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2021年6月

2021年 初夏

ここのところ「マジックと愛車遍歴」のみを書いてきたので、今回は近況を
つらつらと…。

6月10日、2回目のワクチン接種が終了…接種直後からカロナールを服用した
ので、接種当日の副反応による発熱は無し。
実は、接種して数時間後には飛行機に搭乗予定で、空港での検温時に発熱
して移動できなかったらどうしようと懸念していましたが、無事に搭乗できま
した。
接種翌日の昼過ぎから、37.4℃の発熱と軽度の頭痛と倦怠感が出現しました
が、寝込むほどではありませんでした。
しかし、接種後2日間程度は、完全オフ日にした方が無難でしょうね。
コロナ禍で里帰りも出来ず、親父の法要もずっと延期になっていたのですが、
90を過ぎた母親も二人の姉も妹も、早々に2回目の接種を終了しているので、
来月には久しぶりに親族が集って、三回忌の法要を行う予定です。
巷では、「コロナはただの風邪」と言う人もいますが、あの重症化率の高さを
見れば、ただの風邪ではないことは明らかでしょう。
それと、「コロナ菌」ではなくて「コロナウイルス」です。

映画「茜色に焼かれる」を鑑賞…
「ヤクザと家族」での好演も印象に残っていますが、今回の作品は俳優としての
尾野真千子の代表作となるでしょうね。
交通事故で夫を亡くし、シングルマザーとしてアルバイトをかけもちしながら
必死に生きる主人公に、追い打ちをかけるように襲いかかる差別や悲劇…。
事情は人それぞれで違うのでしょうが、中洲のホステスさんでも似たような
境遇の方々を多く知っているし、街中のロケで、エキストラではない人達もが
マスク着用していることから、コロナ禍での現在進行形の物語として、心に
深く刺さりました。
問題に直面する度に主人公が呟く「まぁ、頑張りましょう」という口癖が印象に
残ります。

映画といえば、コロナ禍で上映が延期になっている007の最新作「007ノー・
タイム・トゥー・ダイ」…劇中には、なんと4台のアストンマーティンが登場する
とのことですが、そのフラッグシップである「DBSスーパーレッジェーラ 007
エディション」が、50台限定で市販用(約3,900万円)に生産されました。
現在のところ、日本仕様に関してのアナウンスはないものの、全世界限定と
なっているところから、何台かは導入されるかもしれませんが、もうすでに
完売しているでしょうね。
しかしまあ、カッコいい! ホイールがエグい! 厳つい! 乗りたい!
その全貌は…コチラ

ここで私事です…7月後半に、某アマチュアマジッククラブの発表会にゲスト
出演する予定(本来は昨年の予定でしたが今年に延期)なのですが、もともと
狭い会場の座席を半減させて、招待客のみでの開催とのことなので、ここで
の集客目的の告知は遠慮させていただきます。
すっかりステージ感覚が錆び付いてそうなので、そろそろウォーミングアップ
を始めます。

まぁ、頑張りましょう…

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マジックと愛車遍歴 9 (最終回)

いよいよ最終回になりました…

「鳥の話」では、自身の代名詞ともなったバードアクトを完成させるまでの苦悩
と隆盛、そして鳥達と過ごした歴史を振り返りながら書き下ろしました。
また「チップ論」では、クロースアップマジシャンとして、銀座での17年の経験
をもとに、高級クラブを舞台に繰り出される「チップ」とは何かという本質に
迫りました。

そして今回は、37年間に連れ添った7台の愛車達とマジックの関係について
回顧してみました。
この新たな切り口でマジック人生を振り返ることによって、マジックが車選び
の中心になったり、逆に、選んだ車によってマジックの内容が影響を受けた
りと、その変遷には深い相関関係があったことに気づかされて、良き備忘録
にもなりました。

とりとめもなく書き留めた駄文にお付合い下さり、有り難うございました。

私はカーマニアでもコレクターでもなく、自宅の駐車場も1台分のスペース
しかないために、車を同時に複数台所有したことはなく、常に1台買えば、
1台手放すという乗り換えを繰り返して、その車種も、まるで違うタイプで
あったせいか、それぞれに強烈な思い出が深く刻まれていました。
特定の音楽を聴くと、その頃の情景を思い出す…そんな感じです。

ここは、コレクターを自認する腕時計とは大きく異なるところですね。
過去には数本の腕時計を後輩に譲渡したことはありますが、今でも多くは
所有したままです。
確かに、やっと入手した思い出深い時計もあれば、衝動的に1年に2〜3本
買うこともあったりで、車ほどのエモーショナルな情景は浮かびません。
また、腕時計ブランドのパーティーで、マジシャンとしてのオファーが
あるというのは、ある意味では仕事との相関関係が存在するとは言えます
が、私個人の目的の大部分は、ファッションとしての所有欲なのであって、
車のようにダイレクトに仕事に結びつくものではないという認識です。

時々、「短期間で色んな車を取っ替え引っ替えしながら、贅沢をしてきた
のでは?」と言われることがあります。
確かに1年で手放したアウディがありましたが、10年も乗ったベンツも
あるわけで、37年で7台(水没したクライスラーを入れると8台)というのは
平均で5〜6年は乗っていることになります。
そのほとんどは道楽ではなく、不具合が発生するまで仕事で使い倒したし、
不可抗力によって手放さざる得なかったりしたわけで、決して贅沢をして
きたわけではありません。

しかしながら、マジシャンという職業を舐められたくないという思いが
強いだけに、世間から見たマジシャンのイメージというかステータスを、
少しでもアップさせたいという願望もあって、マジシャンとしての見栄を
張ることも含めて、多少の背伸びをしてきた部分はありましたね。

さて前回書いたように、夏の終わり頃には、愛車キャデラックATSクーペ
とお別れすることになります。
その理由は二つあります。

一つは、腰の調子が良くないので、現在の車高の低さでは乗り降りが辛く
なったこと。
特に2ドアクーペなので、コインパーキングで、隣の車に当たらないように
気を遣いながら、長くて厚くて重たいドアを開閉するのも大変だし、目線
が低くて視界が狭い状態での運転も辛くなってきたので、乗り降りが楽で
視界も広いSUVに乗り換えることにしたのです。

そしてもう一つ…実はこれが本当の理由なのですが、昨年から自身が幾つ
もの疾患に罹患して手術や病院通いが続いた上に、コロナ禍の憂鬱な空気
に覆われてストレスは溜まるし、大学時代の同級生や同世代のマジシャン
の訃報も届くようになったことで、自身の年齢を考えてみると、今のうちに
好きな車にでも乗って楽しんでおかないと、人生は何が起こるかわからな
い…と、強く意識し始めたことです。(正直、マジックに関してはやりきった
感があるので、後悔はないし満足はしています)

そこで欲望のリミッターを外して、完全な道楽で選んだのが、メーカー初
のSUVであるアストンマーティンDBX。
プレミアムSUVのフィールドでは、最大のライバルであるランボルギーニ
ウルス、ベントレー ベンテイガ、ポルシェ カイエンターボと比較して、
最も美しいと感じたし、ボディーカラーから内装までコンフィギレーター
を駆使して希望通りにカスタマイズできるのはもちろん、試乗した際に痺
れた、AMG製4リッターV8ツインターボエンジンの咆哮、極上の乗り心地
のエアサスペンションと視界の広さ、そして決定打となったのは、男なら
一度は憧れた、あのボンドカーのアストンを操舵しているという圧倒的な
高揚感で、迷う余地はありませんでした。

まさにキャッチコピー通り…「美しさには容赦がない」
お財布にも容赦はありませんが…。

・ アストンマーティンDBX (2021〜)


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マジックと愛車遍歴 8 (後編)

現在の愛車キャデラックATSクーペ…納車の前に、ネットでエクステリアを
確認した時、顔がちょっと控えめで迫力不足だなあと感じていたので、アメ
リカからメッシュグリルを輸入して装着すると、クライスラーとまではいき
ませんが、適度なワル顔に変身しました。
そしてこのネイビーの特別色は、想像以上に美しいものでした。

走りの方はというと、サイズ感の取り回しも良くてキビキビ走るのですが、
前車クライスラーの5.7リッターHEMIエンジンがモンスターでしたから、それ
に比べると、物足りなさは否めませんね。
排気量が半減したことによって、自動車税も半額になったことは有り難いの
ですが、左ハンドルなので、駐車券の出し入れやドライブスルーの受け取り
の際は不便です。

昔からなのですが、ゼネラルモーターズは何故かキャデラックの右ハンドル
モデルを作らないんですよねえ。
それが理由で諦める日本人が多いことはメーカーサイドも理解してないはず
がないのに、日本市場で本気で売る気があるのか甚だ疑問です。
ベンツやBMWと互角に競える格とクオリティーを備えているし、アメリカの
大統領専用車としてお馴染みですから、右ハンドルをリリースすれば売れ
るはずなんですけどねえ。
現に、コルベットが今年初めて右ハンドルをリリースすると発表した途端、
多くの予約が入っているようですから。

また2ドアクーペの宿命ですが、ドアが長くて分厚いので、駐車場で隣の車
との距離に余裕がないと、乗り降りしにくいのは大きな欠点です。
私はまだ経験はありませんが、駐車場に戻った時に両隣の車が寄せて停め
ていると、乗ることができずに帰れなくなるのです。
ドアが跳ね上がるガルウイングのタイプだと、完全にアウトでしょうね。
知り合いのディーラーの話では、マクラーレンの持ち主がこの状況に遭遇
して、隣の車が移動するまで一時間半も待っていたことがあったとか…。

さて、5年目を迎えた愛車ですが、次の車検を通さずに、お別れすることに
なります。
この車は、マジックの仕事で使ったことは一度もありません。
せいぜい鳥の餌の買出しや、打ち合わせの現場に乗っていく程度でしたね。
私にとっての車というのは、これまではずっとマジックという仕事に直結
していたので、それを度外視して道楽のみで乗ったのは、この車が初めて
だったわけですが、車道楽に出費することの罪悪感を少しだけでも払拭し
てくれた意味では、この車には本当に感謝しています。

この車をマジックの仕事で使ったことはないと書きましたが、実は予言の
マジックに使えるように、ある仕込みをしていました…客が任意に決めた
3桁の数字を引いたり足したりして、最終的にはある4桁の数字を導き出す
という知る人ぞ知る数理トリックがあるのですが、愛車のナンバープレート
をその4桁の数字にしたのです。
この4桁の数字を導き出した後に、スマホで愛車の写真を見せて、ナンバー
プレートを拡大すると…それはそれはウケますね。
納車の日にヤナセのショールームで演じた時は、目の前に予言された現車
があることで、スタッフの皆さんが驚愕したのは言うまでもありません。

このトリックを知ったのは、2005年にイギリスのマジックコンベンション
に参加した際にディーラーブースで見つけた、ある「ペン」でした。
見た目は「Sharpie」そっくりのペンの側面に、ある予言のロゴマークと4桁の
製造番号が刻印されたもので、客にペンを渡して、そのロゴマークや4桁の
数字を、あたかも客自身が自由に選択したかのように誘導していくという、
優れたメンタルマジックです。
この数理トリックの原理は昔からあったものですが、賞賛すべきは、この
数字をペンに刻印することで、最初に具現化(これこそがオリジナル)した人
にこそあると思います。
このペンを10本程度購入して、帰国後に数人の後輩マジシャン達にお土産
として配りました。
その数年後、幾つかのバリエーション違いのペンが国内でも出回りました。

さて、次は初めての大型のSUV(Sport Utility Vehicle)に乗る予定なので、
キャデラックATSクーペよりは断然荷物は積めるでしょうが、おそらくは
マジックの仕事で使うことはないでしょう。
(ナンバープレートだけは、この4桁の数字を踏襲する予定です)

現在の世界の自動車市場で活況を呈しているSUV…その中でもベントレー、
ロールスロイス、ランボルギーニ、アストンマーティン、ランドローバー、
ポルシェ、マセラティなどのハイエンドメーカーが市場に投入した超ド級の
プレミアムSUVが売れています。
コロナ禍によって、海外旅行に行けなくなった世界中の富裕層が、絵画や
宝飾品や高級車などの爆買いに走り、これらのハイエンドメーカーの売り
上げは概ね前年比2倍以上で、販売車種の半分以上がSUVなのです。
ポルシェに至っては、販売車種の7割以上をSUVのカイエンとマカンが占め
ているのが現実ですから、フラッグシップであるポルシェ911が最も売れて
いた時代を思うと、隔世の感があります。

これらは常識的に考えると「無用の長物」ではあるものの、「それでも欲しい!」
と思わせるからこそ、とんでもない価格なのに売れ行きが絶好調なのです。
究極の実用品として、その巨大な体躯とタイヤで悪路や砂漠や沼地といった
オフロードを走破するSUVが、舗装された日本の街中を走り回る現状を鑑み
れば、それは「無駄」であって、決して「合理的判断」とは言えないでしょう。

しかし古来の日本、いわゆる「いとをかし」な時代では、無駄なことが好まれる
傾向があったと認識していますが、現代でも「無駄を楽しむ」ことは心に余裕
を持たせる意味で大切なことだと、私は思います。

「無駄」は無駄ではないはずです。

次回、9(最終回)へ続く…








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マジックと愛車遍歴 8 (前編)

・ キャデラック ATS クーペ (2016〜2021)

ベンツのコモデティ化と種類の多さによるヒエラルキー(200万円台〜数千万)
に嫌気がさした結果、車選びは振り出しに戻りました…。

車選びの際に、最初から手放す時のリセール価格を考えて、無難な白や人気
の車種を選択する人もいるようですが、実用品としての車選びならば、それ
も有りなのでしょうが、気分を上げるための嗜好品という考えで選ぶならば、
他人の好みや評価などは一切気にせずに、自分の気持ちと正直に向き合う
べきだと思うのです。

そうこうしているうちに、キャデラックからCTSセダンとATSクーペの2車種
で、それぞれ限定5台で特別色(ダークアドリアティックブルー メタリック)の
車が販売されるという情報が飛び込んで来ました。
私好みの濃いネイビーだし、限定5台なら迷っている時間はありません。
ネットで概要を確認後、現車も見ずにATSクーペをオーダーしました。
ヤナセの担当者によると、私のが5台のうちの3台目だったそうです。
キャデラックといえば、バカでかいイメージを持つ方が多いと思いますが、
当時のラインナップでは、ATSは最もコンパクトで、セグメントや車格とし
ては、ベンツCクラスやBMW3シリーズがライバルと位置づけられています。

納車されてから初めて乗ってみたわけですが、車内空間は過去の車の中では
最も狭く、長身の人が後席に座るとかなり窮屈ですし、トランク容量も過去
最小です。
実用性を重視するなら、大型のCTSセダンの方にしとけばよかったかなとも
思いましたが、ここはスタイリッシュさで選ぶと決めた以上は、初志貫徹で
ATSクーペにして正解だったと思います。

実用性で考えると、スポーツカーやクーペは「スペース効率からすると割高」で、
ロジカルな買い物ではないということになりますが、ただ買い物というのは
常にロジカルに進められるものではなくて、いわゆる行動経済学においては
「経済は感情で動く」とされており、つまりは明らかに合理的ではない選択肢
にお金を払うのが消費者であるとしています。
スポーツカーやクーペの場合は、「荷物は積めないし割高だけど、カッコいい
ので」という理由で選ばれていることになり、「荷物は積めるし価格も安い」と
いう数値で判断できる合理性より、「カッコいい!」という数値化できない感情
が上回った結果だということになります。
そうであれば、「馬力の強さ」や「燃費の良さ」や「荷室の広さ」といった数値
ではなく、「不便で維持費もかかるけど、どうしてもこれに乗りたい! 絶対に
これが欲しい!」という感情に直接訴えかける車作りに専念するメーカーが
存在するのも当然のことなのでしょう。

これは腕時計選びにおいては、もっと顕著だと言えるでしょう。
車の最大の機能が「移動の手段」であるならば、時計の最大の機能は「時間
の確認」であるはずです。
しかし市場では、どのように時間を読み取ればいいのかすらも分からない
複雑怪奇なデザインの時計や、針が見えないほどの宝石ギラギラの時計など
も決して珍しいわけではなく、こうした時計は高額でも意外と売れているの
です。
これこそ、経済は感情で動くことの典型例であるし、多くのラグジュアリー
ブランドは、この感情と合理的ではない行動に支えられて繁栄しているので
しょう。
私も全く合理的とは言い難い、文字盤も針も全てが真っ黒で視認性が最悪の
フランク・ミュラーを所有しており、これを着けている時はほとんどスマホ
で時間を確認しています。
結局、不便さよりもカッコよさが勝ってしまったわけですよ。

生涯ベンツだけを乗り継いだり、ロレックスだけを蒐集する人がいるように
車選びにしろ腕時計選びにしろ、一つのブランドをずっと貫き通すタイプの
人もいれば、仕事や年齢やファッションの変遷に合わせて、リセール価格は
度外視して、欲望に正直に選択するタイプの人もいるわけです。(私です)

マジックにおいても、もはや伝統芸と言っても過言ではないほど、同じ演目を
連綿と演じ続けるマジシャンもいれば、世の変遷や時代の要望に合わせて
フレキシブルに演目を変えていくマジシャンがいるなど様々です。
もちろん私は私なりのやり方で、満足出来る人生を謳歌するために歩んでき
たつもりだし、その戦略と戦術はまさに百人百様のはずです。
ですから、その多様性を認めず、自分のやり方こそが常識の中心であると勘
違いして、自分の物差しから外れる人を安易に貶すことは、現代のSNS社会
に生きているからこそ、厳に慎むべきだと思います。

映画「カジノ」の劇中で、ロバート・デ・ニーロが演じる予想屋のサム・エース・
ロススティーンのセリフが印象に残っています…

「やり方は三つしかない。一つ目は正しいやり方、二つ目は間違ったやり方、
そして三つ目は俺のやり方だ」

次回、後編へ続く…

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