マジック

舐められるんだよなあ

少し前の記事です…帰国したパリ五輪のメダリスト一行が首相官邸を表敬訪問
して岸田首相と対面した際に、室伏スポーツ庁長官がブレイキンの初代女王に
輝いたAMI選手に対して「即興が得意ということであれば、ちょっと場を和ますと
いうか(披露するのは)いかがでしょうか」と、その場でダンスを披露することを
促した…。

首相の前でもあり、命令とまではいかないまでもスポーツ庁長官からの依頼に
AMI選手はさぞかし困惑したかと思われたが「すみません…拍手をいただいて恐縮
なんですけど、スーツでは踊れないのでまた機会があれば…すみません…お願い
致します」と断ったとのこと。

この室伏長官の無茶振りに、SNSでは「金メダリストに対してリスペクトがない」
「宴会で上司が部下に一発芸を要求しているみたいでパワハラだ」「ハンマー投げて
みろと言われたらやるのか」等々、非難轟々で炎上したようです。

別に庇うわけではありませんが、室伏長官は内心を察するに、「こんなの競技
じゃなくて遊びだろ、ちょっと踊ってこの場を盛り上げろよ」…てな感じで、
「舐めていた」というのが想像に難くありません。

確かに炎上して当然の事象なのですが、まあ大きな声では言えませんが(小さな
声では聞こえませんので)、昭和生まれの私から見ても、なんで個人が遊びで
やってるようなことが正式な種目になったのだと思う競技が散見されるわけで
…おまけに何故AMIなんて芸名のような名前で登録できるのだろうと思ったりも
するわけで…。(ブレイキンは次回ロス五輪では行われないとのこと)

翻ってマジシャンの場合…こんな扱いは日常茶飯事で、炎上なんて有り得ない
んですよ。

対談番組やクイズ番組で歌手が歌うことを求められなくても、マジシャンであ
れば必ずひとネタやらされるのがお約束ですからね。
爪痕を残すためには当人がオイシイ場合もあるし、ネタを披露しないとアイデ
ンティティが保てないということもあるでしょう。

私も若い頃は目上の人(マジシャンではない)と行動した際には、行く先々で
「ちょっと見せてあげてよ」と無茶振りされることはしょっちゅうで、やれば
やったでその人が「な、面白かっただろ?」と見た客に恩を売ることもあったし、
単なる宴会の出席者のつもりだったのに、突然マジシャンとして紹介されて
「はい、拍手~」と、まるで罠に嵌められたようなこともありましたね。

ここを読んでいるマジシャンの方々であれば、まさに「マジシャンあるある」で
一晩中盛り上がるほどのテーマではないでしょうか?

もうこんなことは自分には降りかからないだろうと思っていたら、つい最近あり
ました。
コロナ以前は個人的に利用していた有名な高級レストランからメッセージが…
「この度25周年のイベントを開催するにあたってZUMAさんを無料で招待します
ので最高の料理を堪能してください…で、お願いと言ってはなんですが、少し
だけマジックをやっていただければ…」

やるわけねーじゃん…やっぱ舐められるんだよなあ。

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持ち家派? 賃貸派? 3

賃貸に住んでいた頃の私はビクビクしながらこっそりと鳩を飼っていたので、
一戸建ての持ち家に住み始めてからは誰にも気兼ねすることなく多くの大型
鳥を飼育し、バードアクトの完成に向けて自身の稽古と鳥の調教に傾注でき
ました。

現在ではテレビでバードアクトを披露した効果で仕事のオファーがあったと
しても、肝心の仕事の現場が動物の持ち込み厳禁という場合がほとんどです
から、収益効率が悪い分野のマジックとなってしまいましたが、当時はコン
プライアンスも緩い時代ということもあって、ホテルはもちろん様々な会場
やテレビでバードアクトを演じ続けて潤沢な報酬を得ることができたので、
30代半ばで一戸建ての元は取れました。
時代との縁やタイミングがあるので、あと10年早くても遅くてもここまで
順調にはいかなかったと思います。

あれから30年以上が経ち、今や福岡にも多くのマジシャンとマジックバーが
ひしめき合って群雄割拠、玉石混淆の状態ですが、独自のブランディングを
構築して他のマジシャンに侵食されにくい市場開拓と収益効率を高めること
ができたので、演出をパクられる程度の被害のみで安売りのバトルロイヤル
には巻き込まれずに逃げ切れたのではないかと分析しています。

九州における福岡というのは日本における東京のようなもので、福岡以外の
九州の地方のマジシャンはあたかも上京する感覚で「とりあえず福岡に行けば
なんとかなるだろう」という感じで集まるので、色んな意味で活気はあります。
現に九州では福岡だけが流入人口が流出人口を上回っています。
また今年の地価公示では地価上昇率は福岡が全国トップです。
そして現在インバウンドで盛り上がり、全国の都市の中でも全てがコンパクト
にまとまって食べ物が美味しい福岡は最も住みやすい街だと云われるように
なりました。

我が家の立地においては、地下鉄延伸に伴う利便性の向上(自宅から最寄りの
駅まで徒歩1分、博多駅まで13分、福岡空港まで30分)と同時に資産価値も
上がったのか、実際に沿線の住宅価格や分譲マンション価格も爆上がりして
いるし、ポストには頻繁に自宅を売却する予定はありませんかとのチラシが
投函されています。
郊外であれば老後は一戸建てを持て余して都心のマンションに引っ越す例も
あるようですが、今のところは固定資産税が上がったとしても、元気でいる
限り終の住処と決めています。

今回の考察を書きながら感じたのは「住まい選び」よりも「街選び」が重要だと
いうこと。
街の価値が上がれば自ずと住まいの資産価値も上がるからです。
還暦を過ぎて回想すると、マジシャンとしての将来を見越した戦略の具現化
のために、この地に家を建てた選択とその後の戦術が功を奏しました。

結論…持ち家とは自分を顧客とした最も確実性の高い賃貸事業だと思います。

そうそう、新築して数年後にあのオウム真理教事件が勃発して、オウムを沢山
飼っていた我が家は「第7サティアン」と揶揄されたことも懐かしい思い出です。
(若い人は知らないだろうなあ)

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持ち家派? 賃貸派? 2

前回からの続きです…

前回は「持ち家」と「賃貸」それぞれのメリットとデメリットについて書きまし
たが、今回はマジシャンとしての私が「持ち家派」である理由を吐露します。

高校卒業後2浪した後の1983年、大学入学を機に福岡に住み始めてすぐに気づ
いたのは、宮崎の田舎出身の私にとっては圧倒的な都会なのに、私がイメージ
する「本格的なマジシャン」が皆無であったこと。(この頃はサコー氏は福岡を
離れて上京していました)
福岡ですらそんな状態だったので、九州全体を見渡しても、腹話術を兼ねた
泥臭いプロや地方都市にありがちな水商売(現在のマジックバー)が主戦場の
セミプロ程度の人しかいませんでした。

そんな大都市なのに未開拓に等しい市場でアルバイト感覚で営業活動を始める
と、有り難いことに学生マジシャンにすぎない私に頻繁に声がかかるようになり、
数年で営業シェアをほぼ独占できたことで、これを手放すのはもったいないと
思い始めて、大学卒業後もシェアを維持するために福岡に居を構える決心が
つきました。(この時点では持ち家か賃貸かは決めておらず、福岡に住み続ける
ことを決心しただけです)

ちょっと話題は逸れますが、その結果、縄張りに拘泥する九州の諸先輩方から
「大学を卒業したらプロなんかならずに、さっさと故郷に帰って家業を継げよ」
とか「もしプロ活動を続けるなら俺たちと出し物やギャラを合わせろよ」などと
強要されたりもしましたが、なんとさもしい考え方なのだろうと呆れた記憶
があります。
保身に必死で切磋琢磨しようという気概も皆無なのです。

閑話休題…少々無理をして20代後半で家を建てたのは「複数の大型鳥を飼って
バードアクトを完成させたい」という明確な目標を設定したからです。
一時は分譲マンションも考えて何軒か内見まで行ったのですが、「資産形成」を
考慮すると、土地のある一戸建てという結論に落ち着きました。
また大型鳥は鳴き声もハンパないため、分譲であっても集合住宅では飼いづ
らいことは容易に想像できたので、最終的には一戸建て以外の選択肢はあり
ませんでした。
鳥の数が増えたことでリフォームして、8畳の鳥専用ルームを造れたのも持ち
家ならではのメリットでした。

住宅は「買いたい」と思った時が「買い時」だと思います。
重要なのは目先の損得勘定で買うのではなく、自身の人生の中で「買い時」を
見極めることです。
一般的な「買い時」としてよく言われるのが「結婚した時」、「子供ができた時」
などで、これらは家族が増えることでそれまでの住まいが手狭になった時と
言えるでしょう。
私の場合は「バードアクトをやる!」(大型鳥という家族が増える)と決めた時
というわけです。

住宅は生活拠点ですから、人生の大きな分岐点で決断することは悪くないと
思いますが、必ずしも「買う」という選択に縛られる必要はないと思います。
富裕層は別として、大抵は住宅ローンを組んで毎月の元利金(元金+利子)返済
が長期に渡って重くのしかかることになります。
若くして住宅を買うことは、早く資産を手に入れて、のちの人生が楽になると
考えがちですが、一方では今の生き方を変えたいと思う時が来てもローン返済
が足枷となって動きがとれなくなる恐れもあります。

これからの時代はたとえ正社員であっても一つの会社で定年まで勤め上げる
人生モデルではなくなってきています。
転職等の人生の分岐点においてはローンという足枷は決断を躊躇させます。
マジシャンを含むフリーランスにおいては、日常的に不安定な上にさらに
大きな紆余曲折が待ち構えていることが多いので、楽観的に考えたり一時の
勢いに任せて突っ走ることがないようにすることが肝要でしょうね。

次回3に続く…

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持ち家派? 賃貸派? 1

現在自宅の外構リフォーム真っ只中なので、今回は「家」について考察します。

最近のニュースによると、都内の新築マンションの平均価格が1億円を超えた
とのこと…いやはや、地方在住の私としてはビックリ。

ところで、持ち家か賃貸か…住まいをめぐる永遠の課題です。

はたして50年間にかかる総費用は…三井住友トラスト・資産ミライ研究所が
首都圏の資産結果をまとめています。
持ち家の固定資産税や修繕費、そして賃貸は2年ごとの更新料なども加えて
総額をシミュレーションした結果、持ち家は8310万円、賃貸は8235万円…
その差わずか75万円です。
しかし50年という長期間で見ると、金利がわずかに動くだけで総負担額は
大きく上下するでしょうね。

持ち家は購入時の頭金や老朽化時の高額な修繕費が突然必要になることが
あるし、分譲マンションでは修繕積立金を払っていても大規模修繕の際には
積立金が不足して住民の意見がまとまらずに揉めることも多いようです。
さらに持ち家の問題点は、迷惑な隣人がいたり、日照権の問題や近隣の
環境が悪化しても簡単には引っ越せないこと。

では賃貸の問題点は何か…それはズバリ「老境に入っても支出がコンスタント
に続くこと」
持ち家はローンが完済すれば総じて支出は抑えられますが、賃貸は家賃を
ずっと払い続けなくてはならないので、高齢になって収入水準が下がった
時のことを考えると、この差は無視できません。
賃貸契約をずっと続けられるかは、後ろ盾のないフリーランスにとっては
大きな不安材料です。
孤独死の問題もあって、賃貸オーナーの約7割が高齢者の入居に拒否感を
抱いています。

対策として賃貸ならば持ち家と違って突発的な支出が少ないので、計画的
に長期投資ができる利点を生かすことで老後までに一定の金融資産を形成
して、通常の物件が借りにくくなった時には速やかに介護施設に移る選択肢
も持てるはずなので、若いうちからの準備が大切でしょうね。

一方、住宅は「資産」でもあるので、老後は売却して介護施設の入居費用に
充てることができます。(ただし築年数が長い家屋の価値はほとんどありま
せんから、主に土地が資産となります)
あるいは住宅を担保に生活資金を借り入れて生活し、その後亡くなったら
住宅を返済に充当するというリバースモーゲージという選択肢もあります。

もちろん資産価値は立地などに左右されるとはいえ、賃貸ではこのような
「不動産としての資産形成」はできないので、私は絶対「一戸建ての持ち家派」
なのですが、職業やライフスタイル、突き詰めると個人の生き様でもある
ので、正解は無いのかもしれません。
若くして将来像を描ければいいのですが、一念発起して脱サラや転職したり
突然田舎から上京することもあるわけで、人生には紆余曲折がつきものです
から未来を予測するのは難しいですよね。

ちなみにペット不可の物件でこっそり鳩を飼っているマジシャンは、近隣
から苦情が来ないか、大家に見つかるのではないか…と戦々恐々としてい
ます。(賃貸に住んでいた時の私がそうでした)
私が「持ち家派」なのは資産形成が目的であることは既述しましたが、実は
マジシャンとしての未来予想図を早々に描いていたことが理由だったのです。
…それは次回2で。

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Mr.マリック超魔術団2024

3月20日、日本橋三井ホールで開催されたMr.マリック超魔術団2024を鑑賞。
昨年に続き、今年も福岡のマジシャン達、東京のマジシャン達、札幌の友人
とも合流しての参加となりました。
今後3月30日に滋賀、4月20日には大阪公演と続くので、演目やゲスト等の
具体的なレビューはネタバレになるのでここでは割愛しますが、マリックさん
と愛娘のLUNAさんとの初共演や、テレパシー、念動、透視、予言等のテーマ
別に演じる超不思議な現象のオンパレードは圧巻で、見どころ満載のショー
でした。

常に新しい演目にトライし続けるマリックさんの向上心とエネルギッシュな
立ち振る舞いには感心しきりでした…なにしろマリックさんは後期高齢者です
からねえ。
プロとしてのニーズがあって途切れることなく第一線で活躍することを具現化
している生き様は、他の仕事にも格好のお手本となるはずです。

さてショーの後は総勢9人のマジシャンで打ち上げ…ショーの感想をメインに
夜更けまで盛り上がりました。

実は20日のショー当日は全国的に強風が吹き荒れて、福岡発の飛行機が羽田
に着陸できない時は福岡に引き返すか大阪伊丹空港に着陸する可能性がある
とのアナウンスが…結局は1時間遅れでなんとか羽田に着陸して安堵しました。
ホテルチェックイン後はすぐにGINZA SIXのフランクミュラーに立ち寄り、
気になる新作時計で目の保養をしてからショー会場に向かいました。

翌朝は顔を洗っていた午前9時過ぎに地震が…ホテルの部屋は10階だったので
結構揺れましたね。
帰りの飛行機は遅れもなく、帰宅後はすぐにリフォーム業者との打ち合わせ。
こちらはトラブルなく進行してもらいたいものです。

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仕事の誇り

自分が携わっている仕事にどれだけの誇りを持てるのかは、モチベーション
を維持する上で重要な要素です。
マルチワーカーとしての私は、マジックを始めとするすべての仕事に絶対的
な誇りを持って向き合っています。

ところで「3人のレンガ職人」という寓話を聞いたことはありますか?
出典は諸説あるようですが、概ね次のような内容です。

旅人が、建築現場でレンガを積んでいる職人に「何をしているのか」と聞いた。
1人目は不機嫌そうな顔で「見ればわかるだろう、命じられてレンガを積んで
いるのだ」と答えた。
2人目は「家族を養うためにレンガ積みの仕事をしているのだ。良い収入に
なっている」と答えた。
3人目は誇らしげな表情で答えた…「私はこの街の大聖堂を作っているのだ」

つまり作業自体は同じであっても、本人がそれをどう捉えているかによって
仕事の誇りは全然違ってくるということです。

さて、最近のマジック業界では「チップを強要する押し売りマジシャン」の
話題が喧しいようですが、そのようなマジシャンは「流し」であれ「お店」で
あれ誇りのかけらすらなく、どのレンガ職人にも当てはまらず、ただ迷惑を
撒き散らす横柄な乞食なのです。
「たかがマジック、されどマジック」ではなく、「たかがマジック、う〜ん、
ちょっと考えたけど、やっぱりたかがマジック」などと舐めているのでしょう。

バレバレのチップの強要(フォース)にエネルギーを傾注するくらいなら、
正当なマジックのフォースを色々と勉強した方が将来の役に立つのになあと
思うと残念でなりません。

マジックは誇りをもって取り組めば、ちゃんとリスペクトされる職業なのです
から…。

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言霊ブーメラン

前回は典型的なネガティブなブーメランの例について書きましたが、今回は
自身も実践してきたポジティブなブーメランについて…それは言霊ブーメラン
とも呼ぶべきもの。

前向きな言葉を口にすることで、物事が上手く進んで願いが成就するという
例は枚挙に暇がありません。
ただ、日本人特有の奥ゆかしい国民性と金融リテラシーを教えることがない
日本の教育システムの弊害なのか、「金銭欲や自己顕示欲があることを口に
するのは良くないことだ」と感じる人が多いのは否めませんね。
残念なことに日本では、「お金を稼ぎたい」などと欲望を口にすること自体が
「品がない」と思われてきたし、最近はむしろミニマリストのような禁欲的な
生活がもてはやされることもあります。

しかし、よく考えてみてください…物事に挑戦し続けられる原動力は純粋な
「欲望」であることがほとんどではありませんか?

正直に吐露すれば、私は生々しい欲望を口に出して(時には脳内で音声に変換
して)自身に言い聞かせてきました。
また退路を断つ意味で第三者に向かって宣言することもありました。(禁煙や
ダイエットにはこれが有効ですね)
「アマチュアのうちにコンテストで優勝したい」、「プロになって理想のアクト
を完成させたい」、「大型鳥を沢山飼いたい」、「いつかはあのイリュージョン
を演じたい」、「家を建てたい」、「一流ホテルでディナーショーをやりたい」、
「あの番組に出演したい」、「欲しかった腕時計を着けたい」、「憧れたクルマ
に乗りたい」…欲を出せばきりがありませんし、世の大成功者と比較したら
俗物でちっぽけな欲望かもしれませんが、40年という歳月はかかったものの、
言霊ブーメランのおかげなのか、これらは不思議と成就しています。

「若いうちは経験にお金を使う」という考え方と「老後に備えてお金を貯める」
という考え方は相反していますが、貴重な経験をするチャンスを捨ててまで、
必ず来るとは限らない老後(早死にするかもしれません)への備えを最優先する
べきではないと思います。
マジシャンでも早くスタートしないと悔いが残ることは多くありますね。
やっとイリュージョンを揃える余裕ができた時には、パフォーマンスや運搬の
体力が落ちていることだって有り得ます。

人生のゴールデンタイムは短いのだし、やりたいことや入手したい嗜好品が
あるならば、ちょっと背伸びをしてみるべきだと思います。
プロフィールや人生のストーリーが薄い人は、学びや経験をあまりしてこな
かった証左です。
人生の晩年を彩ってくれるものは、お金や地位や名誉ではなく、それまでの
人生経験と思い出なのです。(修羅場すら思い出と感じられれば、良き人生
だったはず)

自分が口にした言葉を最初に耳にするのは自分自身です。
実現のための前向きな言葉は他の誰のためでもなく、自身に戻るポジティブ
なブーメランとなるように、意識して口にするべきではないでしょうか。
立ち上がる時に「よいしょ」ではなく「よし!」と発すれば、その後の動きは
全然違うはずです。

言葉には力があります。




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ブーメラン

そもそも「ブーメラン」というのは、投げると回転しながら弧を描いて飛んで
自分の手元に戻って来るオーストラリアの先住民発祥の道具のことですが、
近年では、相手に投げかけた発言が自分に返って来るために、スラングの
「ブーメラン」や「特大ブーメラン」という表現で広く使用されるようになって
います。

今年の代表例としては、福島原発の「ALPS処理水」のことを中国政府が政治
利用の思惑から「核汚染水」と呼んで日本からの海産物の輸入を全面的に禁止
して恐怖心を煽ったために、中国の消費者が中国産も含めた海産物を敬遠、
回り回って、中国の漁業関係者が苦しむ事態となってしまいました。
特大ブーメランのお手本のような事象です。

中国の原発は福島原発よりもはるかに多いトリチウムを放出しているのに、
中国政府はその事実を隠微、ネット上の情報も遮断して自国民の多くは事実
を知らされないままなので、街頭インタビューでは日本批判を繰り返してい
ます。
そのくせ海外旅行先としては日本が最も人気があり、インバウンドで押し寄
せた中国人観光客は、日本の寿司を喜んで食べています。
中国の漁船は日本の領海内で違法操業を繰り返し、中国の港で水揚げしたも
のは中国産だと言い張って安全性を強調する始末。
日本政府には中国政府に対して、この矛盾を説明するように、声を大にして
抗議してもらいたいものです。

また、某お笑い芸人が当て逃げ事故を起こして当面の間は活動自粛となりま
したが、7年前に別の芸人が当て逃げで書類送検された時にコメントを求め
られた際には、「なんで車から降りて謝罪せえへんかったんやろ。しっかりと
反省してほしいですね」と発言していました。
今回はその発言主が当て逃げ事故を起こしたということで、ネット上では
この時の発言がブーメランになったと呆れられています。

ところでマジシャンとして仕事をしていると、クライアント側からそのイベ
ントの主旨にちなんだ演出や出し物をリクエストされることがあります。
例えば、誕生日パーティーでマジックでケーキを出して欲しいとか、20周年
のパーティーなので20という数字を使ったマジックをやって欲しいとか、
特定の衣装やコスプレでサプライズな演出をして欲しいとか…マジシャン
あるあるではないでしょうか?
これらは、プロフェッショナルだからこそ実現させてくれるのではないか…
という期待感とリスペクトがあってこそのオファーなので、プロとしては
誇るべき仕事のはずです。

ところが10年ほど前でしょうか、あるマジシャンがこんな主張(豪語)をして
いました…「イベントの主旨に合わせたウケ狙いのメッセージを出したり、
クリスマスだからサンタのコスプレでマジックをするなんてのは素人臭い。
それは媚びているだけだ。つまり本物の芸がない証拠だ」

自分も含めてプロマジシャンというのは各々の戦略があるので、どのような
条件の仕事を受諾しようが断ろうが自由であって、そこに関しては芸の云々
は関係ないはず。
それにしてもこの主張は、多くの同業者の生き様を否定するあまりにも歪な
考えだし、当人はどれだけ立派な生き様を晒しているのだろうと感じたので
記憶に残っていたのですが、どういう風の吹き回しか、そのマジシャンが
誰かに媚びたのか…イベントの主旨に合わせたコスプレで嬉々として舞台に
立っていたという情報が入りました。

他人に厳しく自分に甘い…そんな厚顔無恥なショーを観たいとは思いませんが、
きっと媚びた笑顔を振りまいていたであろうことは容易に想像がつきます。
もうすぐクリスマスですが、そのマジシャンが臆面もなくサンタのコスプレ
をしたとしても、もはや違和感はありませんね。(生活のために意に反しての
忸怩たる想いでのコスプレであるなら、憐憫の情を抱かざる得ませんが…)

機会があれば、ぜひ特大のブーメランが頭に刺さったコスプレを期待したい
ところです。







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収益効率 7 [日用品と嗜好品]

最終回です…

スーパーカーも高級腕時計も宝飾品も一流ブランドの服も、言ってしまえば
生きていくためにはこの世に無くても困らない不要不急の嗜好品です。
だからこそWTP(支払い意思額)の考え方に沿って付加価値を高めて収益効率
を上げることが当然のビジネスモデルとして確立されています。

たとえスーパーカーを購入する層であっても、例えばトイレットペーパーの
1巻が1万円だとしたらバカ高いと感じるように、日用品であれば常識的な
価格設定があらゆる層に認識されていますが、嗜好品の価格はそれが欲しい
人次第では青天井なのです。
興味がない人から、「あんなものに金を使うなんて考えられない」と思われても
本人の「支払い意思額」は強固です。(マジック道具に金をつぎ込む人達の多くは
家族の理解すら得られておらず、本人が亡くなった後はゴミ扱いです)

嗜好品を買う時はワクワクするのに日用品を買う時はワクワクしません。
不要不急の嗜好品には「ワクワク感という付加価値」があり、そこに重きを置く人
はそれに対しての出費は厭わないものです。
つまりワクワク感はプライスレスとも言えるでしょう。

では、見る人をワクワクさせるマジックショーも不要不急のもの(嗜好品)である
以上、WTPの考え方が当てはまるはずですから、マジシャンの側からわざわざ
「マジックを身近で気軽に楽しめる世の中にしたい」などと大義名分を掲げて
大衆化路線(日用品)に向かうことには私は大反対です。
投げ銭目的の路上パフォーマーならともかく、本音では安売りをしてでも生活
費を稼ぎたいだけであって、それではカッコがつかないから何かと大義名分を
を掲げようとするのです。(本音をパームしてもフラッシュしています)

マジックを始めようと思った時点で、少なからず「目立ちたくてええかっこしい」
という部分を内包しているのですから、それを糊塗して「お客様の笑顔のために」
とか「社会貢献」などと臆面もなく口にする人間を簡単に信用するべきではあり
ません。
安直なパクリ屋、虚言癖のある者、経歴詐称をする者、情けない罪状による
前科者など、魑魅魍魎が何事もなかったかのように平然と跳梁跋扈している
のがマジック村なのです。

マジックを好き過ぎる人は、その濃厚な曇りガラスに視力と洞察力を阻まれ、
大げさに言えば「マジックが好きな人に悪人はいない、皆友達」という具合に
「お人好しなクルクルパー」になってしまい、「マジック大好き」とか「あなたを
尊敬しています」と押印されたパスポートを提示されただけで、心の税関を
開放して入国させて、その挙句に簡単に秘密を搾取されたり裏切られたり
するのです。(かくいう私も人を見る目がなかったのか、過去幾人かを入国さ
せて後悔している一人です)

つい愚痴ってしまいましたが、閑話休題…マジシャンの社会的地位を向上
させようという意識さえあれば、「このマジシャンならここまでのギャラを
払っても構わない」というWTPを成立させることをビジネスモデルの一つと
して頭の片隅に置いておくべきであるし、せっかくマジックを生で観るので
あれば、それなりの場所でそれなりの対価を払う「特別な体験」であるべき
だと思います。

そもそもマジックが日用品ではなく嗜好品であることは、収益効率を上げる
ための大きなアドバンテージであるし、マジシャンはそれを誇りに思うべき
なのです。

収益効率…終わり

真摯なご意見、ご質問がある方はこちらまで…drzuma@mac.com

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収益効率 6 [ブランディング]

前回からの続きです…

収益効率を世界の自動車メーカーの「株式時価総額」の順位づけから考察して
みましょう。

テスラの1位とトヨタの2位は不動なのですが、面白いのは7位と8位を行きつ
戻りつしているのがホンダで、競い合いの相手はなんとフェラーリなのです。
年間販売台数が1万台強しかなく、しかもトレンドであるEVを売っていない
のにフェラーリの評判が高いのは何故なのでしょう?

2022年度のデータでは、出荷台数はトヨタの800分の1なのに、1台あたりの
利益率は53倍もあるのですから、もの凄い収益効率です。(マジックで例えたら
トランプ1組でトラック1台分のイリュージョンショーに匹敵するイメージです)
世界的なEV化の流れは今後も変わることはないので、フェラーリも数年後に
はEVを造る方向のようですが、内燃機関つまり新車として出回るエンジン車
は減少に向かう一方で、伝統的スポーツカーの希少価値は益々高まるのでは
ないでしょうか。

また近年は、入手困難な旧車の人気が沸騰していますが、私のマジックにおい
ても(特にクロースアップ)30年以上前に銀座のクラブで演じてきた演目ほど今の
観客にとっては新鮮味があるようで、最新のマジックよりも遥かに反応が良い
ことを体感していますし、当時のマジックを若手マジシャン達に演じてみると、
初めて見る現象なのか、全く追いついてこれないことも多々あります。

私はマジックビジネスに紐づけられることは貪欲に勉強する方なのですが、
最近気になっている分野があります。
それはWTP(willingness to pay)…「支払い意思額」という考え方。
これは製品やサービスに対して、消費者が喜んで支払う価格のことを表します。
つまり「いくらまでなら消費者はお金を出していいと思うか」を示す金額のこと
なのですが、フェラーリはそれがズバ抜けて高いのですよ。
圧倒的な支持者のみを対象にクルマ造りに専念しているのであって、「クルマは
走れば十分、バカ高いクルマなんて見栄っ張りが欲しがるだけで興味はない」と
いう価値観の違うルサンチマンこそ、フェラーリ側からすれば顧客として扱う
意味も価値もない存在なのです。(高級腕時計の世界も同じですね)

フェラーリのビジネス哲学を何かの本で読んだことがあります…それは枯渇感
を煽って価値を高めるために「欲しがる人の数を想定して、それよりも1台少な
く製造する」ということ。
分厚い利益の源泉は「ブランド力」という無形資産であって、こればかりは日本
の自動車メーカーに決定的に欠けてきた部分でしょうね。
日本のクルマはステータスやラグジュアリーよりも適正価格で故障が少ない
ことを売りにしてきたために、ブランディング構築がおろそかになっていた
のです。(可能性があるとしたらレクサスくらいでしょうか)
要はコスト削減で利益を追う企業と、巧みなブランディングをして高収益を
獲得する企業に分かれているのです。

翻ってマジック業界…「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ではありませんが、複数
のイベント業者に籍を置かせてもらって、どの業者のホームページにも同じ
宣材写真が出てくるマジシャンは、その戦略の先に何か大きな展望があるの
でしょうか?(カーセンサーの中古車一覧にしか見えません)
まあ、それで収益効率が上がっているのであれば何も言うことはありません
…物言えば唇寒し秋の風。

「このマジシャンならいくらまでなら出せるか」というWTPを念頭に、マジシャン
も他業種のブランディングを学ぶべきなのです。

次回7へ続く…

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より以前の記事一覧