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収益効率 3 [マニピュレーション]

前回からの続きです…

ステージマジックの分野では花形とも言える、指先のテクニックを駆使して
演じるマニピュレーション芸…いわゆるスライハンドマジックを得意とする
マニピュレーターの収益効率はどうなのでしょう。

この分野は業界においてはコンテスト向きで、一般人の理解度を超えて同業
者に認められたいハイスペックを目指す人が多く、収益効率など度外視して
高みを目指すための稽古に励む覚悟がないマジシャンは、それを看板にする
ことはないでしょう。

ただ同業者をも唸らせるテクニックも一般客に理解されなければ、もはや
ハイスペックどころかオーバースペック…つまり自己満足に過ぎなくなり、
そこに大きな収益は期待できません。
法定速度内で走るクルマでも十分に速いと感じる一般人には、最高速度が
250kmと300kmのクルマの差は理解できないのです。
実際の営業現場はサーキット(マジックコンベンション)ではありませんから。

長い歴史の中で海外の一流マニピュレーターがどの程度のレベルの暮らしを
していたのかは知る由はありませんが、同業者ウケなど眼中になく、一般人
の目線に合わせることで成功したマジシャンは多く存在しているはずです。
ただ私が知る限り、コンテストで受賞した海外のマニピュレーターも、実際
の営業現場においてはコンテストアクトでは持ち時間を満たすことができず、
凡庸なイリュージョンやトークマジックの営業手順でお茶を濁しているのが
現実です。
海外のマジシャン達のプロモーションビデオを見てもそれを確認できますし、
実際にコンベンションで多くのマジシャン達に会った時に、通常の営業出演
ではどんなマジックを演じているのかを確認したこともあります。

国内においては、経済的に誰もが憧れるほどの成功を収めたマニピュレーター
は寡聞にして聞いたことがありません。
受賞歴をアピールしたとて社会的地位が上がった試しはないし、生活レベル
にほとんど影響が及んでいないことが受賞が機能していない証左です。
人生の流れとしては、コンテスト受賞→コンベンション巡り→レクチャーや
道具販売で糊口をしのぐ…というのがよくあるパターンです。
普段の営業出演で披露して収益を上げようにも、角度に弱かったり、特殊な
照明が必要だったり、ステージを散らかすなどの理由でなかなか買い手が見
つからずに燻ってしまい、そのストレスがコンベンションへと向かわせると
いう側面もあります。

オーバースペック気味のマニピュレーターにありがちな自己肯定感を満たす
ナルチシズムの香りに包まれる多幸感と長年演じてもなかなか収入に直結し
ない虚しさのコントラスト…完成までにかけてきた時間と見返りを天秤にか
けると、最も収益効率が低い分野かもしれません。
それでもスライハンドマジックをノーミスで巧く演じきった時の達成感は、
お金には代え難いものがあるからこそ、マニピュレーション沼に入っていく
のです。

もっと報われて評価されるべき分野なのですが、自ら収益効率の低い「宮大工」
を目指したのであれば、一般住宅の受注がなくて稼げないことを嘆くのは
矛盾しています。

次回4へ続く…

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