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マジックと愛車遍歴 9 (最終回)

いよいよ最終回になりました…

「鳥の話」では、自身の代名詞ともなったバードアクトを完成させるまでの苦悩
と隆盛、そして鳥達と過ごした歴史を振り返りながら書き下ろしました。
また「チップ論」では、クロースアップマジシャンとして、銀座での17年の経験
をもとに、高級クラブを舞台に繰り出される「チップ」とは何かという本質に
迫りました。

そして今回は、37年間に連れ添った7台の愛車達とマジックの関係について
回顧してみました。
この新たな切り口でマジック人生を振り返ることによって、マジックが車選び
の中心になったり、逆に、選んだ車によってマジックの内容が影響を受けた
りと、その変遷には深い相関関係があったことに気づかされて、良き備忘録
にもなりました。

とりとめもなく書き留めた駄文にお付合い下さり、有り難うございました。

私はカーマニアでもコレクターでもなく、自宅の駐車場も1台分のスペース
しかないために、車を同時に複数台所有したことはなく、常に1台買えば、
1台手放すという乗り換えを繰り返して、その車種も、まるで違うタイプで
あったせいか、それぞれに強烈な思い出が深く刻まれていました。
特定の音楽を聴くと、その頃の情景を思い出す…そんな感じです。

ここは、コレクターを自認する腕時計とは大きく異なるところですね。
過去には数本の腕時計を後輩に譲渡したことはありますが、今でも多くは
所有したままです。
確かに、やっと入手した思い出深い時計もあれば、衝動的に1年に2〜3本
買うこともあったりで、車ほどのエモーショナルな情景は浮かびません。
また、腕時計ブランドのパーティーで、マジシャンとしてのオファーが
あるというのは、ある意味では仕事との相関関係が存在するとは言えます
が、私個人の目的の大部分は、ファッションとしての所有欲なのであって、
車のようにダイレクトに仕事に結びつくものではないという認識です。

時々、「短期間で色んな車を取っ替え引っ替えしながら、贅沢をしてきた
のでは?」と言われることがあります。
確かに1年で手放したアウディがありましたが、10年も乗ったベンツも
あるわけで、37年で7台(水没したクライスラーを入れると8台)というのは
平均で5〜6年は乗っていることになります。
そのほとんどは道楽ではなく、不具合が発生するまで仕事で使い倒したし、
不可抗力によって手放さざる得なかったりしたわけで、決して贅沢をして
きたわけではありません。

しかしながら、マジシャンという職業を舐められたくないという思いが
強いだけに、世間から見たマジシャンのイメージというかステータスを、
少しでもアップさせたいという願望もあって、マジシャンとしての見栄を
張ることも含めて、多少の背伸びをしてきた部分はありましたね。

さて前回書いたように、夏の終わり頃には、愛車キャデラックATSクーペ
とお別れすることになります。
その理由は二つあります。

一つは、腰の調子が良くないので、現在の車高の低さでは乗り降りが辛く
なったこと。
特に2ドアクーペなので、コインパーキングで、隣の車に当たらないように
気を遣いながら、長くて厚くて重たいドアを開閉するのも大変だし、目線
が低くて視界が狭い状態での運転も辛くなってきたので、乗り降りが楽で
視界も広いSUVに乗り換えることにしたのです。

そしてもう一つ…実はこれが本当の理由なのですが、昨年から自身が幾つ
もの疾患に罹患して手術や病院通いが続いた上に、コロナ禍の憂鬱な空気
に覆われてストレスは溜まるし、大学時代の同級生や同世代のマジシャン
の訃報も届くようになったことで、自身の年齢を考えてみると、今のうちに
好きな車にでも乗って楽しんでおかないと、人生は何が起こるかわからな
い…と、強く意識し始めたことです。(正直、マジックに関してはやりきった
感があるので、後悔はないし満足はしています)

そこで欲望のリミッターを外して、完全な道楽で選んだのが、メーカー初
のSUVであるアストンマーティンDBX。
プレミアムSUVのフィールドでは、最大のライバルであるランボルギーニ
ウルス、ベントレー ベンテイガ、ポルシェ カイエンターボと比較して、
最も美しいと感じたし、ボディーカラーから内装までコンフィギレーター
を駆使して希望通りにカスタマイズできるのはもちろん、試乗した際に痺
れた、AMG製4リッターV8ツインターボエンジンの咆哮、極上の乗り心地
のエアサスペンションと視界の広さ、そして決定打となったのは、男なら
一度は憧れた、あのボンドカーのアストンを操舵しているという圧倒的な
高揚感で、迷う余地はありませんでした。

まさにキャッチコピー通り…「美しさには容赦がない」
お財布にも容赦はありませんが…。

・ アストンマーティンDBX (2021〜)


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