スキミング戦略 3
前回からの続きです…
昔から全く変わっていない事象として、コンテストの受賞歴に目を向ければ、
世界的なコンテストで受賞したとしても世間で全く認知されない証左として、
テレビニュースにもならず、新聞にも載らず、一般人の間でも全く話題にも
ならないのは何故なのでしょう?(ストンと腑に落ちる理由を解説出来る方が
いるのであれば、ご教授頂ければ幸甚です)
この業界に長く身を置く者として、また若かりし頃は国内外のコンテストに
出て一喜一憂した者として、その辛苦や歓喜を理解できるだけに、受賞者が
世間に認知されないことは本当に残念で忸怩たる想いです。
先頃鬼籍に入られたアントニオ猪木氏の自著「猪木寛至自伝」(新潮社)には
次のような一節があります…「ボクシングであれば大新聞が記事にする。
しかしプロレスは絶対に取り上げない。どんなに人気があっても、私たち
は世間から蔑まれているのだ」…なにやら芸能界におけるマジックの扱われ
方に似ているような気がします。
世間的に知名度のない肩書きをズラリと並べて「俺はチャンピオンだ!」と
アピールしても、営業ギャラがさほど上がるわけでもなく、現実の仕事と
してはスキミング戦略に該当する場に呼ばれることは稀で、主戦場は相変
わらずコンベンションのゲストやマジックバーだったりで、実際の暮らし
ぶりからは、その栄光の肩書きが経済的に機能しているとは思えません。
結果、その価値を理解してくれる仲間内で賞賛する甘美に酔いしれ、覇業
を誇りながらも、生きるためにはペネトレイティング戦略を練るしかなく
なるのです。
お笑い界の賞レースでは500〜1000万円の優勝賞金が用意される上に、
その後の努力次第ですが、「売れる」という未来を約束されているからこそ
新陳代謝が加速して業界全体が活性化しているのです。
そしてここが大事なのですが、その新陳代謝を損なわないように、大御所
が賞レースに出て新人の邪魔をすることはありません。(もし審査員クラス
が出てきたら、忖度の嵐が吹き荒れてドン引きになるでしょう)
翻ってマジック界はどうなのでしょう?…敵は同業マジシャンではなくて、
他分野のエンタメなのですから、ショービジネスのリングに一瀉千里で突
き進む姿を見せつけるべきだと思うのです。
一般人から「世界的なコンテストで受賞したら、賞金はいくらくらい貰える
のですか?」と訊かれて困惑したマジシャンも多いのではないでしょうか?
私も幾度となく質問されたことがあって、「いや賞金はなくて名誉(?)だけ
なんですよ。副賞として次回の大会のゲストになれる程度で、トロフィー
を手に帰国しても、空港にマスコミやファンが待ち受けているなんてこと
はありません。せめて普段のギャラを少しでもアップするきっかけになれ
ばいいのですが…」と答えると、大抵の人は「えっ、自腹で海外まで行った
のに、そんなものなんですか?」と驚きます。(個人的にはピアノのショパン
コンクール程度の権威と知名度があればなあ…と思うところです)
今後プロを目指す世代に対してどうすれば「受賞したら(経済的に安定した)
素晴らしい未来が待っている」と自信を持って示せるのでしょうか?
何故こんな現状なのか…世間への発信よりも内輪で盛り上がって完結して
満足しているせいなのか、あるいは「色モノ」や「河原乞食」のイメージで、
稼がなくても「芸人の美学」として現状を受け入れたままの日本のマジシャン
の社会的地位が低過ぎるのか…マジック界全体で再考すべきではないかと
思います。
次回4へ続く…
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