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マルチワーカー (番外編)

過去何度も複業(副業ではなく複数の本業)をこなすマルチワーカーについて
書いてきました。

コロナ禍において大きなダメージを受けた業界としては、マジックを含む
エンタメ業界、飲食業界、旅行・観光業界が代表的なものとされていますが、
「週刊ダイヤモンド」に興味深い記事を見つけました。
それはテレワークの普及で通勤機会が減少したことでスーツが売れなくなり、
スーツ専門店が「脱スーツ」に全力を挙げている…という事象。

日本を代表するスーツ4社(青山商事、AOKI HD、コナカ、はるやまHD)の直近
の通期決算は営業赤字に転落しているものの、各社の事業内容を検証して
いくと、同じスーツ専門店であってもその苦境の度合いには格差が存在し、
「脱スーツ」の成否(つまり複業の成否)が企業の先行きを左右しつつあるの
です。

以下、記事の内容を要約すると…

業界1位の青山商事で堅調な成果を収めているのは実はフランチャイズの
事業群で、売り上げの10%を占める100円ショップ「ダイソー」のFCで、
同6%を占めるのが「焼肉きんぐ」のFCです。
スーツ専門店は郊外に立地している店舗も多いので、異業種企業と組んで
FCとして業態転換も可能であることは納得できます。

業界2位のAOKIは、売り上げ全体に占めるスーツの割合は4分の1程度。
AOKIでスーツよりも売り上げが大きいのは、オレンジ色の看板を目印に
する複合カフェ「快活CLUB」で、現在493店舗を展開して業界首位に君臨
し、スーツ事業の落ち込みを補って余りある状況を鑑みれば、先行して
「脱スーツ」に成功していると言えるでしょう。

上位2社はスーツの一本足打法に見切りをつけて第二の人生を歩み始めて
いるわけですが、下位2社は迷走しているようです。
コナカはレディースブランド「サマンサタバサ」の筆頭株主になったことが
完全に裏目に出たし、一本足打法を続けたはるやまは売り上げ不振の上に
親族経営にありがちなお家騒動の真っ最中で、回復の兆しが全く見られ
ない状況です。
先行きが厳しいスーツ市場で、ヒットも出ず、新規事業がうまくいかなけ
れば、業態転換してFC商売で生きていくか、淘汰されるしかないでしょう。

結局スーツ業界も冷静かつ迅速にマルチワークにシフトした会社が生き残
る可能性が高いという証左です。

翻ってマジック業界はどうでしょう。
一本足打法信奉者の「本物のマジシャンならマジック以外の収入を得るな、
自分はそうしてきたのだ」という浪花節的な武勇伝はもう通用しません。
それはまるでバブル期のスーツ専門店の論理そのものです。
純粋に「本物のマジシャン」であることに拘るならば、厳密に定義すれば、
レクチャーも道具の販売もバー経営もせずに、ショーのギャラのみで生き
ていく姿を見せるべきです。

マジック業界のみに身を置いていると視野が狭くなって、出演ギャラ以外
の収入を得ることもプロとして当然だと思いがちですが、他の業界のプロ
と比較すれば、その違いは歴然です。

現役のプロ野球選手は、空いている時間に有料の草野球教室を開催して、
自らバットやグローブを販売することはありません。
ゴルフのトーナメントプロは賞金で食べているのであって、地方の練習場
でレッスンプロのような真似はしませんし、アマチュアにゴルフセットを
売りつけたりしません。
売れている歌手は、素人を集めてカラオケ教室の先生はやりません。

自称プロマジシャンはマジックと少しでも関係があれば、自分がやって
いることはプロの業務としてセーフであると都合良く解釈しているのが
現実で、ある意味ではすでにマルチワーカーなのです。
マジシャンは営業出演以外にもマジックに関連した何らかの収入源を見出
すことが可能ですが、その優位性を棚に上げて、いつか売れることを夢見
てコンビニでアルバイトをしている若手お笑い芸人に「お笑い以外の仕事
をするな!」と面と向かって言えるでしょうか?

自戒を込めて言えば、年配になるほど「こうすべきだ、かくあるべきだ」など
と自身の成功体験を若手に押し付けてしまう傾向があります。
もう時代が違うのです…若くしてバブルのあぶく銭でイリュージョンが
やれたことも、緩いコンプライアンスのおかげで、いつでもどこでも
ファイヤーマジックや動物マジックができたことも、遠い過去の思い出
になるのです。

私以上の世代は一本足打法の「逃げ切り世代」として人生を全うできるかも
しれませんが、これからの世代はなかなかそうはいきません。
「アリとキリギリス」のキリギリス的な生き方をしてきた人も、今回の
コロナ禍で懲りたはずです。
しかしコロナが収束したとして、喉元過ぎれば…を繰り返すのであれば、
その楽観的な呪縛を払拭しない限り、必ず遭遇するであろう将来の災禍
を乗り越えることはできないでしょう。

安定してマジックを続けるために、またハイブリッドな人生の安全運転
のためにも、マルチワークはもはや「任意保険」なのです。

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