる程度では、なんとか
噛み付かれないように手に乗せる程度がやっという状態でした。

職業プロに転向して、日常生活はもちろん移動する時もずっと一緒
に過ごすようになって、徐々に信頼感が築かれていきました。

例えば、マジックを趣味としているサラリーマンがバードマジック
に憧れて大型鳥を飼ったとしましょう。
当然のように朝出勤して夜帰宅というライフスタイルの中で、その
鳥と最も長時間接しているのは専業主婦の奥さんということになる
でしょう。
そして奥さんをアシスタントにステージに立って、鳥を飛ばしたら
…鳥は間違いなく奥さんの手元に戻って行くことでしょう。

これまで多くの方々から質問を受けましたが、大型鳥を操る本格的
なアクトを完成させるには、「毎日長時間鳥と過ごすことが仕事と
して成立するプロ」にならないと難しいということです。

堅気が勢いで大型鳥を飼ってしまうことだけは避けた方が賢明です。

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鳥の話 21

前回の鳥の話20では、多くのインコ・オウムは人物の区別ができること
について述べました。
では鳩はどうなのでしょう? 人物の区別ができると思いますか?
ズバリ、区別できるのです。

実は私はある時までは絶対に区別できるわけがないと信じていました。
私の経験上、馴れた鳩は誰に対しても馴れて扱い易いからこそ頻繁に
マジシャン間で貸し借りされるわけだし、特定の人物に馴れるインコや
オウムは区別がつくからこそ、飼い主以外は容易に扱えないわけです。

1990年代ですが、ドイツのマジックハンズコンベンションでの
エイモス・レフコビッチを観た時に、それまでの常識が覆りました。
レフコビッチといえば過去何度か来日したこともあるベテランで、当代
きってのダブアクターです。
そのテクニックや手順構成を含めたアクトに関しては、好みや評価が
分かれるところですが、こと「鳩の調教」にかけては間違いなく世界一
でしょう。とにかく鬼のように調教しています。
あるテレビ番組で、彼が自宅で取材を受けているのを見たことがありま
すが、庭の広大な鳩舎で約80羽の鳩を飼い、1日に8時間も調教して
いるとのことでした。

演技の最後には客席の後方から6羽の鳩が飛来して彼の肩や腕に
ズラリととまるシーンは印象的で、コンベンションでは必ずスタンディ
ングオベーションとなっていました。
さてドイツでのガラショーに登場した時の話です。
飛んだ1羽の鳩が珍しく手元に戻らずに、ステージの背景のカーテンに
沿ってバタバタと床に落ちました。
ところがその鳩が自ら飛び立ち、彼の手元に戻って行きました。
さらに驚いたのは大会のファイナルでのことです。
その日の出演者全員がステージ上に呼ばれ、一列に並んだ時のこと…
劇場の後方から6羽の鳩が飛来してレフコビッチだけにとまったのです。
彼と同じような黒い燕尾服を着たマジシャンが他にも4〜5人はいたの
にも関らず、全ての鳩が迷うことなく彼をめがけて飛んで行ったのです。

1997年、私はロサンゼルスのワンデーコンベンションに参加しました。
ここでレフコビッチがレクチャーを行いました。
ところがレクチャーの内容は、多くの参加者が期待したような鳩出しの
「テクニックや秘密の公開」ではなく「日頃の飼い方とケア」に関してで
あることを彼自身がレクチャーの冒頭でアナウンスしたために、大部分
の参加者が、なあんだという感じでぞろぞろと部屋を出て行ってしまい、
残ったのは私を含めて10人以下となってしまいました。
鳩出しのテクニック等は資料や映像から勉強することができても、日頃
のケアは知る機会がないので、実はこちらの方がはるかに価値があると
思うのですが…。

レクチャー終了時にドイツでの出来事を思い出したので、彼に疑問点を
尋ねてみました。
彼ははっきりと答えました…「鳩は人物の区別ができるんだ!」

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鳥の話 20

一般的に多くの種類のインコやオウムは知能が高く、的確に人物の
区別ができます。
従って家族の中で特定の人にだけ馴れて、他の家族に対しては威嚇や
噛み付きなどの凶暴性を発揮することは珍しくありません。

私のショーでは特に大型鳥を使うために、観客や共演者に危害を加える
ことがないように細心の注意を払って調教しています。
自宅においては来客の腕にとまらせて記念写真を撮ったり、時には来客
自身に投げさせてその腕に戻って来させる等、誰に対してもフレンドリー
に接するように馴らしています。

鳥に限らず、愛玩用のペットの多くは人物の区別はできるものですが、
昔飼っていたコバタン(白色オウム)のケースを紹介します。

私の経験では、コバタンやコキサカなどの比較的小型の白色オウムは
大変臆病で用心深いという印象があります。
強い信頼関係を築いてからショーに登場させようと、時間をかけて毎日の
世話と調教をしていました。
半年以上経ち、そろそろ本番でも使えるかなと判断し、自宅リハーサル
のためにステージ衣装に着替えてケージに近づいた時のことです。
「ギャ〜!ギャ〜!グェ〜!」と、もの凄い雄叫びで怯え始めました。
どうやら、きらびやかで派手な衣装をまとった私を見るのが初めてらしく
相当ビビッているようでした。
他の鳥はどんな衣装で近づこうが全く平気で、顔や雰囲気でしっかりと
私を認識しているのに、この鳥だけは奇抜な衣装であればあるほど私を
天敵のごとく怯える日々が続きました。
(今振り返ると、燕尾服と暴走族の特攻服をミックスしてボタンをずらり
と並べた紫色の時代錯誤的衣装でした)

そういえば毎日毎日当たり前のように、パジャマやトレーナー等の地味
な部屋着で世話や調教をしていたので、すっかりその姿を見慣れていた
のでしょう。
でもまさかその鳥のためにパジャマでステージに立つことはできません。
どうやって解決したかというと…毎日派手なステージ衣装に着替えて、
馴れるまで世話を続けました。

宅配便が届いた際に、衣装のまま受け取る時は恥ずかしいのなんの。

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鳥の話 19

今回は、バードマジックにおける注意点やトラブルについてです。

鳥に限らず動物を使ったマジックは、出現した際のインパクトは人工物
と比較しても強烈です。意外性があればあるほど効果的であることを
考えれば、これから鳥が出るということを観客に悟られるのは極力避け
たいところです。
その観点に立つと、鳩を出すマジシャンがショーの最初から空の鳥カゴ
をステージ上に置いておくというのは、あまり賛成できません。
(私自身、テレビで「怪鳥マジシャン」と紹介されるのは、これから鳥が
出ることをバラされてる点では痛し痒しの面があるのは事実です)

大型鳥の場合、その鳴き声の大きさは一般の方の想像を遥かに超えて
います。私が注意しているのは出番直前に鳥をセットする際に、観客に
鳴き声を聞かれないようにすることです。出番前に鳴き声が聞こえると、
せっかく出現しても「ああ、あれが鳴いてたのか…」と興醒めさせてしま
います。

劇場では通常はステージの裏に控え室があり、頑丈な鉄の扉で仕切ら
れていることが多いので安心なのですが、ホテルの宴会場の場合は結構
大変です。ステージと控え室は遠く離れていることが多く、時にはフロア
が違うこともあります。遠く離れた控え室で鳥を仕込んでエレベーターに
乗ったり狭い導線を延々と運ぶわけにもいかないので、必然的にステージ
横のパテーションの裏で仕込むことになるのですが、このような環境では
極力おとなしい鳥を連れて行きます。

オウムやインコの大型鳥の個性は、同じ種類であっても様々です。
おとなしい仔もいれば、臆病でギャアギャア鳴く仔もいます。
知能が高く記憶力も良いので、仕掛けにセットする際に怖がらせたり怒ら
せたりすると、ずっと根に持ったりトラウマになったりして、以後ショーに
使いづらい鳥になってしまいます。
焦らずに時間をかけてコミュニケーションをとり、信頼感を得てから本番
デビューさせると、優秀なパートナーとなります。

動物マジックにおいて何より優先しなければならないのは、生命の安全
です。仕掛けにセットして何分以内に出せば安全なのか、入念な検証が
必要です。実際の仕事の現場では、セット後に出番が10〜20分遅れる
ことなどしょっちゅうなので、適切な判断が要求されます。
夏と冬では当然のことながら気温も違います。たとえ冬でもステージ上や
テレビのスタジオ照明はかなりの暑さです。
車に残された幼児が熱中症で亡くなるニュースは痛々しいものです。
あるマジシャンのトラブルなのですが、ワゴン車にペンキ塗りたての道具
と一緒に鳩を積んで、現場に着いたら全て死んでいたという話を本人から
聞いたことがあります。時間をかけて調教した動物を失うのは、精神的にも
営業的にも大きなダメージを被ります。

さて、鳥を出現させて拍手を頂いて終わりにするのが一般的なのですが、
さらに飛ばすのはハイリスク・ハイリターンです。
思いがけずハプニング的に鳩が飛んでしまい、食事中のテーブルに墜落
したり、宴会場の高い所にとまってしまい、会場サイドから顰蹙をかった
苦い経験を持つマジシャンも多いのではないでしょうか。
私もこの手の失敗談を話始めたら、枚挙に暇がありません。
天井の低いナイトクラブでコンゴウインコを飛ばして、灰皿の灰を舞い上が
らせたり、1500万円のシャンデリアに翼が擦ったり、宴会場中央の巨大な
氷の彫刻に鳥が激突しそうになったり…全てのトラブルは自己責任です。

で、私のバードマジックにおける最大の事件は…1997年、関西テレビの
生放送中に1羽の鳥が突然飛び立ち、当時カツラを装着していた山本浩之
アナウンサーの頭に…。
その後、山本アナはカツラであったことをカミングアウトし、関西圏では
一躍有名な人気アナとなりました。
以後も何度か関西テレビでご一緒しましたが、いつもその話で盛り上がっ
たことは言うまでもありません。

お互いに、「災い転じて福となす」の典型例でした。

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鳥の話 18

1995年当時は、鳩15羽、孔雀鳩5羽、セキセイインコ4羽、大型インコ
やオウムは8羽ほど飼っていたでしょうか。とにかくあらゆるサイズの鳥の
アクトを作ろうとしていたのですが、行き詰まっていたのは孔雀鳩の手順
でした。単にサイズで分けるとすれば、鳩は小、孔雀鳩は中、オウムは大
ということになるのでしょうか。
鳩の演技の最後に孔雀鳩を出しても、クライマックスとしては弱いし、
孔雀鳩を数羽出した後にオウムを出したとしても、インパクトは薄まって
しまいます。やはり普通の鳩のラストにオウムという流れが最も収まりが
良いようです。
このために孔雀鳩は他の鳥とは併用せずに、単独での手順を作るつもりで、
友永天豊氏に孔雀鳩用のバニシングケージまで製作して頂くなどして構成
してみましたが、エネルギーはどうしてもインコやオウムの調教の方に
向けられて、遅々として進みませんでした。

この時期、広島から内田貴光氏が月に一度のペースで私の家に泊まりに
来ていました。1994年、大学生にしてFISM横浜大会マニピュレーション
部門のチャンピオンとなった彼は、プロ入りを決意して着々と準備をして
おり、私が依頼したリゾートホテルのレギュラー出演の都度に泊まって、
それこそ朝方までプロの仕事について熱心に質問していました。
プロになれば得意のカードアクトだけでなく、限られた予算の中から様々
なレパートリーを揃えることが必要となってきます。
それらの話の中で、彼は孔雀鳩に興味を示し、私も彼ならアクトを完成
させてくれるのではないかと思いました。ジャンボカードで注目された彼
ならば、鳩もジャンボな方が彼らしい…全ての孔雀鳩とバニシングケージ
を内田氏に引き渡して夢を託しました。
参考までにと孔雀鳩で有名なダーク・アーサーのビデオを渡そうとしたら
「見てしまうと影響を受けて、似た演技を作ってしまいそうなので遠慮して
おきます。」という彼の言葉が忘れられません。

それから3年後の1998年、Mr.マリック氏主催マジカルホテル・マジック
シャワー(NHK-BSで放映)において、連続3羽出しや分裂・消失を含む
素晴らしいアクトを披露してくれました…つづく。


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鳥の話 17

ここを読んでおられるマジシャンで、海外のコンベンションを飛び回って
活躍したいと夢見ている方がおられるならば、「調教したインコ・オウム」
が必要な手順は組むべきではありません。(単に鳩を出すだけならば、
現地のマジシャンから借りることも可能でしょうが…。)

1993年は、「マジシャン」としてと言うよりも「バードマジシャン」
としてのある方向性を決意した年でした。
「営業ズレ」し始めている自分に喝を入れるために、久しぶりに海外の
コンテストに挑戦しようと思い始めたところに、マリック氏の勧めもあり、
翌年のドイツ・マジックハンズの大会への出演を計画していました。
マリック氏と共に和洋折衷の手順を構成し、BGMも決めて衣装や道具
の製作を始めた矢先に立ちはだかった壁は、鳥の出入国手続きの問題
でした。
ワシントン条約でその輸出入が厳しく規制されているため、その手続き
の煩雑さたるや想像を絶するもので、多くの役所のたらい回しでした。
保健所に始まり、税関、通産省、農水省…電話に出た担当者にとっても、
ペット業者が輸入するのではなく、飼い主と一緒に出国して帰国すると
いうケースは初めてのことなので、なかなか事が運びません。
KDDIの電話通訳を介して、ドイツの役人との交渉…鳥の正式な学名を
調べて提出…正規のルートで入手した鳥であると証明するための書類
…日本からの出国だけでこの煩雑さです。
さらにドイツへの入国と出国、日本への入国手続きが必要です。
ドイツの役所からは、無条件で3羽までならOKという返事をもらえたの
ですが、最終的に日本の役人が出した回答は、すんなりと出国できるか
どうかは保証できないというありさまで、結局断念せざる得ませんでした。
(今でも渡り鳥が飛来したというニュースを見ると、自由でいいなあと
複雑な気持ちになります。)
この出来事がきっかけで、海外のステージに立つという意欲は急激に
萎えて行きました。

しかし、法律の壁はポジティブに考えればいいのです。
私が鳥を持って出国するのが困難ならば、海外のマジシャンが日本に
鳥を持ち込むのも困難です。
国内において「バードマジシャン」としての立場を確立すれば、その分野
では独壇場になる…法律に邪魔されたけど、逆に立場は守ってくれる。
…そう開き直ったわけです。

以前、品川プリンスホテルのクラブeXに出演したジェイソン・バーンや
ジョセフは、バードアクトが売りであるのに演じることはできなかったし、
コンベンションのゲストとして来日したディメールは、日本で借りた鳩で
ダブアクトを演じましたが、当然本来の出来ではなかったようです。

近年はワシントン条約の他にも、SARDSや鳥インフルエンザの問題も
あってか、ますます鳥の移動は難しくなっていますし、営業面においても
食事中に動物や火気を使用することを嫌がるホテルも増えつつあるなど、
クライアントサイドから、あえてリクエストされるくらいのインパクトのある
アクトを作らない限り、動物を使ったマジックを演じることができる機会は
ますます減って行くことでしょう。

国内での出演に特化することを決めた私は、鳩、孔雀鳩、小型から大型
までのインコ・オウムと、さらに多くの鳥を集めてバードマジックの研究に
没頭して行きました…つづく。

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鳥の話 16

今回は鳥の話番外編として、鳥の移動手段のお話です。
多くの方々から「あれだけの鳥達と一緒にどうやって移動してるの?」
と聞かれます。

鳩ならば、よほど仲が悪くなければ複数の鳩を一つのケージに入れて
運ぶのですが、大型インコ・オウム、サイチョウの場合はそのサイズに
合わせて1羽づつ移動用のキャリーを用意しています。
キャリーは闘犬を運ぶ際に使用されるのと同様の頑丈なアルミ製です。

近隣のショーの場合は、道具や衣装と一緒の移動が普通ですが、少し
スケールの大きなショーであれば、近隣であってもイリュージョン等の
機材は前もって宅配便で発送しておき、当日は人間と鳥のみで移動する
ようにしています。

移動手段は車か飛行機のどちらかで、新幹線は利用しません。
新幹線は基本的にはペットの持ち込みは可能なようですが、ペット用の
車両やスペースがあるわけではないので、もし複数の大型鳥を持ち込ん
だら、周囲の乗客に多大な迷惑をかけることになるのは容易に想像でき
ます。鳥同士の呼び鳴きが始まったらもう手が付けられません。
同じ車両の乗客は、誰一人眠ることも会話することもできないでしょう。

飛行機の場合はペット料金が発生しますが、ペットを預かることを前提
としたサービスなので安心です。(ちなみに私はJALペットクラブに入会
しています。ポイントが貯まると1回のフライトが無料になります。)
料金は飛行距離によって違うようですが、福岡〜羽田間の場合ですと
1ケージが片道5千円ですので、テレビ収録で5羽連れて行くとしたら、
往復で5万円という計算になります。(いつも各地の空港ロビーでは注目
の的ですが…。)

数年前のあるエピソードを紹介しましょう。
石川県の小松空港で、鳥を預ける際にカウンター横にキャリーを置いた
ところ、1羽のコンゴウインコが「おはよう!こんにちは!」と喋り始め
ました。黙々と手続きの書類を確認している女性職員は、キャリーを一瞥
することもなく書類に視線を落としたまま、事務的かつ当たり前のように
質問してきました。

「お預けはワンちゃんですか?」

「はあ?」…これほど明瞭に話せる犬がいたら、私はその芸でテレビ出演
して、全国巡業で稼ぎまくっていることでしょう。

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鳥の話 15

以前にも述べましたが、私が大型インコ・オウムを飼い始めた頃は、慣れ
そうな鳥を選べる状況ではありませんでした。
稀少動物保護のワシントン条約の規定が厳しくなる前に輸入された老鳥も
多く、当時飼っていたスカーレットマコウ(3色コンゴウインコ)などは、
10年以上もペットショップで飼われていた鳥で、自分が飛べる動物である
ことさえ忘れているほどでした。
1993年前後は、とにかく素質の良い鳥に出会うために、多くの鳥を飼い
続けました。(仕方なく手放したり不幸にも亡くなってしまったりと、つら
い別れも多く経験しました。)

どんなに調教しても(そもそも調教の仕方が分からなかったのですが)、
飛んで戻って来るどころか、出現させるだけで精一杯で、ショーの度に噛み
付かれてしょっちゅう流血していました。(現在でもテレビ出演の映像を確認
すると指の絆創膏がはっきり確認できることがありますが、これは出番直前
に噛み付かれた証拠です。)

当時は10数分のアクトの中で、鳩6羽、タイハクオウム、ルリコンゴウイ
ンコ、ベニコンゴウインコ、ハルクインコンゴウインコを出していました。
飛ばして戻って来るのはまだ鳩だけでしたが、クライマックスに大型鳥が
立て続けに出現すると、もの凄い歓声が上がります。
こうなると最も注意しなければならない「営業ズレ」の気持ちが生じます。
「出すだけでもこれだけウケるんだから、飛ばさなくてもいいんじゃないか。
墜落して迷惑をかけて仕事が減る危険性もあるし…」と、調教を諦めようと
している自分を正当化してしまうのです。

そんなある日、マリック氏が福岡に来られました。仕事の合間を利用して
私の自宅に遊びに来てくださいました。
以下はマリック氏をバードルームに案内した時の会話です。

マリック氏 「うわぁ! 凄い鳥達だねぇ。こんなのが出て来たらウケる
でしょ?」

私 「もちろん! いつもかなりウケてますよ。」(自慢げに)

マリック氏 「こんな凄い鳥達を出せば誰だってウケるよ。その歓声や拍手
はあなたに対してではなく、鳥に対してだからね。それを忘れたらダメだよ。
単に出すだけではなく、自由自在に操れるようになった時に、観客は初めて
あなたを賞賛するんだよ。」

私 「……。」

確かに出すだけならば、それは超豪華なクス玉に過ぎないのかもしれません。
妥協してグラグラになって落ちかけていた皿回しの皿が、マリック氏の言葉
によって、再び勢いよく回り始めました。

飛ばしたコンゴウインコが初めて戻って来たのは、それから1年後でした…
つづく。

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鳥の話 14

ここで、鳩出しの代表的マジシャン達を2つのグループに分けて考察して
みましょう。

[Aグループ]         [Bグループ]
チャニング・ポロック     グレッグ・フリューイン
ランス・バートン       ジェイソン・バーン
ジェームス・ディメール    ジョナサン・デビット・バス

Aグループは、黒い燕尾服にクラシックなBGMで白い鳩を出現させる
伝統的なスタイルと言えるでしょう。
対してBグループは、燕尾服の色も黒にこだわらず、革製やカラフルな
衣装を着るなどして、テンポアップされた現代的なBGMで美しく染めた
カラー鳩を出現させます。
どちらが良いのかは好みの問題ですが、私はAグループの鳩出しの方が
好きというよりもしっくり来ます。
なぜなら元々がクラシックなために、時代が変化したり本人が年齢を重ね
ても芸とのズレが生じないというのが理由の1つです。
Bグループの演出は、新しいスタイルの衣装や道具やBGMを使っていても
「鳩」という素材だけが昔を引きずっているために、どこかでズレが生じて
いるように感じてなりません。
また、鳩を染めるのは現象を鮮やかに見せる狙いもあるのですが、派手な
衣装やBGMに鳩の方を合わせている感じも否めません。

80〜90年代前半にコンテスト荒らしをしていたジェームス・ブランドン
は、それこそ宇宙戦士のような前衛的なスタイルで、派手な剣を手に火花や
煙の効果を用いながら鳩を出すのですが、ステージに登場した瞬間だけは
「あっ新しい」と思っても、残念ながら鳩が出た途端に昭和を感じてしまう
のです。

動物を用いたマジックの場合、マジシャンが未来志向の演出にこだわっても
そのこだわりに合った新種の生物が誕生するわけではありません。
あくまでも現存する動物を使うしかないのです。(ジャック武田氏以外は)

私も染めた鳩を使っていた時期がありますが、特にBグループのマジシャン
達のように新しい鳩出しをやろうとして染めていたわけではありません。
数羽のカラー鳩をボックスに入れると、それらの色が融合したように一瞬
にして鮮やかなコンゴウインコに変化するという現象のためでした。
いわゆるブレンドシルクの現象なのですが、何度か演じているうちに大きな
マイナス面に気づいて止めてしまいました。
鳩の色が染めたものであることは観客も理解しているようでしたが(かなり
毒々しい原色に染まりますから)、そのことによって、何も手を加えていない
天然で鮮やかなコンゴウインコまでもが、染めた色だと誤解されたのです。
(すっぴんで美しいのに厚化粧だと思われたら不憫ですよね…例えとしては
説得力あるのかな?)

別に鳩出しに限らず、熟考せずに「いいこと思いついちゃった!」とばかりに
膝をポンッと叩いて行動すると、必ず矛盾が生じます。
マジシャン仲間が「それいいねえ」と誉めてくれても、本当におかしいことは
観客の方が教えてくれるものです…つづく。

[追記]
どうやって鳩を染めればいいのでしょう? 
私の場合、初期は食品を染める塗料を筆で塗っていたのですが、時間を
要するうえにムラが出る欠点がありました。その後大手のペットショップ
で、プードルの耳や尾をピンポイントで染めるスプレーを見つけて使用して
いました。色も青や緑やピンク等多彩なバリエーションがありました。
(ゴールドとシルバーだけは、微妙なので使ったことはありません。)
現在は販売されているかどうかは知りませんが、興味のある方は探してみて
下さい。

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より以前の記事一覧