ブランディング
余程の才能に恵まれない限り、何かを成し遂げるためには何かを犠牲にし
なければならないことは論を俟ちません。
学業の成績を伸ばすためには、他人が遊んでいる間でも勉学に励んだり、
ダイエットを成就させるには、食の誘惑を断ち切らなくてはなりません。
マジシャンとしてのステータスを確立するためのブランディング戦略に
おいても同様で、時にはやせ我慢をしたり何らかの犠牲を払わなければ
ならないこともあるはずです。
成し遂げたい事象のスケールに比例して、その犠牲も大きくなっていく
ことでしょうね。
ところで、目的を成し遂げた人の中には、特に努力もせずに現在のポジ
ションを手に入れたと公言して、犠牲を認めない人もいます。
これは本人の意識の問題(苦労を楽しめるとか、犠牲にしたものに対する
鈍感さ)なのでしょうが、一切の犠牲を認めない人には、少なからず自身
に対してのごまかしや自分史を美化する目的もあるように感じます。
努力したことや犠牲を払った事実がダサいと感じて、糊塗してしまうの
です。
勉強なんてほとんどしなかったのに、難関校に合格したという類の話が
代表的なものです。
中高時代にもいましたよ…定期試験当日の朝に「あーあ、昨夜はつい寝て
しまって全然勉強できなかったよ」と嘯きながら、トップクラスの成績を
獲るやつ。
受験においては、大抵は高い月謝を払って有名塾に通って必死で勉強を
しないとブランド校には合格しません。
ブランド校に合格することがイコール人生のブランディングに直結すると
いう短絡的な話ではなく、現実問題としてそれを構築していく過程では、
時間と努力とお金が必要ということです。
ある本に、かの有名デザイナー、シャネルの戦略が書かれていました。
フランスは階級社会であり、どんなに有名でも、どんなに才能があっても、
どんなにお金持ちでも「ファッションデザイナーは商人にすぎない」という
理由から、シャネルが上流階級のサロンに招かれることはなかったのです。
怒りの中で彼女は行動を起こします。
人気急上昇中の芸術家たちを招いて、夜な夜な魅力的なパーティーを主催
して、ここに参加できることこそがステータスであるというイメージ戦略
に打って出たのです。
上流階級の人たちは、話題のシャネルのサロンに招かれたくてうずうずし
始め、彼らは競うようにして自分たちのサロンにシャネルを招待するよう
になったのです。
これはシャネルがデザイナーの社会的地位を向上させた歴史的意義のある
「事件」であり、ブランディングによって自由を得るための努力や出費を惜
しまなかったシャネルの投資例の一つです。
世界的マジシャンであるカパーフィールドの場合でも、初期の特番におい
ては、それほど有名ではなかった彼のために誰もが知る超有名人を次々に
MCやゲストに起用したことが、若きマジシャンのブランディング構築に
功を奏したというエピソードをマジック専門誌の記事で読んだことがあり
ます。
シャネルのエピソードに戻りますが、「ファッションデザイナーは商人にす
ぎない」という部分が、私の脳内で「マジシャンは芸人にすぎない」に変換
されてしまいました…いや、いいんですよ芸人のままで。
ただ様々なタイプのマジシャンがいるのに、世間からは「…にすぎない」などと
河原乞食のようなネガティブなイメージを少なからず持たれている側面が、
マジシャンのステータスを向上させたいと感じている私にはちょっとだけ
引っかかっているのですよ。
「それのどこが悪い? ブランディングなんてカッコつけてんじゃねえよ。
どう思われようが芸人は芸人のプライドを持って生きればいいんだよ!」
…てな具合に、現在のステータスやポジションに満足して拘泥する方々は、
「末路哀れは覚悟の前」がしっくりくるほどそれこそ強固にブランディング
されているわけですから、それはそれで立派ではありませんか。
お見逸れしました。
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