書籍・雑誌

今年上半期の読書 2

詳しいレビューを書く時間がないので、面白かった本の簡単な紹介のみで…

・ 死に方のダンドリ  専門家8人の共著  (ポプラ新書)

ちょっとふざけたタイトルとは裏腹に、まず日本は「お金が尽きて死ぬ時代」に
突入するとして、「病気で死なない時代」の死に方のダンドリ、100歳まで
生活できるお金を貯めるダンドリ、認知症になる前に財産を信託するダンドリ、
老後に住める家を見つけるダンドリ、100歳までボケない「不老脳」をつくるダン
ドリ、最期を過ごす場所を決めるダンドリ、死ぬときに後悔しないダンドリ…
これらが8人の専門家によって将来すんなり逝くための準備としてしっかりと
書かれています。
巷の薄っぺらい内容の老後本とはまるで違います。
姿勢を正して読了しました。

・ カレー移民の謎  室橋裕和 著  (集英社新書)

今や日本中に広がったインドカレー店…実はそのほとんどがインド人ではなく
ネパール人によるものだと知って驚きました。
美味しさの裏のスパイシーな現実を教えてくれます。 

・ 「ルフィ」の子どもたち  週刊SPA!編集部  (扶桑社新書)

記憶に新しい世間を震撼させた被害総額60億円ともされる大規模特殊詐欺や
強盗殺人事件に関わった容疑者12人の素顔に迫ったドキュメントです。

・ 「笑っていいとも!」とその時代  太田省一 著  (集英社新書)

「いいとも!」が醸し出す梁山泊のような趣は、当時の日本社会が有していた
エネルギーの
繁栄ですね。
この番組は私も何度か出演経験があるだけにノスタルジーに浸りながら一気
読みしました。

・ ロジカルダイエット  清水忍 著  (幻冬舎新書)

3か月かけて痩せて二度とリバウンドしないダイエット法についての解説本です。
34×なりたい体重=必要なカロリー…なんですと。 

・ 芸 秘伝伝授の世界  西山松之助 著  (講談社学術文庫)

「芸」はいかに習得し創造していくものなのか、師匠から弟子への相伝作法など、
「芸道」という独特の文化社会の考察本です。

・ 開業医の正体  松永正訓 著  (中公新書ラクレ)

なるほどー、生々しい。

・ 人生の目的  高森顕徹 大見滋紀 共著  (1万年堂出版)

ふ…深い。お…重い。

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今年上半期の読書 1

・ マツダがBMWを超える日  山﨑明 著  (講談社)

ブランドに深く関わってきた筆者の業務経験と個人的体験から日本ブランド
が欧州プレミアムブランドに対抗できない理由が明確に書かれています。
その理由の一つが日本の自動車メーカーの多くが行っている「クリニック調査」
…これは発売前の新型車を一般の人に見せてその評価を聞くというもので、
結果次第でデザイナーの意思に反してデザインが修正されたりして、最終的
には最大公約数的な車が完成してしまうという事象。

造る側の「市場の多くの意見を取り入れて、万人に愛されるクルマを造ろう」、
買う側の「悪目立ちしない無難なクルマに乗りたい」という控えめな日本人の
メンタリティがミックスされて具現化した典型的な事象でしょう。
それは決して品の良いアンダーステイトメントと言えるものではなく、単なる
横並びで「安心したい」か「失敗したくない」だけの冒険心が欠如した証左なの
です。(下取りの査定も考慮して色もまた無難に白、黒、シルバーを選びがち)

これでは「たとえ高額でも他人と被りたくない」「差別化を図って自分の個性を
表現したい」という拘りの強い顧客からは選ばれることはないし、日本の大手の
メーカーがかつての「光岡オロチ」のような個性の塊のようなクルマを造ること
など想像もできません。(レクサスLCが限界なのでしょうか)

欧州のプレミアムブランドは市場調査などほとんどすることはなく「これを気に
入った人だけが買えばいい」という考えが根底にあるからこそ尖ったクルマ造り
ができるのです。
世論に迎合せず98%を捨てた「2%戦略」を実践する度胸とプライドがあるのです。
もうね、日本のメーカーの考え方と根本的に違うのは「お客さまは神様」ではなく
「造った人こそが神」なのですよ。

クルマは言うに及ばず、腕時計やバッグにしても、日本製品が高品質なことは
伝わってはいても、独自性がなくてステータス感を伴わないため、一定以上の
金額の高級品になると欧州ブランドに勝つことができないのです。
「メイドインジャパン」には「品質が高い」というイメージがありますが、問題は
「安くて」「値段の割に」というフレーズがつきまとうことにあるのです。

例えば同価格のロレックスとオメガとセイコーがあるとしたら、セイコーを選ぶ
人はごく僅かでしょう。
まずあえてセイコーを選ぶ理由を説明できないのです…根っからのセイコーファン
ならともかく、せいぜい「目立って周囲からの反感を買いたくないから」程度の
ことです。

初版は2018年の本ですが、内容はマジシャンとしての私がスキミング戦略を
基に実践してきたことと重なる部分が多いこともあって、頷きながら何度も読み
返しました。
私にとってはある意味バイブルみたいな一冊かもしれません。

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夏の読書レビュー 2

・ 「禁城」 ムロン・シュエツン 著 (飛鳥新社)

約3年に渡って我々の社会生活を混乱させた新型コロナウイルス…この間に
仕事を失った人、生き方そのものを深く考えざる得なかった人、人生に影響
を受けなかった人は皆無と言っても過言ではないでしょう。
私自身も還暦を迎えてマルチワーカーとして複数の仕事の配分の緻密な計画
を立てている最中にコロナ禍となってしまい、計画を3年前倒しで実行する
ことになりましたが、結果的には早めに動いたことが吉と出てホッとしてい
ます。

本書は中国の著名な作家である著者が、2020年春、ロックダウンされた湖北
省武漢市に赴き、市民へのインタビューを通してコロナ禍の実像に迫ろうと
したノンフィクションです。
登場人物は10人足らずですが、拘束された反体制派のジャーナリスト、共産党
支持の富豪、白タクの運転手等、顔ぶれは多彩で、例えば医師の間では「政府
のデータを信じる者は一人もいなかった」という証言もあるなど、中国社会の
歪な側面が浮かび上がります。

巷間云われるように、共産党政権による政府見解や政策決定の経緯は不透明
極まりない上に、中国ならではの治安機関の動きは凄まじいものがあります
が、武漢のロックダウンについて深く考える手がかりとしても、本書の意義
は小さくないと感じました。

ちなみに著者は本書出版にあたり国外に脱出し、現在は亡命作家となってい
ます。
天安門事件を始め、真実の追求は犯罪行為とされることが多い中国では当然
の帰結なのでしょう。
本書を読み終えた率直な感想は…本当にかの国で産まれなくて良かったと感
じるし、多少の不平不満はあるものの、私たちは日本に産まれただけでも
勝ち組なんですよ。

その他、最近読了した書籍の中で面白かったものです。(レビューを書く時間
がありませんので、タイトルのみ紹介します)

・ 「夢と金」 西野亮廣 著 (幻冬舎) …マジシャン必読です。
・ 「残酷すぎる人間法則」 エリック・パーカー 著 (飛鳥新社)
・ 「残酷すぎる成功法則」 エリック・パーカー 著 (飛鳥新社)
・ 「勝負師の条件」 守谷 淳 著 (日本経済新聞出版)
・ 「あなたの隣の億万長者」 小林義崇 著 (ダイヤモンド社)
・ 「東京医大 不正入試事件」 田中周紀 著 (講談社)
・ 「バカの上手なかわし方」 マクシム・ロヴェール 著 (文響社)
・ 「なぜヒトだけが老いるのか」 小林武彦 著 (講談社現代新書)
・ 「客観性の落とし穴」 村上靖彦 著 (ちくまプリマー新書)
・ 「警視庁公安部外事課」 勝丸円覚 著 (光文社)
・ 「特捜検察の正体」 弘中惇一郎 著 (講談社現代新書)

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夏の読書レビュー 1

・ 「スラッジ」 キャス・R・サンスティーン 著 (早川書房)

本書は米オバマ政権で情報・規制問題室長として行動科学に基づく政策実現
に取り組んだ著者が、「何かを手に入れようとする人々の行く手を阻むもの」を
「スラッジ(ぬかるみ)」と定義して、その理論をまとめたものです。

例えば自治体が「申請さえすれば生活困窮者には給付金を出します」と呼びか
けておきながら、実際には膨大な書類が必要なシステムにして諦めるように
誘導したり、選挙の投票率を上げたいと言いつつも、無党派層の動きを封じ
込めたいのか、いつまでたっても決められた日に投票所に足を運ばせる等、
とにかく手間と時間がかかったり面倒な移動を強いらせたりして、私たちの
行動や選択を邪魔するものはこの社会のあちこちに潜んでいるわけです。

反対の概念である「ナッジ」…つまり「人々がより良い選択を自発的に行うよう
にする仕掛け」は、すでに活用されています。
身近な例では、レジ前の床に一定間隔を開けるようにテープや足型を貼る
ことや、居酒屋のトイレの壁の「いつもきれいに使って頂きありがとうござい
ます」という張り紙もその一つではないでしょうか。

一見面倒そうに思えて、実は「良いぬかるみ」もあるようです。
「離婚の届け出は熟考を促すために、インターネットでは受理しない」などが
該当します。

スラッジは他山の石としないとマジックにも起こり得ることです。
例えば「不思議のぬかるみ」に拘泥して余計な演出を加えた結果、フォーカス
がぼやけて何を表現したかったのか意味不明となり、そこに説明能力の
欠如が追い打ちをかけて、全くウケなくなるパターン。
あるいは一般客を対象にプロフェッショナルとしての王道を歩んでいても、
やっぱり同業者に賞賛されたくてマニアの寄り合いに戻ってしまうという
「マジック村のぬかるみ」もあります。
一度スタンスが崩れると、もはや糸の切れた凧状態…。
これらの例は他人が仕掛けたものではなくて、多くは自業自得なのですが、
まさに冒頭に書いた「何かを手に入れようとする人々の行く手を阻むもの」
そのものでもあるのです。

私個人の意見…他人が仕掛けたものの中で最も悪質なぬかるみは、「解約の
やり方が見つけにくい企業ホームページ」じゃないのかな。

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巷の老後本

巷には、いかに充実した老後を過ごすかについて書かれた本が目立つように
なりました。
実に薄っぺらい当たり前のことしか書いていない本が多い中で、突出して
歯切れの良い本を見つけました。

・ 60代を自由に生きるための誰も教えてくれなかった「お金と仕事」の話
                榊原正幸 著  (PHPビジネス新書)

内容の一部を紹介すると…

「老後本」の対策を信じてはいけない
巷にあふれる「老後本」を私も山ほど読みました。その老後対策として、ボラ
ンティアをする、旅行をする、読書やテレビ三昧などが「あるある」なのです
が、私はどれもイマイチだと思います。なぜなら、どれも「飽きるから」です。
はっきり申しまして、マネタライズされていないもの(お金が絡んでいない
もの)は、やり甲斐が少ないです。俗な言葉で言えば、ちゃんと稼げることで
ないと面白みも少ないし、責任感もないし、飽きやすいのです。

…まさにその通りだと思いました。
長年ビジネスとしてのマジックをやってきた自分が、いつかアマチュアに
戻った時…ボランティアでやってあげてるんだから、この程度でいいだろう
などと、責任感も面白みもなくなるであろうことは容易に想像できました。


さらに紹介すると…

ヒマをもてあましてしまうという問題について提言します。「ヒマをもてあま
してしまう」ことを、私は「ヒマだ病に罹患する」と定義づけています。
「ヒマすぎてイヤになる状態」は、軽い精神疾患だと思うからです。仕事が
なくなると最初のうちは解放感に浸れるかもしれませんが、半年か一年も
すると、多くの方が大なり小なり、「ヒマだ病」に罹患します。これは実に
深刻な問題なのです。ここではその深刻な問題に対する対策(「ヒマだ病」対策)
について論じますが、結論をひと言で言ってしまいます。本業をやっている
間に、「一生やることができる副業」を見つけてください。これに尽きます。

…これはあくまでも一般的な老後の「ヒマだ病」についてのことですが、老後
とは関係なく多くの現役マジシャン(特に中高年)も罹患しています。
景気やコロナ禍とは関係なく、一部のスターマジシャンを除けば加齢と共に
仕事は否応なく漸減していくものです。
世界的コンテストで受賞という「魔法のふりかけ」をかけても、収入という
料理の味を激変できないことは認めざる得ないところです。(賞は足裏に付い
たご飯粒…とらないと気持ち悪いけど、とっても食えない)

あるお笑い芸人が友人達を巻き込んで、7億を超える資金をFXと不動産投資
の専門家と名乗る知人に預けて蒸発させてしまった事件は記憶に新しいとこ
ろです。
釈明会見においてその芸人は投資を始めた理由として、「50歳前後になると
今後もこのまま仕事を得ることができるのだろうかと不安になった」と吐露
していました。
事程左様にフリーランスの老後資金の不安感は深刻なのです。
インボイス制度が始まれば、1000万以下の収入でもきちんと消費税を納めな
ければならなくなります。

働き盛りの人間が、朝起きてすることがないなんて寂しいものです。
それでいてSNSでは忙しそうなリア充自慢…そのコントラストの痛々しいこと。
やはり仕事が順調なうちに、他の収入の柱を立てることが焦眉の急なのです。

これについては私も2018年以降何度も書いてきましたので、過去のエントリー
からご一読頂ければ幸甚です。

2018年 複業のススメ 1〜3
2020年 私見…複業
              複業社会はもはやスタンダード 1&2
2021年 マルチワーカー 1〜3

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今年一推しの本

どんな本に感銘を受けるのか…その時の読む側の置かれた立場や境遇や年齢
によって様々であろうし、書店を訪れた際も、共感したかったり悩みを解決
へ導いてくれそうなタイトルの本に手が伸びるのではないかと思います。

先日、「50代までにしておくべきこと」的な本を手にして、「あ、遅すぎた」と
気づいて棚に戻しました。(たぶん、やるべきことは済ませていると信じて
おります)
今年も多くの本を読了しましたが、現時点で今年一推しの本を紹介します。

・ 「限りある時間の使い方」 オリバー・バーグマン 著 (かんき出版)

私のブログを読んでくださっている方はお気づきのように、今年4月に還暦を
迎えた私は、残された時間を砂時計の砂に例えて、それがいかに貴重である
かを度々書いてきましたし、アストンマーティンDBXのPVにおいて、なぜ
このクルマを選んだのか…その理由の一つとしても語らせてもらいました。

この本のタイトルを見た時に、「おっ、タイムリーだな」とは思ったものの、
そんなこと他人に指南されなくてもとっくに理解しているし、自分なりに
ストイックな時間の使い方をしているという自負があったので、軽い気持ち
で読み進めていくと…「貴重な時間を無駄なく使っているのに、どこか満たさ
れていないのはなぜだろう」という、内に秘めた疑問が氷解しました。

まずこの本は「人生は4000週間しかない」というこれまでにはなかった単位
で、我々の寿命の短さをダイレクトに突きつけます。
また人間の意志の弱さ…例えば、毎月の収入から余った分だけ貯金しよう
とすることは困難で、一定額を先に貯金した残りで生活をしない限りお金
は貯まらないことを引き合いにして、これは時間に関しても同じで、先に
確保しないとどんどん他のことに時間を使ってしまうと指摘しています。

これはまさにその通りで、私自身、時間ができたらあのマジックの練習を
しようと思っている程度では重い腰は上がらないし、いつか観るつもりで
録画した映画の数々は、随分前からハードディスクに放置されています。
時間ができたら洗車しようと思っていたら、クルマは汚れたままです。
空いた時間にやるのではなく、まずはそれを最優先にしないと何も動かな
いし、達成できないのです。

昔はこの世に存在しなかった家電類…例えば洗濯機や掃除機は、それらが
なかった頃なら丸一日かかっていた面倒な家事を短時間で済ませてくれる
ので、その間はのんびりと過ごせるはずなのですが、現代人は休むどころ
か、それで得た新たな時間で何かを成し遂げようとして、結局は達成でき
ずにストレスを溜めています。
やりたいリストの項目が多ければ多いほど、「一日は24時間」という太古の
昔から変わらない原則の中では絶対に解決できません。

本書では、人生の時間は限られていること、さらにその中の限られた範囲
しかコントロールできないと論じると同時に、私たちそれぞれの人生観や
価値観とは何か…何に時間を費やすべきかを投げかけています。

今年は、私自身にも大きな影響を与えてくれた方々が鬼籍に入られたので、
特にその想いを強くしているところです。

最後に…157ページの、時間の使い方を改めて考えさせられた小話を…

メキシコの漁師が一日に2〜3時間しか働かず、太陽の下でワインを飲んだ
り友達と楽器を演奏したりして過ごしている。それを見て愕然としたアメリカ
のビジネスマンは漁師に勝手なアドバイスをする。「もっとたくさん働きなさい、
そうすれば利益で大きな漁船をたくさん買って、他人を雇って漁をさせ、
何百万ドルも稼いで、さっさと引退することができる」
それを聞いた漁師は「引退して何をするっていうんだ?」と尋ねる。
ビジネスマンは答えて言う。「太陽の下でワインを飲んだり、友達と楽器を
演奏したりできるじゃないか」

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真夏の読書

頻繁な移動の最中もできるだけ読書を心がけていますが、この暑さのせいで
疲労が蓄積しているせいか、機中ではウトウトすることも多くなり、読書の
ペースはダウン気味です。
しかしその中でも印象に残った2冊を紹介します。


・ 「NATOの教訓」 グレンコ・アンドリー 著 (PHP新書)

最近の書店の店頭では、ロシアによるウクライナ侵攻がなければ手に取るこ
とも、それどころか出版さえされなかったであろうタイトルの本が多数見受
けられます。
この本もその1冊なのでしょうが、陰謀論よりも現実を直視するスタンスで、
読了した類似の本の中でも極めて冷静な考察が、次の4章に渡ってなされて
います。

第1章 世界最大の平和維持装置
第2章 同盟における妄想と現実
第3章 平和ボケするヨーロッパ諸国
第4章 もし日本がNATOに入ったら

著者はウクライナ出身の国際政治学者で、早稲田大学と京都大学に留学経験
がある知日派です。
それだけにアジア・太平洋方面における政治力学においても造詣が深く、アメ
リカが率いる自由民主主義陣営と中国・ロシアが率いる独裁主義陣営間の
「新冷戦」の構造を明らかにしつつ、日本が学ぶべき国防のあり方にについて
警鐘を鳴らしています。
しかし本書の目的は、読者に「甘い期待」も「無意味な絶望」も与えないとして
います。
であるならば、世界情勢を理解するための必要最低限の情報をまとめた本書
によって、我々が国際情勢の理解と日本の取るべき方針の再構築を考えなけ
ばならないのでしょうね。


・ 「教養としての腕時計選び」 篠田哲生 著 (光文社新書)

本の帯には「どんな腕時計を身につけているか言ってみたまえ。君がどんな人
か言い当ててみせよう」という攻めた一文が…。
これまで多くの腕時計関連本を読みましたが、その内容のほとんどは機械式
時計の歴史や仕組みの解説、クォーツ時計の出現による受難の時代と復興、
有名ブランドの紹介…と似たり寄ったりの総花的なものでした。
もちろんこの本でもこれらの項目は網羅しているのですが、特徴としては
新たな切り口による腕時計の見所と、ここ10年の傾向をアップデートした
内容を、以下の6章で構成しています。

第1章 歴史の裏に時計あり
第2章 時間と時計が人生を豊かにする
第3章 腕時計を買う前に知っておくべきこと
第4章 腕時計の鑑賞学
第5章 時計業界の最新技術
第6章 今買うべき腕時計、30ブランド30選

特に第2章においては、時間の過ごし方=生き方に教訓を与えてくれる時計
は知的好奇心を満たし、人生を豊かにしてくれる存在であるとしています。
そしてクルマの世界でも2000万円を超えるSUV市場が活況を呈していること
を例に挙げて、これらのSUVはハイブランドのファッション×スニーカーの
ようなハイブリッドの楽しさがあるとしています。
昔は、宝飾品や時計や靴は、高級品ほどハレの日やここ一番の時に引っ張り
出していたものですが(今考えてみると貧乏臭い行動です)、現在ではそれらを
普段から身につけてスーパーカーでちょっとそこまで出かける人も増えている
ようです。(結局はガンガン使い倒した方が元も取れるはずなのです)
ラグジュアリーを日常使いするのがトレンドになりつつある…素敵な時代
だと思います。


ザ・グラン銀座においてFRANCK MULLER 30th Aniversary Exhibitionが
開催されます。(7月15日〜17日)
本日招待状が届きました…楽しんできます。

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久しぶりの読書レビュー

飛行機や新幹線での移動中は極力インプットの時間に充てることを心がけて
いるので昨年も多くの本を読了したのですが、レビューを書こうにも時間が
経ってしまうと記憶が薄れてしまうもので…。
そこで記憶に新しい昨年末〜年始にかけて読んだ本の中から数冊抜粋してみ
ると、今年が自身の節目の年になるせいか、やはり老後に向けての生き方や
老後資金について深堀りする内容の本を選んでしまっていることに気づきま
した。


・ 「ジェイソン流 お金の増やし方」 厚切りジェイソン著 (ぴあ株式会社)

芸人、IT企業の取締役、投資家とマルチワーカーとして活躍する著者は、15年
間の資産運用で家族全員が安心して一生暮らせる資産を築いたそうです。
いわゆるFIRE(経済的自立と早期リタイア)がすでに可能だということですが、
そのゴールとする資産規模も質素な暮らしか贅沢三昧の暮らしををするのか
で大きく違ってくるところです。
著者は服は基本買わない主義だし、家で作ったコーヒーを持ち歩くことで、
外ではコーヒーを買わないなどの極端な節約術も実践しているようで、物欲
が強い私には到底理解しがたくて参考にならない部分も多々あるわけですが、
「長期・分散・積立」という投資の基本は私と全く同じです。
違いは著者の投資先が「インデックスファンド」、私は「アクティブファンド」で
あるということ。
それと私は金(ゴールド)に投資していますが、著者は金を始めとするコモデ
ティ投資や暗号資産には手を出さないということ。
考え方や生き様によって様々な選択肢がある投資の世界ですが、指南書とし
ては実に解りやすいので、今後投資を始める方には買いの一冊です。


・ 「還暦からの人生戦略」 佐藤 優 著 (青春出版社)

在ロシア連邦日本国大使館に勤務後、主任分析官としてロシア外交の最前線
で活躍し、2002年には背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴されるという
波乱万丈の人生を歩んできた著者…私とは同世代で、昔からずっと注目して
きた人物です。
これまでは主にインテリジェンスとしての外交問題に関する著作が多かった
のですが、今回の著作では「還暦後」の生き方、具体的には還暦からの孤独と
不安、人間関係とメンタル、働くことの意味、お金との付き合い方、学びと
教養、死との向き合い方について「人生戦略」として深く考察されています。
「教養は孤独を跳ね返す武器になる」と喝破する著者…巻末の池上彰氏との対談
も興味深いものがありました。


・ 「シンプル思考」 里崎智也 著 (集英社新書)

現役時代は千葉ロッテマーリンズの正捕手として、引退後はマルチワーカー
として活躍する著者…「人生の一丁目一番地を決めて行動する」ために必要な
「シンプル思考」を「お金」「趣味」「仕事」「言葉」「人間関係」「失敗」という六つの
視点から説いています。
第一章のタイトルは「マネーのすすめ」…恥ずかしがらずに「お金が大事」と
言いましょう…というもの。
「お金よりも大事なものがあるという概念もひっくるめて、僕にとってはお金
が一番大事。生活が保障されてある程度のものが買えるし、より多くの不幸
を回避できる」と喝破しています。
弱小球団のロッテを逆指名したのも著者の人生における最優先事項「お金」に
直結したから…つまり強い球団では優秀なライバルが多くて出番が少なく
なるし、試合に出てなんぼという戦略上、早い時期から試合に出られそうな
球団をあえて選んだわけです。
日本人は往々にしてお金の話題を避けたがる傾向があるわけですが、「お金
じゃない、夢と感動を届けるのだ」というマジック界の一部に蔓延る大義名分
に拘泥する人には必読の書です。
稼げないプロからは夢も感動も滲み出てきません…プロは稼いでなんぼなの
です。
またユーチューバーとしても有名な著者ですが、「コラボをしない理由」も非常
に説得力のあるものでした。


他には…

・ 「伝説のホテルマンが教える 大人のためのホテルの使い方」
                        窪山哲雄 著 (SB新書)
・ 「変な家」 雨穴 著 (飛鳥新書)
・ 「堂々と老いる」 田原総一朗 著 (毎日新聞社出版)
・ 「あなたが投資で儲からない理由」 大江英樹 (日経BP)

今年もまた多くの本との出会いが楽しみです。

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お天道様は…

ここしばらく読了した本のレビューを書いていませんでしたが、今更書こうと
しても記憶が薄れてしまっています…それでも面白かった本を思い出すと、
「反日種族主義」、「言い訳」、「同窓会に行けない症候群」などなどありま
したが、最も印象深くてインパクトがあったのは、現在40万部以上売れている
「ケーキの切れない非行少年たち」 宮口幸治 著 (新潮社)

非行少年の多くは、その生い立ちや環境のせいで犯罪者になると思われがちで
すが、実は多くが発達障害者や知的障害者であるという事実。
彼らになぜそんなことをしたのか尋ねても、難し過ぎてその理由を答えられな
い子がかなりいるというのです。
「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年もいるくらいですから、被害者も
浮かばれません。
更生のためには内省と自己洞察が必要不可欠ですが、そもそもそれをする能力
が欠落しているのですから「反省以前の問題」なのです。
できるだけ早いうち(小学2年生までだそうです)に親が気づいて、少年院での
教育や矯正ではなく、治療をしてあげるしかないのでしょうね。

この本を読み終えて、前々から感じていたことが確信に変わりました。
デリケートな問題ですから、決して「差別」ではなく、あくまでも「区別」として
誤解を恐れずに吐露すれば…「マジック界にも発達障害やパーソナリティー障害
を持つ者が一定の割合で存在している」(大きな声では言えませんが、小さな声
では響きませんので…)

変な奴だなあと思われても、他人に迷惑をかけないうちはまだいいんですよ。
注意すれば直るだろうと思っていたら、繰り返し似たような事象をやらかす、
すぐに反省や謝罪を口にするものの、何で怒られてるか実は理解していない、
凹んでも立ち直りが早くて、周囲が引くほどテンションが高い…等々。
以前、福岡での某マジシャンのレクチャーの最中に、遅刻した上入室するなり
ガサガサとファミチキを食べ始めた若者がいて、それを咎められると「これは
ファミチキではなく竜田揚げです!」…そこじゃねえよ。
(ちなみにこの若者はガソリンスタンドでバイトした際に、ガソリン車に軽油
を給油してしまう等のミスを頻繁に繰り返していたそうです)

10〜20代までは変な奴で済まされても、ある程度の年齢になるとひたすら
気持ち悪いと思われて、まともな社会人からは相手にされなくなるんですよ。
(賢者ほど笑顔で立ち去ります)
幸か不幸かマジシャンの場合は、不思議な現象を起こすというかなり厚めの
オブラートに包まれているせいか、初対面の観客には気付かれることは少ない
ものの(キャラとして演じていると勘違いしてくれる)、同業という立場で
ちょっと付き合ったり、一緒に働けばすぐに違和感を覚えるものです。

発達障害とまではいかなくても、境界線上のマジシャンは確実に存在します…
ギャンブルで借金まみれなのに「マジシャン達を輝かせるマジックバーを作り
たい」というお題目を掲げて、クラウドファンディングのコンテンツで資金
調達をしようとしたり(もちろんノーマネーでフィニッシュです)、一般客が
辟易しているのに、その空気を読めずにひたすらカードの技法を見せ続けたり
、客から一杯もらうかチップが出るまで厚かましく居座ったり、確信犯として
開き直っているのか、ヘラヘラ笑いながらコピーの道具を悦に入って演じる者
もいる始末。

ルース・ベネディクトは、著書「菊と刀」で、西欧は宗教的倫理観に基いて
自律的に善悪を判断する「罪の文化」であるのに対し、日本は内面的な倫理観
ではなく、他人の目が判断基準となる「恥の文化」だと指摘しています。
(信仰心によって自らを律するのと、他人にどう思われるかで自制心が働く
という違いですね)
確かに日本人は順法意識よりも社会批判を重んじる傾向がありますからね。

そうであれば、日常的に他人の目を意識して緊張感を保てる「お天道様は見て
いる」体制こそが最も効果的なガバナンスだと思うのですが、大切なものが
欠落している連中にはお天道様の目なんて、屁のツッパリにもなりません。
(逆に、お天道様にコピーを見せて自慢するかも)
努力をしない人間は努力をしている人の気持ちが絶対に理解できないという
まさに「不治の病」。

新刊書:「コピーと切れない非行マジシャンたち」…出ても売れんだろうなあ。

 

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この秋の読書レビュー

あっという間に師走、記憶が薄れる前にこの秋に読んだ本の中から3冊の
レビューを…

・ 「富裕層のNo.1投資戦略」  高岡壮一郎 著  (総合法令出版)

まずはこの事実…「日本で販売されている投信で過去10年以上年率10%
以上のファンドはゼロ」(私も複数の投信を所有していますが、たしかに
そんな年率のファンドはありませんね)
それを知った上で理想的なローリスクハイリターンを実現するためには、
世界の富裕層がそうしているように、ヘッジファンドに投資しましょうと
いうのが本書の主旨です。
ヘッジファンドと聞くと敷居が高くて、投資額は数億円以上が条件とかの
イメージがありますが、著者曰く1000万円程度からの投資も可能になって
いるとか…。
トップクラスのファンドマネジャーは資産が数千億円ではなくて、年収が
数千億円…つまり世界の富裕層は高い手数料を承知の上でヘッジファンド
を利用することで、トップクラスのエリート集団の頭脳を借りていると
いうことです。
リーマンショックで世界株式、不動産、金属、原油等が軒並み下落して、
国際分散投資が世界的金融危機には無力であることを露呈した時期でも、
ヘッジファンドが利益を出し続けたのは紛れもない事実ですからね。
本書はなにも富裕層にだけ役立つ本ではありません。
世の中、人それぞれの価値観があり、その優劣はないのですが、富裕層が
なぜヘッジファンドを利用するようになったのか…その背景や理由を知る
ことは、一個人投資家にとっても今後の利益を生み出す確率を、飛躍的に
高めることに繋がるでしょうね。

・ 「富山市議はなぜ14人も辞めたのか」 チューリップテレビ取材班(岩波書店)

2016年、政務活動費の不正受給をめぐって、14人もの富山市議会議員が
ドミノ辞職した事件の真相を綴ったドキュメントです。
北陸のローカルニュースでしたが、全国区のニュースで取り上げられたこ
とで、私もかなり興味を持って注目していた事件でした。
それまでも全国的にも最高レベルの報酬を支給されているにもかかわらず
「市議会のドン」といわれた自民党市議を中心に、議員報酬をさらに月額
10万円引き上げようとの動きを察知したテレビ取材班が、情報公開制度
を活用して政務活動費の領収書の開示請求を行ったことが、不正を暴く
重大な糸口となりました。
読み進めると、まあ腹の立つことばかりで…辞職した議員が政務活動費の
使途について記者会見の場で「まあ飲むのが好きなもんですから、誘われ
れば嫌と言えない性分で。ほとんど飲み代です」と告白していたニュース
映像に呆れたことを鮮明に覚えています。
ドミノ辞職の結果の補欠選挙と2017年4月の選挙を経ても、不正をした
者5人が再選されるとは…いかに富山が保守王国とはいえですよ、富山
市民の皆さん、それでいいんですかね?
いつぞやの号泣議員のニュースで、政務活動費の不正受給があれだけ注目
された後でのこれですからね。
早い話が政務活動費を前払いせずに、精査した領収書と引き換えに後払い
すればいいのに、実施しているのは一部の自治体のみで全国的に広がらな
いのはなぜなんでしょうね?
それにしても熊本の猛女、北口市議もインパクトありますねぇ。

・ 「中国絶望家族」   メイ・フォン 著   (草思社)

30年以上にも及ぶ「一人っ子政策」は中国をどう変えたのか…その人口
政策の矛盾を鋭く分析した一冊です。
2016年に二人目の出産を認め、一人っ子政策に一つの区切りをつけた
わけですが、その手法は共産党一党支配という強大な権力の下に、違反
者への罰金を徴収したり、子供の戸籍を与えなかったりという恣意性と
暴力性に満ちていたようです。
政策施行から30年以上経ち、経済発展のスピードが鈍化し高齢化が進め
ば当然のように年金が不足する一方で、親孝行の基準は国が作り出すわけ
ですが、財力が低下した親と向き合う余裕がない子供達は親孝行の概念を
崩壊させているという現実に警鐘を鳴らしています。
著者のメイ・フォン氏は妊娠、流産、不妊治療、出産と経験していますが、
このことが本書の力強い描写と鋭い分析に活かされているのでしょう。
親になるとは「新たな発見を繰り返しながら人間として成長する」ことな
のに…最後の言葉は重いです。
読了後の率直な感想…ああ、日本に生まれてよかった!

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