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変化を恐れない 4

さて、燕尾服を脱いだらそれなりにメリットもあるもので、出番前の複雑で
面倒なセッティングから解放されて動きが軽快になったことと、出演時間が
少々変更されようがピリピリしなくなりました。(実際には燕尾服への未練を
断ち切れず、動き易い派手目な燕尾服を着た時期もありました…コチラ)

精神的な余裕ができたことで、サイレントアクトの中にちょっとした笑いを
取り入れたり、それまで苦手としていたトークマジックにエネルギーを傾注
できるようになって、レパートリーは飛躍的に増えていきました。
とりあえず様々な演目にトライして、自身のキャラクターに最も合うもの(テレ
ポーテーションの裏側やクラッターボックス等)をブラッシュアップした感じで
すかね。
トークマジックに磨きがかかると、観客をコントロールしたり場を支配する
ことに自信が生まれます。

イリュージョンもサイレントからトークを前面に押し出して観客と一緒に演
じるもの(シースルーギロチン、アキュパンクチャー、ウェイクリングソーイング、
ラダーレビテーション)に変遷していきました。
並行してイリュージョンの幕間に演じるスライハンドマジックも、ゴージャス
に見える演目(紙幣プロダクション、コインラダー等)に特化しました。

理想的なパッケージを幾つか作り上げたことで、長年に渡って潤沢な収益を得
ることができたわけですが、そもそも私の戦略では、年齢に合わせてショーの
規模と内容を変容させていこうと計画を練っていました。
ところが実際のところ、いざ自分が好きな演目やイリュージョンを辞めるのは
相当な覚悟が必要だし、まだまだ体力的にできると思えば辞め時を逸してしま
います。

そうこうしているうちに世間のコンプライアンスはあっという間に厳しくなって
いきました。
何度か書いてきましたが、動物や火気厳禁の現場が増えていったのです。

2000年代まではホールやホテルの宴会場で、炎ボウボウ、スモークモクモク、
特効ドーン!、紙吹雪は散らかし放題、さらに大型鳥は飛びまくり…と自由奔放
な演技が可能だったのです。
これらが禁止されたとなれば、体力的にできるできないの問題ではなく、ルール
上できなくなるわけですから、否応なく演目は変わらざる得ませんでした。

私の場合は結果的に「加齢とコンプライアンスの変化」という「外圧」が背中を
押してくれたのでした。
当時は焦りましたが、今となってはコンパクトながらも自分にピッタリの
パッケージショーができたことで結果オーライだと外圧に感謝しています。
強力な外圧がなければ、いつまでも昔の自分にしがみつくようにダラダラと
続けていたかも知れません。

マジックショーにはアスリートほどの体力は必要ないとしても、どうしても
衰えてくる部分は出て来るもので、30代でやれていたことと40代でやれていた
ことは違うし、50代になれば益々思い通りにいかないことも増えていきます。
そこで私は50歳前後から日常のQOLを上げて様々な変化を楽しめるようにと、
マジック以外でもそれまでの保守的な考え方を改めました。

行きつけの店でのメニュー選びでも初めての料理をオーダーしたり、お店自体
の新規開拓をしたり、服や靴も40代までとは違ったテイストのものにトライ
したり、腕時計も様々なブランドを蒐集してTPOによって選択したり、思い
切って憧れていたクルマに乗ることで街並みの彩度が大きく変わることを体験
できました。

この歳になって回顧すると、「駆け上がる自分と枯れていく自分」「失うものと
引き換えに得られるもの」…起伏や変化のある人生を楽しめるくらいの心の余裕
を持って生きていけば、変化を恐れる必要はありません。


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