何者になりたいの?
マジックの道を選択した理由やモチベーションの拠り所として、「お金では
ない、夢を見せたい、笑顔を届けたい」という好感度抜群のセリフを宣う人
が、昔も今も一定数は存在しているものです。
反対に「好きなマジックで稼ぎたい」、「テレビに出て有名になりたい」、あるいは
「コンテストで優勝して同業者から一目置かれたい」等の俗物的な考えの人は、
たとえそう思っていたとしても、世間に向けて正直に吐露することには
抵抗があることでしょう。(こちらのタイプの方が一般的だと思いますが…)
過去には、「お金ではない」と言いながらも、ただ生き残りたいことが透け
て見えているのに、「夢や笑顔」を大義名分とした眉唾ものとしか思えない
クラウドファンディングも散見されました。
いや、他人様に迷惑をかけなければ、それはそれで全然いいのですよ。
「聖人君子の本音」であろうが「上辺だけの虚飾」であろうが、つまりそれこそ
が建前上は「やり甲斐」というゴールに帰結するわけですね。
どうやら、夢や笑顔を届けるというその「やり甲斐」とは、仕事をした客から
感謝されるということを意味するらしいのですが、社会の基本的な法則、
あるいは世間の常識としては、お金をもらう側が感謝をするのですから、
仕事をして感謝をされようというのは明らかな筋違いであり、はっきり
言えば、甚だ図々しいのですよ。
もちろん払う側が感謝することもありますよ…ただしそれは生命に関わる
ようなこととか、相手がお金以上の仕事をしてもらったと感じた特別な
場合のみでしょう。
アマチュアが慰問でショーを行う際にもありがちですが、相手の感謝を
「栄養源」にして生きていくことは、感謝の強要にも繋がりかねない危険な
ことでもあるのです。(拙い芸を演じた側がストレス発散をしていることが
多いのですから、逆に感謝するべきでしょう)
普通に仕事をしているというのは、直接感謝をされなくても社会に貢献
していることは間違いないのですから、プライドを持って自分で自分を
褒めればいいのですよ。
それすらできなくなったら、そんな仕事は辞めるべきでしょうね。
人は、自分が過去に成してきた努力や熱量の記憶があるのならば、現在
の自分が、ほぼほぼ予想通りの人生を歩んでいることに気づくはずです。
マジシャンの道を選択した場合でも、こんなはずではなかったと思う人
は少なく、ほぼほぼ自分の予想通りのマジシャンになっているのではな
いでしょうか。
日々は選択の連続で、自分の欲望を基本として、自分が進む道(自分が
望むマジシャン像)を選んで歩んでいるのです。
中国製のコピーだと知っている上で手を出すのも自分の選択だし、本物
が欲しいのに手が出ない不甲斐なさも、そうした選択の歴史を積み重ね
た結果なのです。
もしも、己の不甲斐なさを棚に上げて他人を妬むとしたら…妬まれる側
ではなく、妬む側を選択したのも、恐ろしいことに自分自身なのですよ。
欲しいものや、やりたいことがあれば、ほとんどのことは実現します。
なぜなら、欲望が強ければモチベーションに火が点いて、それを入手
する方法や実現する方法を考えたり工夫したりという活動を開始する
からです。
ただし、夢や笑顔を届けるという世間受けを狙って好感度を上げる程度
の欲望では、本物のモチベーションに点火することは絶対に不可能です。
欲望が強いほど、少なくともそこへ近づこうとはするし、諦めなければ
少しでも近づき続けます。
もし実現しなかったとしたら、それは「諦めよう」という選択をしたことに
他ならず、結果的にはそれすらも望んだ通りになったということです。
いったい何を求めて何者になりたいのでしょうか?
夢や笑顔を届ける配達人でしょうか?…そんなものが「着払い」で届いたら
いい迷惑です。
ましてや「代引き」で届いたら殺意すら抱くかもしれません。
夢や笑顔の定期購入だけは、思わずクリックしないように要注意です。
(コピーイリュージョンもクリックしちゃダメですよ)
マジックに限らず、どの業界であろうと「飯を食う」のは楽なことではあり
ません。
夢とか笑顔とか…「食い方」にまでこだわるのなら、なおさらです。
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