相応しい現場を選ぶ
先日は神戸のホテルで二人の後輩マジシャンとの共演でした。
今回も「アイスペールの貫通」を演じたところ、狙い通りの反応が得られました。
円卓の観客のグラスを借りて演じることで不思議さが増幅されるわけですが、
今回は透明のクリスタルテーブルで演じたことで、さらに不思議さが補強され
たようです。
ただ貫通現象とは言っても、ビジュアルとしては金属のペールが数秒で15cm
程度動くだけです。
観客が集中力を欠いてちょっと目を離せば、すぐに現象は完結してしまいます。
仮にこのマジックを、客の多くが酔っ払って酒を注ぎ合って盛り上がっている
忘年会や賀詞交換会、数百人規模のガヤガヤした立食パーティー、あるいは
そこにアイスペールがあるだけで違和感のある野外のお祭りなどで演じたとした
らウケたでしょうか?…おそらく「え、何か起こったの?」程度の反応でしょう。
不思議さがしっかり伝わってウケるためには、それに相応しい環境…つまり
「そのマジックに相応しい現場」であることが必須なのです。(アイスペールに関し
ては、ハイクラスの観客で円卓着席のパーティーのみで演じることにしています)
騒がしい立食パーティーでトークマジックを演じたところ、誰一人話を聞いて
くれず全く無視されて焦りまくったマジシャンも多いことでしょう。
私はこれを視界には入ってはいても誰も意識していない「待合室の絵画状態」と
呼んでいます。(もう少し存在感があれば「熱帯魚状態」でしょうか)
この手の現場は知名度のある人でも出喝采をもらうのみで、最後まで惹き付けて
おくのは至難の業なので、無名のマジシャンの場合は派手目のサイレントアクト
やイリュージョンでやり逃げするしかないのです。(何をやってもウケる気がしない
ので、現在の私はこのような案件は最初からお断りしています)
では、老人ホームや幼稚園児の前で理解力が必要な小難しいメンタルマジック
(ブックテスト等)を演じたらどうなるでしょうか?…おそらくその場の誰も幸せ
にはなれないでしょう。
貧乏臭いマジシャンがお祭りやショッピングセンターで宝石やお札を沢山出し
ても誰も本物とは思いません(現に本物じゃないし)。
往々にしてマジシャンは自分が演じたいものを客に押し付けがちです。
自分に似合わないマジックをさらにそのマジックに相応しくない現場で演じたら、
取り返しがつきません(戦略のミスは戦術では取り返せないことの典型です)。
各々のマジシャンにも各々の演目にもウケるべくしてウケる相応しい現場がある
はずなのです。
マジックを格闘技だと仮定すれば、立ち技系格闘技のリングにわざわざ寝技のみ
で挑んでも不利なわけで、逆もまた然りです。
剣道の試合に素手で挑んだらタックルする前に竹刀でボコボコにされるでしょう。
それなりに実績のあるマジシャンは自身が何者で何が強味なのかを理解した上で、
どんなマジックが自分に合うのかを選別するセンスを備え、どんな現場が自分に
相応しくて最も本領を発揮できるのかを熟知しています。
つまり闇雲にどんな案件でも引き受けるのではなく「勝てるリングに上がっている」
から勝ち続けているのです。
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