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スキミング戦略 1

私はビジネス上の指針として、機会ある度に「スキミング戦略」という言葉
を使ってきました。
マジックビジネスに関してはもちろん、他の仕事においても基本的には
その戦略に基づいた戦術を採っています。

そもそもの意味は「ビジネスモデルの導入期において、富裕層をターゲット
として高価格を設定することで、先行者利益を獲得すること」という理解で
構わないと思います。
それに対して、低価格を設定することを「ペネトレイティング戦略」と言い
ます。

スキミング戦略に踏み切る際には、3つの条件を考慮する必要があります。
1. 価格が高すぎて、売れ行きが悪くならないように注意すること。
2. 新規参入障壁が高く、競合者の出現が当面無いと考えられること。
3. 需要の価格弾力性が低くて、高価格品の購入者が期待できること。

振り返ると、私は若い頃にはスキミング戦略というものすら知らず、特に
これらを意識することなく活動していたのですが、自分が理想とする働き
方を実践しながら、労力と価値に見合った報酬を獲得しようとする過程で、
いつの間にかこの路線を選択していたというのが正直なところです。
その結果一つ言えるのは、他人の報酬を気にしてしまうと、業界の相場と
いう非常識な常識に流されて、自らが価格設定することを躊躇してしまう
恐れがあること。
そして現在の方針としていることは、充分な先行者利益を獲得後に、ビジ
ネスモデルがコモディティ化して差別化と収益化の効率が低下した時点で、
その分野への注力の縮小、あるいは撤退を検討するようにしています。

大学卒業後、私は研修医として大学病院に勤務するかたわら、自身のマジ
シャンとしてのスキルと市場の需要を勘案しつつ、プロに転向した場合の
成否のシミュレーションを繰り返していました。
熟考した結果、イケると踏んだ私は、辞表を提出してプロマジシャンと
しての活動をスタートしたわけです。
決して好きが高じて闇雲にスタートしたわけではありません。

冒険しない人生は後悔する…つまりカッコつけて「退路を断つ」のではなく、
「退路がある強み」を最大限に生かして、アマチュアとしての活動に終止符
を打ち、あえてスキミング戦略を採るプロマジシャンとしての真価を世に
問うてみたくなったのです。

退路を断つというのは、実は選択肢が無くなってそうせざる得なくなった
人が、その現実を糊塗して、自らの意思であるかのように正当化あるいは
美化している場合がほとんどです。
そしてそのような人は追い詰められると、往々にしてペネトレイティング
戦略を採りがちです。
明確な意志決定の上に安全な退路がいくつもあった方が堅実な人生である
ことは言うまでもなく、逃げ道も補給路も断たれた兵士のように、座して
死を待つことは、決して潔い美学だとは私は思いません。

次回2へ続く…

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