スキミング戦略 8
最終回です…
これまで7回(番外編を含めると8回)に渡ってマジックビジネスにおける
スキミング戦略について書いてきました。
スキミング戦略を成就させる上で第一義とすべきものは何か…それは何度も
強調していますが、差別化をはっきりと標榜することに他なりません。
差別ではありません…「差別化」です。
世の中では当然のように差別化はまかり通っています。
飛行機に乗れば、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスと
分けられているのが普通ですが、高額な料金を支払ったファーストクラスの
乗客が、「他のクラスの乗客よりも目的地に早く着く」わけではありません。
あくまでも優先搭乗や機内サービスの差別化であって、それぞれが支払った
対価によって、座席のグレードとサービス内容に差があることは周知されて
納得済みですから、そこに不平不満等のトラブルは発生しません。
翻ってマジシャンの場合、それなりの報酬を要求して「どんなマジックを見せ
てくれるのですか?」と問われた時に、はっきりとした差別化のために、腕に
自信のある人がつい強調したくなる「誰よりも巧く」は実は通用し辛いのです。
(そもそも質問と答えが噛み合っていませんし…)
なぜならタネがわからない以上、一定レベルを超えた巧さの価値は一般人
には理解し難いために、報酬には反映し辛くなるからです。(ですから、巧さ
を認められたいマジシャンは、同業者が賞賛してくれるコンテストに活路
を見出すわけです)
「誰よりも巧くやる」ではなく「誰もやっていないことをやる」あるいは「誰も
見たことがないものを見せる」と自信を持って売り込めるか否か、つまり
相場観に流されないことが重要な分水領となります。
富裕層の顧客を獲得するという意味では、ブランディングの頂点とも言える
高級車のディーラーや高級腕時計販売のエキスパートに近い感覚も必要かと
思います。
単に「移動手段としての車」や「時間を知るための時計」という本来の機能だけ
を満たして事足りるのであれば、価格帯でもこれだけの差がある業界が成立
するわけがないのです。
「走るだけなのに、時間を知るだけなのに…なぜそんなに高額なのか?」と
懐疑的な人は、そもそもショールームやブティックを訪れません。
先に述べたように、飛行機において、到着時間は同じなのに料金は何倍も違
う座席のグレードの差別化が納得できない人は、ファーストクラスには座り
ません。
「特別な時間と体験を提供するマジシャン」であればこそスキミング戦略を採る
ことは、私は当然であると思っているし、もし実践するつもりがあるならば、
これらの業界の差別化がなぜ連綿と続いて圧倒的な支持をする顧客が絶えな
いのか…その理由を他人に説明して、ルサンチマンを論破できるレベルまで
理解するべきだと思います。
一定レベルのマジックの知識とスキルでマジシャンとしての武装をしている
ことは当然として、その上で身なりの清潔感、社会人としてのマナーと常識
(失礼ながら市井のマジシャンの中には、これが欠けた変な人を散見します)、
さらにある程度の語学力を身に付けておくことに越したことはないし、政治
経済の動向、一流ブランドやファッションのトレンドに幅広く精通した上で
さらに「聞き上手」であれば申し分ないでしょう。
最悪なのは、話題に事欠いて得意なマジックの話に強引に戻したり、客との
会話で無聊をかこって、無意識にカードやコインをいじり始めるタイプです。
マジック(武器)は主役ではなく、それを使わなくても豊富な話題と物怖じし
ないコミュニケーション能力(素手)で勝負できる「人間力」の方が重要です。
「只者ではない雰囲気を纏った常識人」であることが理想像かもしれません。
そこに気が付いたマジシャンにとっては、このフィールドはブルーオーシャン
に違いありません。
スキミング戦略…完
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