マジック

四天王

四天王…元々は仏教用語で、帝釈天を中心に集まった四人の神々のことを
指し、ここから転じて四人の実力者のことを揃って、四天王と称する。

…とまあ、概要としてはそういうことなのですが、使い方としては昔の番組
ではものまね四天王がいたり、アニメやウルトラマンシリーズにおいても、
豹猫四天王や暗黒四天王などのように使われることで、その世界観に重みや
威厳をトッピングするのに重宝されているのだと思います。

私も好んで使うことがあります…まず「してんのう」という響きがいいですね。
数字も三でもなければ五でもない、あえての四…トップ4、ベスト4でもいい
のでしょうが、やはり四天王の文字構えと響きには重みがあります。

いちいち口に出したり表明するほどのことではないのですが、私は自分を
取り巻く森羅万象に対して密かに四天王を決める癖があります。
例えば腕時計コレクションの中での四天王、好きな服飾ブランドの四天王、
お気に入りの外食先の四天王…といった具合。(外食先は昨年一軒閉店した
ので、現在は三天王のままです)

ところで、プロマジシャンとしての人生を歩む中で最も重視すべき指標は
一般客の評価であり、それがあってこそ生活が成り立つわけですが…とは
言えマニアとしての功名心というのもあって、たとえお金にならなくても
世間での知名度が上がらなくても、同業者からの賞賛とリスペクトが欲し
くなるのがマジシャンとしての性なのです。
だからこそコンテストに多大なエネルギーを注ぐ時期もあるのでしょう。

しかし同業者の全てから好かれよう、賞賛されよう、リスペクトされよう
なんて土台無理な話です。(どんな世界でもアンチは存在します)
私はマジックに向き合う際のモチベーションを維持するために、頭の中で
勝手に決めた8人のマジシャンから認められればいいと思っています。
それは「先輩マジシャン四天王」と「後輩マジシャン四天王」の計8人。
つまり、「自分がリスペクトする4人の先輩から凄い後輩だと認められたい、
そして自分が凄いと思う4人の後輩から凄い先輩だとリスペクトされたい」
という理由で決めているのです。(あえて本人に告げることはありませんが)
この8人から認められさえすれば、マジシャン冥利に尽きるのであります。
逆を言えば、自分がどうでもいいと思っている人からは、たとえ否定され
ようが貶されようが構わないのです。

当然のことですが、先輩は増えないので4人はずっと固定されていますが、
後輩は増える一方なので時々入れ替わることもあるのです。(あくまでも
私の脳内でアップデートとシャフルされているだけです)

考えてみると、自分の実生活の中で最も頻繁に入れ替わる四天王は…
中洲のお気に入りのクラブ四天王ですかね。

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資格ビジネス?

「本年6月からはマジックショーで動物を使う場合は家庭動物管理士の資格が
必要になる」という情報が入って来ました。
動物を使うマジシャンにとっては死活問題になりかねないことですが、率直
な感想は、「はぁ? なんじゃそりゃ?」

まずその資格自体を知らなかったので調べてみると、全国ペット協会が認定
している制度で、ペットのプロの育成を目的として、資格取得者は全国の
ペットショップやペット関連事業所で活躍しているとのこと。
管理士3級を受験して資格を取得するのに4万円が必要で、2年毎の更新らし
いです。

将来ペット関連事業を始めることが目的ならいざ知らず、これはマジシャン
にとって「必須の資格」なのでしょうか?
ファイヤーマジックを演じる際に火薬類取り扱い保安責任者の資格が必要と
いうのならまだ理解できますが…早い話が単なる資格ビジネスではないのか
なと思います。

マジシャンがわざわざこの資格を取得するとしたら、その本心は営業依頼を
受けやすくするための「信用」として利用することが第一義で、いかにも権威
ある国家資格の雰囲気を醸し出して「しっかりしている感」をアピールしてい
るだけのような気がします。
何の影響力もない互助会的な組織の「正会員」みたいなもので、特にドヤ顔
するほどのことでもないでしょう。

まあ、このような資格ビジネスがまかり通る一因としては、動物に芸を教え
込むこと自体が「虐待」ではないのかという動物愛護の観点もあるのかもしれ
ませんが、それならば動物をショーで用いるマジックショーの他、サーカス、
猿回し、イルカやアシカの曲芸ショーなど、あらゆる動物系エンタメが包括
されてしまいます。

しかし、全国のマジシャンの演技をいったい誰が監視をして、誰が違反だと
判断するのでしょうか?
もし違反をしたらプロマジシャンの資格を剥奪するというのなら興味深いで
すね…なにしろプロマジシャンになるには何の資格も必要ないのですから、
何を剥奪するのかなと。

ある意味、マジシャンは失うものが何もない「無敵の人」なのです。

今後マジシャンになるために、あれこれと資格が必要な時代になるとすれば、
いっそのことそれらの資格を活かしてマジシャン以外の道で食べていく方が
安定しそうな気がしますが…。

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ギャラ交渉は苦手?

あらゆるものが値上げされる中、6月からは電気料金がさらに上がるようで
すが(幸い九州電力は今回の値上げはないようです)、それに呼応するかの
ように企業の給与もアップしている昨今(一流商社の初任給は軒並み5万円
のアップ)、マジシャンもギャラアップの交渉をしているのでしょうか。

「お金じゃない、夢だ笑顔だ感動だ」と宣う人は、物価の動向とは関係なく
生きていくことを是としているわけですから、特にこだわりはないでしょう。
マジックができて最低限度の生活費さえあれば十分幸せなのかもしれないし、
他に潤沢な収入源があって、マジックのギャラなんて眼中にないのかもしれ
ません。

マジックバーや飲食店で雇われている立場の人は、ギャラアップは言い出し
にくいのではないでしょうか…なにしろ主戦場であった飲食店もこの3年間
のコロナ禍で青色吐息だったはずですから。
都会の一部のマジックバーでは、できるだけ多くシフトに入れてもらいたい
マジシャンのレギュラー枠の奪い合いもあるようですからね。
マジックバーの一晩の報酬は、30年前からたいして変わっていないとも耳に
しますが、若手ならともかくいい歳になったマジシャンはどうなのでしょう。
生活のためではなく、自分のマジックを客前で試す機会として利用している
だけだ…という理由もあるようですが、それも一つの生き方でしょう。

また先輩マジシャンが安いギャラで出演した現場では、それ以上は要求しに
くいものです。
私も若い頃に何度も経験しました…「去年の〇〇さんはこのギャラでやって
くれましたよ」とか「うちは誰がゲストでもこのギャラなので」…等々。
こういうのはもう取りつく島もありません。

私の場合、どんなに努力してもギャラに反映されないこのような風習の現場
やイベント業者には早々に見切りをつけ、独自のスキミング戦略で開拓をし
てきたので、現在のマジックの市場には詳しくありませんが、俯瞰した時に
ステージもクロースアップもギャグまでもが似たり寄ったりの状況であれば、
誰にオファーをかけても変わり映えするはずもなく、ギャラが上がらない
のも頷けるし、仕事がより安いマジシャンに流れていくのは当然の帰結です。
他人を出し抜くことよりも劣って見られたくないがために、無難に同じような
演目に収れんしていくのです。(順位をつけない小学生の徒競走のようです)

昔から日本の文化として「お金は汚らわしい、お金の話をするのははしたない
こと」という風潮があったせいか、家庭でも学校でも学ぶ機会がなく、金融
リテラシーを欠いたまま社会人になる人がほとんどです。
プロを名乗って活動を始めたものの、消費税や源泉税もお構いなしで領収書
の書き方すら知らないどんぶり勘定のマジシャンもいますからね。
日本人は免疫のない状態で社会人になって初めて税金や金融の仕組みを知る
場合が多いので、投資詐欺に遭ったりひいては闇バイトに手を染めることに
も繋がるのではないでしょうか。

良い意味で「日本人はお金の話が苦手で、奥ゆかしい国民性」とされてきまし
たが、ビジネスライクに考えれば奥歯にモノが挟まったような交渉しかでき
ないことは、決して良いことではありません。
だからと言ってお金の話をするとすぐに「あいつは金儲けしか考えていない」
と清貧は美学とでも言いたげなルサンチマンから貶されることになります
が、妬み嫉みが染み付いた人種の遠吠えは無視するに限ります。

マジックのレパートリーを増やしてテクニックを磨いて待っていれば、誰か
が認めてくれて評価もギャラも上がっていくものだ(他力本願)と信じている
なら大間違いです。

他人のマジックを横目で見ながら横並びで合わせていく暇があるなら、金融
リテラシーとマジシャンとしての実力を向上させて、言うべきことは言わな
いと(自力本願)、ギャラは手付かずの永久凍土のままです。

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見限る勇気 2

前回は時代と年齢とコンプライアンスの変化と共に、マジシャンとしての
レパートリーの一部を見限る勇気が必要なことについて書きました。
そしてもう一つ、プロフェッショナルを標榜する上で大切なことがあります
…それは、自分の居場所を見限ること。

例えば、歌手には生涯歌い続けたい歌があるように、マジシャンには生涯
演じ続けたいアクトがあることでしょう。(もちろん私にもありました)
違う芸能を同じ切り口で語ることには無理がありますが…歌手における誰も
が知る全国的なヒット曲とは違って、誰もが知るマジシャンのアクトなど、
残念ながら無いに等しいのが現実です。
得意のアクトを長年に渡って演じ続けても、世間的な知名度も収入も上が
らず、その価値や拘りを理解してもらえずに忸怩たる思いをすることもある
でしょう。

ですからマジシャンは報われていないと感じると、自分の演技の価値を認め
てくれるマニアが集う場所に戻って行くのです。
これは帰巣本能というべきなのか、ショービジネスの世界での戦いに疲れる
と、やっと卒業したはずなのに、コンベンションという心地良い実家への
里帰りが我慢できなくなるのですね。
あるいはOB顔して母校に凱旋するような感覚でしょうか。
里帰りを我慢していた期間が長いほど、リバウンドも激しいことでしょう。
ただし戻った当初はちやほやされても、いつまでもそこに居座ると「老害」と
陰口を叩かれるようになるので、長居は禁物です。

歌手を始めとするほとんどのエンタメには、寂しい時にいつでも戻れるよ
うな「マニアだけの村」はありません。
翻ってマジシャンにはそれがあるからこそ、つい甘えてしまうのかもしれ
ません。
そして甘えが高じると、それまで一般社会に向いていた訴求力は加速度的
に衰えて、いざ自身のショーを開催する際も同業者やマニアやアマチュア
をあてにしてチケットをさばいてもらったり、集客をお願いするように
なってしまい、客席はいつも村の住人ばかりという顛末が待っています。
そうなると、「アマチュアに生かしてもらっているプロ」という典型的構図が
完成するわけです。
この世からマニアやアマチュアが一人もいなくなれば生命維持装置を失う
も同然で、果たしてどれだけのプロが生きていけるのでしょうか?

大上段に構えて、いかにプロフェッショナルを自認しようが、最終的には
「客席のマニア率や身内率」がそのマジシャンの「本物のプロ度合い」にリンク
しているような気がします。

ショービジネスの世界…第一線に立ち続けて安定した収入を稼ぎ続けようと
思えば、その厳しさは若い一時期にマジック村のコンテストで受賞すること
の比ではないことは論を俟ちません。

自立したプロに脱皮するには「村を見限る勇気」も必要です。

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見限る勇気 1

またもや誕生日を迎えてしまいました。
昨年、後輩マジシャン達が盛大に還暦祝いのサプライズパーティーを催して
くれてから、あっという間に一年が経ったわけです。
昨夜0時を過ぎた頃から次々に届くお祝いのメッセージに感謝しています。
(持つべきは信頼できる友と後輩ですね…あと、クラブのおネエ様方も)
今年は誕生日当日に健康診断の予約が取れたので、受診して来ました。
血液検査の結果は後日受け取ることになりますが、血圧、胸写、心電図、
尿検査、聴視覚検査等は全て正常でした。

私達は産声をあげた瞬間から死への道程を歩み続けるわけで、フライトに
例えれば、老いというマイレージを貯め続けるようなもので、それには誰も
抗えません。
それでも個人的には、少なくとも同世代よりは健康的で若々しく小綺麗な
ジジイを目指しているところであります。

しかしまあ歳を重ねる度に、近い将来にマジシャンとして諦めなければなら
ないこと、棄てなければならないもの…等々を考えてしまいます。
新しいことを取り入れてもいますが、もう時代と年齢とコンプライアンスに
そぐわないものは省いていかないと、レパートリーを維持するだけでも負担
が大きくなるだけですから…レストランのメニューからひっそりと消える
料理のようなものですかね。
社交辞令なのか「まだまだやれるでしょ」と励まされることもありますが、何事
も5年後10年後を見据えて、早め早めに動いてきたことが大正解だった人生
なので、自身の判断には迷いはありません。

他人の振り見て…の一例として、往年のスター達が全盛期のヒット曲を歌う
BSの番組を観ましたが、彼らの全盛期を知っているだけに、声のかすれや
緩慢になった動き等「抗えない老い」が気になって、せっかくの歌が頭に入って
来ないことがショックでしたねえ。

プロ野球選手のように戦力外通告を受けたり、限界を悟った瞬間に自分から
スパッと辞めることができればいいのでしょうが、エンタメは味がなくなった
のにいつまでも吐き出せないガムのようにダラダラと続けてしまいがち。
本人だけはまだ味を感じているのでしょう。

「無理なくできる」ならともかく、「今でもなんとかできる」というレベルに
なってしまったとしたら、趣味ではなく仕事としての評価である以上は、
ギャラを頂戴するには値しないと自覚するしかありません。
その時は「自分を優しく見限ってあげる勇気」も必要だと思います。

思い出と戦っても勝ち目はないのですから、老いは受け入れるしかありま
せん。
今の自分に焦点が合わず、遠い過去が綺麗に見えるのは…「心の老眼」です。

2へ続く…

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シン・二刀流

映画「シン・仮面ライダー」を観てきました。
せっかくなので4DXで観ましたよ。(いやあ、座席が揺れた揺れた)
世代的にドンピシャで、幼少時代に集めた仮面ライダーカードを今でも保管
している私には十分楽しめました。

楽しんだと言えば、ここしばらく世間はWBC一色でしたが、それほど野球
に興味がない私でも今回のWBCは楽しめました。
侍JAPANの皆さん、優勝おめでとうございました。
サッカーやラグビーのワールドカップもそうですが、にわかファンとしても
ナショナリズムを掻き立てられますね。
初めてナショナリズムを体感したのは、若かりし頃、海外のコンベンション
のコンテストに挑戦した時でした。
特に交流したこともない日本人マジシャンがコンテストに登場した時、いつ
の間にか応援している自分に気が付きましたね。

大谷翔平の活躍ですっかりお馴染みとなった「二刀流」ですが、今回のWBCで
私が特に印象深かったのは、残念ながら予選リーグで敗退したものの、アマ
チュアリーグの選手が主体であったことが話題になったチェコ代表の活躍。
チェコでは野球はメジャースポーツではなく(野球人口はたったの7000人)、
野球専業で生活していくのは困難なため、代表選手のほぼ全員が他にも仕事
を持つ社会人か学生なのです。

選手の仕事をちょっと調べただけでも、金融アナリスト、高校の地理教師、
消防士、セールスマン、不動産会社勤務、そして代表監督は神経科医…等々
まさに多種多様。
当コラムで過去何度も「複業」や「マルチワーカー」について書いてきた私と
しては、大いに親近感が湧くところです。
「シン・二刀流」…つまり真の意味での二刀流を語る対象としては、一分野の
中だけではなく、「全く関係のない複数の仕事」を同時に成立させているチェコ
代表のような立場こそ相応しいと思うのです。

例えば開業医がその看板に「内科・小児科」と標榜している場合に、わざわざ
二刀流とまでは言わないでしょう。
医師と弁護士のダブルライセンスを持ち(こんな化け物が国内に数十人存在し
ます)、診療もすれば法廷にも立つなどの仕事として稼働しているのであれば、
れっきとした二刀流と言えるでしょう。

そもそも「◯刀流」という曖昧模糊とした単語に厳格な定義付けなどできるとは
思いませんが、マジシャンの分類として、「専業プロ」だの「セミプロ」だの
「パートタイムプロ」だの「アマチュア」だのと、かつては極狭のマジック村の
中にヒエラルキーを持ち込んで、論難を仕掛けるマジシャンもいましたが、
コロナ禍以降はすっかり鳴りを潜めてしまった感があります。
特に資格も必要なく「自称」がまかり通る業界で、根拠もなく専業プロをヒエ
ラルキーの頂点だとする人達が、自由で多様な生き方をするマルチワーカー
を「あれはプロではない」と一方的に否定する事例もありました。

しかしながら、専業プロを自認する人からして、営業出演の収入のみで生活
するのが心もとないのか、指導や道具の販売、人目につかないアルバイト等、
何刀流もこなしながら生きているのがこの業界の実情なのです。

クロースアップとステージができれば二刀流?
営業出演しながらマジックバー経営は二刀流?
営業出演&バー経営&マジックショップ経営は三刀流?

…どうでもよくないですか?

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巨人の肩の上に立つ

私達は日々他人や環境の影響を受けながら生活、そして成長しています。
最も身近で影響を受ける機会は、やはり「読書」ではないでしょうか。
読書は様々な知見を与えてくれるし、人間としての深みを醸成する上で欠
かせない栄養素だと思います。

本のまとめ買いを目的に大きな書店に出かけることもありますが、最近は
福岡空港や羽田空港内の書店に立ち寄ることが多く、フライトまでの短い
時間でも良き本に出会うために散策しています。
新聞広告で見た本をネットで注文することもありますが、類似本ばかりが
リコメンドされるより、書店で思いがけない本と出会う方が楽しいですね。

ところで最近、こんな記事を見かけました。
本を読まない学生が増えている…全国大学生活協同組合連合会が1万1千人
に実施した学生生活実態調査によると、50.5%の学生が1日の読書時間を
0分と答えたというのです。
驚くべきは読書をしない理由の一つが「誰かに影響を受けたくないから」…
本当にそう思っているのか、尖ってるだけなのかは分かりませんが、損を
しているなあと思わざる得ません。

マジシャンにも当てはまると思うのですが、1人に影響を受けたのならば
コピーかもしれませんが、10人から影響を受けたなら、それはもうその人
自身に昇華されているはずですから。

ニュートンが書いた手紙の一節で有名になった「巨人の肩の上に立つ」との
言葉があるように、新しい発見ができるのは先人が積み重ねた発見がある
からなのですよ。
貴重な時間をスキップして肩に立たせてもらうことで、その景色を見ること
ができるのです。

誰の影響を受けたのか、誰のお世話になって誰からそれを習ったのか…
それらの史実を語ることもなく、さらには、誰かに弟子入りしていた事実
すらひた隠しにするマジシャン達は、ネタ元となったマジシャンの存在が
次第に疎ましくなり、弟子や後輩がネタ元と知り合って己の虚構が晒され
ることを極度に恐れます。
残念ながら、そんな姑息なマジシャンが少なくないのが現実です。
私自身はそれらを反面教師として、自宅に訪ねてきた後輩達には自分が
知る限りの史実を、ある時は文献や映像で証明しながら克明に伝える
ようにしています。

先月になりますが、私がリスペクトする「レジェンドマジシャン四天王」の
うちのお二人…ジョニー広瀬さん、プロフェッサーサコーさんと私の3人
で食事会を催しました。(顔ぶれが濃過ぎましたね)
かつてお二人が頻繁に出演されていた番組「花王名人劇場」の裏話を中心に、
史実の確認や昔話に花が咲きましたが、事実は小説よりも奇なり…幾つか
の疑問が氷解して点と点が繋がりました。
そして今でも意欲的に道具作りに勤しむサコーさんの新作ネタも頂戴しま
した。
様々な思い出話を拝聴しましたが、移動の車中でジョニーさんがボソッと
「35年前、マリック主催のコンテストで初めてZUMAのステージを観た時に、
こんな学生がおったんか…と正直驚いた」と言われた時は、たとえそれが
社交辞令だったとしても素直に嬉しかったですね。

中高生の頃から憧れて、繰り返しビデオを観てきた大先輩方と、こうして
食事会ができることは感慨深いものがあるし、若き日にこの方々の大きな
肩に立たせてもらったからこそ今の自分があるのだなあと思うと、感謝の
言葉しかありません。

久しぶりに気づかれないようにそろりと立ってみましたが、お二人の肩の
安定感は健在でした。

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ウィンウィン

ウィンウィンとは経営学の用語で「取引をする双方に利益がある」という意味
で使われています。
英語では「win-win」と表記されることから、両者にメリットがある時に
使われるビジネス用語として頻繁に使われていますよね。

ちょっと思い出すと…私の知人がマンションを購入したばかりなのに転勤を
命じられて慌てている時、幸いにもそのエリアに住みたかった人がすぐに
見つかって、賃貸収入をローン返済に充てることができたという例もありま
したが、これもある意味ウィンウィンですよね。

私の身近なケースとしては、断捨離する予定の服を後輩が喜んで持って
帰ってくれたり、処分するだけでも費用がかかりそうなケージやキャリー
ケースを、必要としているマジシャンに引き取ってもらったりといった
ところでしょうか。

私に出演オファー(3月4日に関西某所で16時からの出演)があったのですが、
残念ながら、当日は夕方まで福岡での仕事が入っていたために断念。
クライアントにお断りのメールを送ったところ、代わりのマジシャンを紹介
してもらえませんかとのことだったので、この案件を誰にお願いしようかと
逡巡した結果、ふじいあきらにオファーをかけると快く引き受けてくれました。
当然のことながらクライアントにも喜んでもらえたし、彼も気持ち良くショー
やって稼げたし、私の面目も立ったし、まさにウィンウィンウィンの三方良し
の状態でした。
しかし、12人の観客でふじいあきらのショーかあ…贅沢だなあ。

その日の夜は私の予定も空いていたし、せっかく彼が関西まで来ていること
だし、出演終わりに新幹線で福岡まで足を伸ばしてもらって、中洲でクラブ
活動をすることに…。
そして3月4日はふじいあきらの誕生日だったので、クラブでも弟子のRintaro
の店「マジック セピアライン」でもちょっとした誕生日パーティーを開催。
店を使ってもらった弟子も…ウィン。
4軒はしごで朝までコース…お疲れ様でした。

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考え方は変わらない

最近のマジック業界の事象について、一言書こうと思いましたが、言いた
かったのは、ちょうど10年前に書いた記事の内容そのままでした。

「本当の動機は?」 (2013年2月)

「お客様を笑顔にしたい」、「お客様に夢を見せたい」などと宣うのは自由なの
ですが、まず「誰から見ても夢がありそうなマジシャンになってみせる」ことが
先決なのです。

他人を金儲けの駒のように扱いながら、己のどす黒い欲望を満たしたいだけ
なのに、人格者を気取って世間に溶け込むために、大上段に構えて「社会貢献」
などとほざく輩には虫酸が走ります。

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値上げを実感

光熱費からタマゴまで、ありとあらゆるものが値上がりしている昨今、確かに
我が家でも電気代が高騰していますが、鳥や猫のために暖房器具を24時間
稼働させてきたので致し方ないところです。

コロナ禍での3年間は航空運賃やホテルの宿泊料はかなり安くなっていました
が、行動制限も緩和されてインバウンド復活の兆しが見え始めると同時に高く
なっているようです。

これ、マジシャンもちゃんとギャラに反映させないと、交通宿泊費込みで幾ら
というオファーの場合は、手取りの目減りは避けられませんよね。
でもこのご時世、オファーがあるだけでも有難いだろうし、フリーランスの
マジシャンは自らギャラ交渉しなくてはならないから大変でしょう…そもそも
日本人はお金の話が苦手ですしね。
特に、「お金じゃない、夢を見せてお客様を笑顔にしたいんです」と美辞麗句を
並べる人格者マジシャンほど値上げしづらいのでは?
羨ましいことに、世間の有名企業では続々と賃上げが発表されていますが、
フリーランスはそうはいかないので、ここはセルフプロデュースの力量が問わ
れるところです。

久しぶりにインコ・オウム専門店の「こんぱまる」に買い出しへ…。
ペレット(鳥専用のエサ)もそのほとんどが輸入品であるために、かなり値上が
りしていました。
ペレットよりも驚いたのは、鳥そのものの価格…まさに爆上がりとも言える
状況で、コンゴウインコなどの大型鳥は軒並み100万円超えです。
特にオオバタン(私がスケッチブックから出現させているオウム)に至っては、
なんと300万円だとか。
それでも先日入荷した2羽は即売れてしまったようです。(人気の輸入車や高級
腕時計も顔負けの値上がり率です)

ペットとして飼うならともかく、ホテルの宴会場では動物の持ち込み厳禁が
常識というコンプライアンスに縛られるご時世で、これからバードマジック
を始めようとする奇特なマジシャンは少ないと思いますが、鳥を揃えるだけ
でもハードルが上がったことは間違いないでしょう。
莫大な元手が必要な上に、飼える環境を用意したのに営業での出番が少ない
演目となれば、ビジネスとして成立しませんからね。

それだけの予算があればイリュージョンに投資した方が賢明かもしれません…
あ、本物のマジシャンという自負があれば、本物の道具を使いましょうね!


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