老害とリスク
昨今、どのような分野においても「老害」というワードを耳にします。
いかなる職業やサークルに関わらず、世代が違う人々の集合体であれば、目上の
人間の発言や立ち振る舞いが若い人達から「老害認定」されることは珍しくはあり
ません…まあ、ネガティブな事象ですよね。
老害の対象とされる年齢も次第に若年化される傾向もあります。
極端な例だと思いますが、30代のマジシャンが20代のマジシャンにアドバイス
をしたら老害と陰口を言われたという事例まであるほどです。
個人的には、老害になるかならないかの分岐点は「無知な自分をさらけ出す勇気」が
あるかないかに尽きると思います。
例えば企業において、生成AIなどの新しい領域に疎い役員や部長が若手に教えを
請い、初歩的なミスをして恥をかくこともあるでしょう。
ここでプライドを捨てて素直になれる人は老害認定される可能性は低くなります。
某企業の採用担当者による「学歴や年齢よりも素直に間違いを認めてすぐに謝れ
る人を採用したい」という新聞記事を思い出しました。
この記事で「スライディング土下座」というワードを知ったので記憶に残っていました。
一方、自身の評価を気にするベテランの一部は「こんな仕事のやり方は邪道だ」だの
「俺が若い頃はもっと苦労した」などと宣い、自身の優位性を示せるルールを死守しが
ちになるのです。
近年の若手のマジックは、私には全く追い付けない技法やタネの想像もつかない
ような素晴らしい現象を散見します。
もし私が同世代であれば焦りもするでしょうし、間違いなく闘争心が湧いて研究
や稽古に励むことでしょう。
しかし現実的には時間を巻き戻すことは不可能なので、達観して素直にそのマジ
シャンを認めて称賛すればいいし、自分なりのブランディングで他人には真似で
きない土俵に立って、自身が納得する成功への道を歩めばいいだけなのです。
私の場合、時間が許す限り今も多くの後輩マジシャン達と会食を続けていますが、
彼らに対して評価したりダメ出しをすることはまずありません。(人としての姿勢や
生き様に苦言を呈したことはありますが…)
それどころか「マジックセッション」で書いたように親しい後輩達に見てもらって、
現在の自分の立ち位置を確認することの方が多いくらいです。
アドバイスをすることがあっても相手から求められた時だけですし、「昔と今とでは
マジシャンを取り巻く環境や社会のコンプライアンスが違うので、何が正解かは分か
らないけど…」と前置きして話をします。
年齢を重ねることはマイナスばかりではなく、自身で伸びたと感じるのは「物事を大
づかみに把握する力」です。
それを理解した上で、余計なお世話と思われないように注意しながら後輩との付
き合いに経験を活かしたいと思っています。
一般的に、ベテランの多くは直感や経験則を優先する傾向があります。
経験に裏打ちされた直感は貴重な資産だからです。
しかし直感という刀は錆びやすいので、アップデートを怠ってはいけません。
マジシャンに限らず、老害と呼ばれる人々は自身のデータベースの劣化に気づい
ていないのです。
テレビに出た過去を自慢するのも、遥か昔に受賞した栄光にすがるのも、若手
マジシャンを否定するのも、時代遅れの自分を認める恐怖から来る防衛本能に
過ぎないのです。
老害とは加齢や性格ではなく、無知をさらけ出して再び初心者になるコストを
払うことを拒否して意固地になった挙句、リスクだけが残った人の別称なので
しょう。
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