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マジックと愛車遍歴 8 (前編)

・ キャデラック ATS クーペ (2016〜2021)

ベンツのコモデティ化と種類の多さによるヒエラルキー(200万円台〜数千万)
に嫌気がさした結果、車選びは振り出しに戻りました…。

車選びの際に、最初から手放す時のリセール価格を考えて、無難な白や人気
の車種を選択する人もいるようですが、実用品としての車選びならば、それ
も有りなのでしょうが、気分を上げるための嗜好品という考えで選ぶならば、
他人の好みや評価などは一切気にせずに、自分の気持ちと正直に向き合う
べきだと思うのです。

そうこうしているうちに、キャデラックからCTSセダンとATSクーペの2車種
で、それぞれ限定5台で特別色(ダークアドリアティックブルー メタリック)の
車が販売されるという情報が飛び込んで来ました。
私好みの濃いネイビーだし、限定5台なら迷っている時間はありません。
ネットで概要を確認後、現車も見ずにATSクーペをオーダーしました。
ヤナセの担当者によると、私のが5台のうちの3台目だったそうです。
キャデラックといえば、バカでかいイメージを持つ方が多いと思いますが、
当時のラインナップでは、ATSは最もコンパクトで、セグメントや車格とし
ては、ベンツCクラスやBMW3シリーズがライバルと位置づけられています。

納車されてから初めて乗ってみたわけですが、車内空間は過去の車の中では
最も狭く、長身の人が後席に座るとかなり窮屈ですし、トランク容量も過去
最小です。
実用性を重視するなら、大型のCTSセダンの方にしとけばよかったかなとも
思いましたが、ここはスタイリッシュさで選ぶと決めた以上は、初志貫徹で
ATSクーペにして正解だったと思います。

実用性で考えると、スポーツカーやクーペは「スペース効率からすると割高」で、
ロジカルな買い物ではないということになりますが、ただ買い物というのは
常にロジカルに進められるものではなくて、いわゆる行動経済学においては
「経済は感情で動く」とされており、つまりは明らかに合理的ではない選択肢
にお金を払うのが消費者であるとしています。
スポーツカーやクーペの場合は、「荷物は積めないし割高だけど、カッコいい
ので」という理由で選ばれていることになり、「荷物は積めるし価格も安い」と
いう数値で判断できる合理性より、「カッコいい!」という数値化できない感情
が上回った結果だということになります。
そうであれば、「馬力の強さ」や「燃費の良さ」や「荷室の広さ」といった数値
ではなく、「不便で維持費もかかるけど、どうしてもこれに乗りたい! 絶対に
これが欲しい!」という感情に直接訴えかける車作りに専念するメーカーが
存在するのも当然のことなのでしょう。

これは腕時計選びにおいては、もっと顕著だと言えるでしょう。
車の最大の機能が「移動の手段」であるならば、時計の最大の機能は「時間
の確認」であるはずです。
しかし市場では、どのように時間を読み取ればいいのかすらも分からない
複雑怪奇なデザインの時計や、針が見えないほどの宝石ギラギラの時計など
も決して珍しいわけではなく、こうした時計は高額でも意外と売れているの
です。
これこそ、経済は感情で動くことの典型例であるし、多くのラグジュアリー
ブランドは、この感情と合理的ではない行動に支えられて繁栄しているので
しょう。
私も全く合理的とは言い難い、文字盤も針も全てが真っ黒で視認性が最悪の
フランク・ミュラーを所有しており、これを着けている時はほとんどスマホ
で時間を確認しています。
結局、不便さよりもカッコよさが勝ってしまったわけですよ。

生涯ベンツだけを乗り継いだり、ロレックスだけを蒐集する人がいるように
車選びにしろ腕時計選びにしろ、一つのブランドをずっと貫き通すタイプの
人もいれば、仕事や年齢やファッションの変遷に合わせて、リセール価格は
度外視して、欲望に正直に選択するタイプの人もいるわけです。(私です)

マジックにおいても、もはや伝統芸と言っても過言ではないほど、同じ演目を
連綿と演じ続けるマジシャンもいれば、世の変遷や時代の要望に合わせて
フレキシブルに演目を変えていくマジシャンがいるなど様々です。
もちろん私は私なりのやり方で、満足出来る人生を謳歌するために歩んでき
たつもりだし、その戦略と戦術はまさに百人百様のはずです。
ですから、その多様性を認めず、自分のやり方こそが常識の中心であると勘
違いして、自分の物差しから外れる人を安易に貶すことは、現代のSNS社会
に生きているからこそ、厳に慎むべきだと思います。

映画「カジノ」の劇中で、ロバート・デ・ニーロが演じる予想屋のサム・エース・
ロススティーンのセリフが印象に残っています…

「やり方は三つしかない。一つ目は正しいやり方、二つ目は間違ったやり方、
そして三つ目は俺のやり方だ」

次回、後編へ続く…

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