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夏の読書レビュー 1

・ 「スラッジ」 キャス・R・サンスティーン 著 (早川書房)

本書は米オバマ政権で情報・規制問題室長として行動科学に基づく政策実現
に取り組んだ著者が、「何かを手に入れようとする人々の行く手を阻むもの」を
「スラッジ(ぬかるみ)」と定義して、その理論をまとめたものです。

例えば自治体が「申請さえすれば生活困窮者には給付金を出します」と呼びか
けておきながら、実際には膨大な書類が必要なシステムにして諦めるように
誘導したり、選挙の投票率を上げたいと言いつつも、無党派層の動きを封じ
込めたいのか、いつまでたっても決められた日に投票所に足を運ばせる等、
とにかく手間と時間がかかったり面倒な移動を強いらせたりして、私たちの
行動や選択を邪魔するものはこの社会のあちこちに潜んでいるわけです。

反対の概念である「ナッジ」…つまり「人々がより良い選択を自発的に行うよう
にする仕掛け」は、すでに活用されています。
身近な例では、レジ前の床に一定間隔を開けるようにテープや足型を貼る
ことや、居酒屋のトイレの壁の「いつもきれいに使って頂きありがとうござい
ます」という張り紙もその一つではないでしょうか。

一見面倒そうに思えて、実は「良いぬかるみ」もあるようです。
「離婚の届け出は熟考を促すために、インターネットでは受理しない」などが
該当します。

スラッジは他山の石としないとマジックにも起こり得ることです。
例えば「不思議のぬかるみ」に拘泥して余計な演出を加えた結果、フォーカス
がぼやけて何を表現したかったのか意味不明となり、そこに説明能力の
欠如が追い打ちをかけて、全くウケなくなるパターン。
あるいは一般客を対象にプロフェッショナルとしての王道を歩んでいても、
やっぱり同業者に賞賛されたくてマニアの寄り合いに戻ってしまうという
「マジック村のぬかるみ」もあります。
一度スタンスが崩れると、もはや糸の切れた凧状態…。
これらの例は他人が仕掛けたものではなくて、多くは自業自得なのですが、
まさに冒頭に書いた「何かを手に入れようとする人々の行く手を阻むもの」
そのものでもあるのです。

私個人の意見…他人が仕掛けたものの中で最も悪質なぬかるみは、「解約の
やり方が見つけにくい企業ホームページ」じゃないのかな。

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