人生100年時代
少し前になりますが、6月27日の読売新聞に、還暦にして医師に転身した
元農水官僚の記事が載っていました。
以下、記事を要約すると…
還暦で研修医になって67歳の現在は主に訪問診療に従事されており、その
姿はベテランのように見えても経歴はまだ8年目です。
新たな挑戦では自らを律する生活を課し、仕事から帰宅すると必ず午後10時
に寝て午前3時に起き、出勤時間までは勉強に充てる生活を続けました。
医学部受験では学力だけではなく年齢もハードルになるもので、面接では
「医師としてどれだけ働けるのか」、「若い人の芽を摘んでしまうのでは」という
耳の痛い言葉も飛んできたとか。(医師の育成には税金も投入されているし、
医学部には定員もありますからね)
仕事と勉強を両立した5年間で受験した大学は全国で延べ50校!
2010年、55歳にして金沢大学医学部に合格しました。
これからの目標は「生涯現役、100歳まで医師として働くこと」だそうです。
官僚時代は日夜働きづめで、法案審議の国会対応、他省庁との調整…多忙を
極める中で、国を下支えしている自負はあったものの個人として感謝される
ことはなく、「誰かの役に立つ実感」とか「ありがとう」と言われる仕事をした
かった…
というのが転身の理由だとされると、いかにも優等生のインタビュー用の
答のような印象を持ってしまいます。
まさにマジシャンが「お客様に夢と笑顔と感動を届けるために…」と宣うのと
同義のような…。
しかし深読みすると、きちんと本音の部分も吐露されていました…
キャリア官僚はピラミッド型の組織で、若手の頃から50代になった上司が
人事担当者に呼ばれる光景を随所で見かけた。
ある程度の役職まで務めた官僚の多くは、本省を離れて関連機関などに異動
していく。
「行く末が見えているのが嫌だった」。
漠然と50歳を官僚としてのゴールに定めた。
この医師の場合、「行く末が見えているのが嫌だった」というのが転身の本音
のようですが、翻ってプロマジシャンを諦める人は、「行く末が見えないのが
嫌になった」というのが正直なところでしょう。
先輩を観察して10年後の自分を投影した時に「ゾッとする」のは共通だとしても
マジシャンの場合はそれ一本で生きていこうと覚悟した時点で、行く末が
見えないのは自明の理のはず。
後輩の前ではイキリたいのか、稼いでいる雰囲気を醸し出していたのに、
いざコロナ禍ではあたふたする姿をさらけ出す先輩マジシャンにも責任は
ありますが、若手の中にはプロになった後も同世代の同業者にマウントを
かけたいのか、やれ世界大会だ、やれコンテストだと一般社会では知名度
ゼロの世界に大きなエネルギーを費やしながら、実生活では安いギャラで
マジックバーに搾取される生活を続ける人もいるわけで、それに不満がある
ならば、そこにはその道を選択した自己責任もあると思います。
華やかな世界に憧れても堅実さを忘れてはいけません。
以前も書きましたが、「アリとキリギリス」のアリのような堅実さを維持しな
がらも、いざスポットライトの下ではキリギリスのように振る舞うのが
マジシャンの理想像だと思います。
人生100年時代といえども、稼げる実働時間は決して長くはありません。
そこに理想や生き甲斐まで求めるとしたらなおさらです。
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