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マジックと自己表現

以前「ファッションと自己表現」について書きましたが、今回は「マジックと自己
表現について書いてみましょう。

マジシャンは一般人と違って、それが職業であれ趣味であれ、総合力やセンス
の集大成として、最も自己表現を発露しやすい芸能を取り扱っているのだと
思います。
マジックの現象はもの凄いパワーを秘めています…それゆえハマった時には
絶賛されて、スベった時には地獄を見ます。
どんなにお金をかけて衣装に凝ったとしてもテーブルや道具が貧相だったり、
そもそも技術が未熟だったりすると、一気にバランスが崩れてしまいます。

裕福なアマチュアの押入れや倉庫には、衝動買いしたマジック道具が溢れて
います。
自身が何者なのか、そして向き不向きを理解していれば、それらのほとんど
は買わずに済んだのかもしれませんが、あらゆるものに手を出して、次々に
レパートリーを増やすことが自己表現だという考え方もあるし、純粋な道具
コレクターかもしれないし、何よりもこのような顧客がマジックショップの
経営を支えているわけだし…まあこれには正解がないのかもしれません。

「生まれ変わるならこの人になりたい」と思わせるほどの憧れのマジシャンが
いるとしたら、その憧れの人はきっと自らを俯瞰から見ることに長けていて
己が何者でどこが強みかをしっかりと理解し、それがどうすれば観客に伝わ
るかを徹底的に研究し尽くした上で、衣装、メイク、BGM、セリフ、手に
する素材を吟味して完成させたアクトで自己表現をしているはずだし、その
結果、間違いなく稼いでいるはずです。

そりゃあ、上辺だけをコピーしても敵うわけがないのです。
それはサイレントアクトだけではなく、爆笑を生み出すトークでも同様です。
他人のウケている演技に影響されると、本人には全く似つかわしくない毒舌
やブラックジョークを吐いて大火傷するのが関の山だし、そんなマジシャン
を現に何人も見てきました。

コピーする者は、憧れのマジシャンが何故そしてどうやってそこに辿り着い
たのかを理解していないどころか、自身が何者かも理解しないまま、他人の
演技や演出をリスペクトすることなく、あたかもレストランのメニューに
見立てて「今日は何を食べようかな、あれ美味しそうだな」程度にしか思って
いないのです。
そしてパクったギャグを連発しながらコピー道具を嬉々として演じます。

タチが悪いのは演出を盗むことです。
その優れた演出やセリフや使い方に憧れたからこそ、その道具をネットで
探してしまうのです。
その演技を見ていなかったら、興味も示さずに永遠に見過ごしていた道具
だったでしょうに。
そして先人が工夫したことも評価せず、その道具は元々そうやって使うもの
なのだと頭に刷り込まれているのです。

コピーと自己表現は決して繋がることはありません…なぜなら「自己」が欠落
しているからです。

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