重たい一冊
透析…腎不全などの疾患で腎臓の機能が著しく低下したり廃絶した患者の身体
から、過剰な水分や毒素などの老廃物を取り除いて、血液を浄化する治療です。
(現在日本での透析患者は約35万人とされています)
通常一日おきに4時間程度の治療ですから、水分制限はもちろんかなりの行動
制限によってQOLは著しく低下します。(旅行する際は、旅先で透析を受けられ
る医療機関を確保しなければなりません)
この透析のおかげで、多くの腎不全患者が命を長らえることができるように
なったわけですが、治療とはいえ腎臓が再生することはなく、腎臓移植をし
ない限り透析は一生続くのです。
もし透析を止めれば、数日から数週間で死に至ってしまいます。
ここで一冊の本を紹介します…
「透析を止めた日」 堀川恵子 著 (講談社)
これは12年にも及ぶ透析の後に腎臓移植をして透析の鎖から解き放たれた9年、
そして移植した腎臓が寿命で尽き果てると同時に、再び透析に戻って1年余で
旅立った夫と、二人三脚で闘った妻が書き下ろした本です。
私は一般人よりは医学知識があるせいか興味本意で読み進めたところ、透析
患者がどのような最期を迎えるのかを詳しく知って衝撃を受けました。
(正直ここまでは知らなかったというか、知ろうとしなかった部分もあります)
透析医療は入り口の間口は広いので、始めることを決断すれば容易に受ける
ことが可能です。
しかし透析を止めるという選択肢の先には、まともな出口が用意されていない
ことが問題なのです。(4車線の入り口から入ったものの、出口は歩くことさえ難
しい畦道のように細いのです)
透析の中止によって引き起こされる症状は、尿毒症をはじめとして多岐に渡り、
体内の水分を除去できないことによる苦痛は「溺れるような苦しみ」とも言われ、
筆舌に尽くし難い苦しみを伴うそうです。
では最期はホスピスに入って、できるだけ痛みや苦しみを取り除いてもらう
「緩和ケア」を受ければいいのでは…と思ったところ、実は日本の緩和ケアの対象
は保健診療上「がん患者」に限定されているのです。
(専門外とはいえ、恥ずかしながら私はこの事実を知りませんでした)
WHO(世界保健機関)は、病の種類を問わず、終末期のあらゆる患者に緩和ケア
を受ける権利を説いていますが、残念ながら日本ではそうなっていないのが現実
です。
ある意味「がんで死ねるのは幸せだ」と言われる所以ですね。
先日の深夜番組で、自身も透析治療をしているというお笑い芸人のハチミツ二郎
さんが闘病生活について赤裸々に語っていました。
「海外での腎臓移植には3500万かかるが、円安で5000万になっている」
「移植のドナーは16年待ちの状態だが、透析患者の平均余命は16年」
「透析は一日おきだから一話完結の時代劇を観ている。連続ドラマは不可」
お笑い芸人だけに明るく語って笑いを誘っていましたが、この本を読了した直後
の番組だっただけに、その表情の裏側にある悲壮感や焦燥感はヒシヒシと伝わっ
て来ました。
一日も早く末期の透析患者が保険診療で緩和ケアを受けられる時代となることを
願うばかりです。
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