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2022年7月

人生100年時代

少し前になりますが、6月27日の読売新聞に、還暦にして医師に転身した
元農水官僚の記事が載っていました。
以下、記事を要約すると…

還暦で研修医になって67歳の現在は主に訪問診療に従事されており、その
姿はベテランのように見えても経歴はまだ8年目です。
新たな挑戦では自らを律する生活を課し、仕事から帰宅すると必ず午後10時
に寝て午前3時に起き、出勤時間までは勉強に充てる生活を続けました。
医学部受験では学力だけではなく年齢もハードルになるもので、面接では
「医師としてどれだけ働けるのか」、「若い人の芽を摘んでしまうのでは」という
耳の痛い言葉も飛んできたとか。(医師の育成には税金も投入されているし、
医学部には定員もありますからね)
仕事と勉強を両立した5年間で受験した大学は全国で延べ50校!
2010年、55歳にして金沢大学医学部に合格しました。
これからの目標は「生涯現役、100歳まで医師として働くこと」だそうです。

官僚時代は日夜働きづめで、法案審議の国会対応、他省庁との調整…多忙を
極める中で、国を下支えしている自負はあったものの個人として感謝される
ことはなく、「誰かの役に立つ実感」とか「ありがとう」と言われる仕事をした
かった…
というのが転身の理由だとされると、いかにも優等生のインタビュー用の
答のような印象を持ってしまいます。
まさにマジシャンが「お客様に夢と笑顔と感動を届けるために…」と宣うのと
同義のような…。
しかし深読みすると、きちんと本音の部分も吐露されていました…

キャリア官僚はピラミッド型の組織で、若手の頃から50代になった上司が
人事担当者に呼ばれる光景を随所で見かけた。
ある程度の役職まで務めた官僚の多くは、本省を離れて関連機関などに異動
していく。
「行く末が見えているのが嫌だった」。
漠然と50歳を官僚としてのゴールに定めた。

この医師の場合、「行く末が見えているのが嫌だった」というのが転身の本音
のようですが、翻ってプロマジシャンを諦める人は、「行く末が見えないのが
嫌になった」というのが正直なところでしょう。
先輩を観察して10年後の自分を投影した時に「ゾッとする」のは共通だとしても
マジシャンの場合はそれ一本で生きていこうと覚悟した時点で、行く末が
見えないのは自明の理のはず。

後輩の前ではイキリたいのか、稼いでいる雰囲気を醸し出していたのに、
いざコロナ禍ではあたふたする姿をさらけ出す先輩マジシャンにも責任は
ありますが、若手の中にはプロになった後も同世代の同業者にマウントを
かけたいのか、やれ世界大会だ、やれコンテストだと一般社会では知名度
ゼロの世界に大きなエネルギーを費やしながら、実生活では安いギャラで
マジックバーに搾取される生活を続ける人もいるわけで、それに不満がある
ならば、そこにはその道を選択した自己責任もあると思います。

華やかな世界に憧れても堅実さを忘れてはいけません。
以前も書きましたが、「アリとキリギリス」のアリのような堅実さを維持しな
がらも、いざスポットライトの下ではキリギリスのように振る舞うのが
マジシャンの理想像だと思います。

人生100年時代といえども、稼げる実働時間は決して長くはありません。
そこに理想や生き甲斐まで求めるとしたらなおさらです。

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夏の目の保養

ザ・グラン銀座で開催されたFRANCK MULLER 30th Aniversary Exhibition
に招待されたので、7月15日の夕刻に参加してきました。
1992年のブランド創設から30年…もう30年、いやまだ30年としか感じない
のは、100年以上の歴史を誇る老舗が居並ぶスイス高級腕時計の世界の中で
圧倒的に若い後発者なのに、瞬く間にトップグループに名を連ねる存在に
なったからに他なりません。

私が銀座の高級クラブに出演し始めた頃は、客の腕にはパテックフィリップ
やロレックスを目にすることが多かったのですが、次第にトノー型の妖艶な
腕時計をちらほらと見かけるようになり、それがフランクミュラーであるこ
とを知って、チップを貰って有り難がっているこんな自分でも、いつかそれ
を普通に着けられるマジシャンになりたいというモチベーションに火が点い
たことをはっきりと覚えています。

今回のエキシビションでは、通常店頭では見ることのできない限定モデルや
希少モデルなど、様々なラインナップを直に見れて、良い目の保養になりま
した。
高級腕時計メーカーと高級車メーカーがパートナーシップを締結してコラボ
時計を発表することは珍しくはありませんが、今回個人的に気になったのが
ロールスロイス レイス ブラックバッジとコラボした、クレイジーアワーズ
ブラックバッジモデル…フランクミュラー得意のギミック機構を光沢のある
大型のケースで包み、ブルーの差し色が鮮やかな作品で心が揺れました。
しかし350万円という価格はもちろん、セカンドカー購入の予定があるため、
ここはグッと踏み留まりました。
最近の円安とゴールド価格の上昇もあって、ほとんどのモデルで近々大幅な
値上げが予定されているようです。
さて、目の保養の後は担当のMさんとフレンチのフルコース料理を堪能。
憂鬱になるニュースが次々と耳に入ってくる昨今の殺伐とした空気の中で、
こんな一日があると良いリフレッシュになりますね。

偶然にも7月15日の読売新聞には「高級腕時計 好調」との記事が…
コロナ禍で海外旅行や外食の機会が減り、浮いたお金が高額品購入に向かい、
高級腕時計の売り上げが過去最高を更新するだけでなく、平均購入価格帯が
30万円アップして100万円を超えているとのこと。
ビジネスの場で信用の証しとして使われたり、アクセサリー感覚で身に着け
たりと目的も様々なようですが、生産量が限られるうえ、コロナ禍で工場が
一時閉鎖された影響で数年待ちのモデルも少なくないのが現状で、投資対象
としての人気も高まっています。
当然のように値上がりを期待した転売目的で購入する人もいて「正規店では
買いたくても買えない」といった不満も強まっています。
中古価格も上昇し、新品同様なら正規の数倍の価格で買い取るケースもあり、
業界関係者からは「異常な状態だ」との声も聞かれるようです。

この事象は高級車市場も同様で、数年待ちの人気車種は中古価格が新車価格
を凌駕する状態になっています。

高級腕時計や高級車の話題になると必ず「どうせ自慢したいだけだろ!」とか
「そんなもの必要ない!」と言い張るルサンチマンが出てくるものですが、
その意見もあながち間違いではないでしょう。
生きていく上で「なければないでも困らないもの」なのですが、だからこそ
魅力的なのです。
それを頭から否定するのは「主食の米さえあればデザートなんか必要ない!」
と叫んでいるようで、そんな彩りのない人生はちょっと寂しい気がします。

アストンマーティンの最新SUVであるDBX707の特別試乗会の案内が届き
ましたが、残念ながらその日は予定があって参加することができません。
驚いたのは完全予約制で貸切のサーキットで試乗会を開催するということ。
最速、最強、最高のハンドリングを標榜するからこそ、そのポテンシャル
を存分に体感してもらうためにはサーキットが最適なのでしょう。
しかしSUVがサーキットを駆け抜ける…凄いことです。

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真夏の読書

頻繁な移動の最中もできるだけ読書を心がけていますが、この暑さのせいで
疲労が蓄積しているせいか、機中ではウトウトすることも多くなり、読書の
ペースはダウン気味です。
しかしその中でも印象に残った2冊を紹介します。


・ 「NATOの教訓」 グレンコ・アンドリー 著 (PHP新書)

最近の書店の店頭では、ロシアによるウクライナ侵攻がなければ手に取るこ
とも、それどころか出版さえされなかったであろうタイトルの本が多数見受
けられます。
この本もその1冊なのでしょうが、陰謀論よりも現実を直視するスタンスで、
読了した類似の本の中でも極めて冷静な考察が、次の4章に渡ってなされて
います。

第1章 世界最大の平和維持装置
第2章 同盟における妄想と現実
第3章 平和ボケするヨーロッパ諸国
第4章 もし日本がNATOに入ったら

著者はウクライナ出身の国際政治学者で、早稲田大学と京都大学に留学経験
がある知日派です。
それだけにアジア・太平洋方面における政治力学においても造詣が深く、アメ
リカが率いる自由民主主義陣営と中国・ロシアが率いる独裁主義陣営間の
「新冷戦」の構造を明らかにしつつ、日本が学ぶべき国防のあり方にについて
警鐘を鳴らしています。
しかし本書の目的は、読者に「甘い期待」も「無意味な絶望」も与えないとして
います。
であるならば、世界情勢を理解するための必要最低限の情報をまとめた本書
によって、我々が国際情勢の理解と日本の取るべき方針の再構築を考えなけ
ばならないのでしょうね。


・ 「教養としての腕時計選び」 篠田哲生 著 (光文社新書)

本の帯には「どんな腕時計を身につけているか言ってみたまえ。君がどんな人
か言い当ててみせよう」という攻めた一文が…。
これまで多くの腕時計関連本を読みましたが、その内容のほとんどは機械式
時計の歴史や仕組みの解説、クォーツ時計の出現による受難の時代と復興、
有名ブランドの紹介…と似たり寄ったりの総花的なものでした。
もちろんこの本でもこれらの項目は網羅しているのですが、特徴としては
新たな切り口による腕時計の見所と、ここ10年の傾向をアップデートした
内容を、以下の6章で構成しています。

第1章 歴史の裏に時計あり
第2章 時間と時計が人生を豊かにする
第3章 腕時計を買う前に知っておくべきこと
第4章 腕時計の鑑賞学
第5章 時計業界の最新技術
第6章 今買うべき腕時計、30ブランド30選

特に第2章においては、時間の過ごし方=生き方に教訓を与えてくれる時計
は知的好奇心を満たし、人生を豊かにしてくれる存在であるとしています。
そしてクルマの世界でも2000万円を超えるSUV市場が活況を呈していること
を例に挙げて、これらのSUVはハイブランドのファッション×スニーカーの
ようなハイブリッドの楽しさがあるとしています。
昔は、宝飾品や時計や靴は、高級品ほどハレの日やここ一番の時に引っ張り
出していたものですが(今考えてみると貧乏臭い行動です)、現在ではそれらを
普段から身につけてスーパーカーでちょっとそこまで出かける人も増えている
ようです。(結局はガンガン使い倒した方が元も取れるはずなのです)
ラグジュアリーを日常使いするのがトレンドになりつつある…素敵な時代
だと思います。


ザ・グラン銀座においてFRANCK MULLER 30th Aniversary Exhibitionが
開催されます。(7月15日〜17日)
本日招待状が届きました…楽しんできます。

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