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マジックと愛車遍歴 6 (後編)

10年に渡る良き思い出が濃密に詰まったベンツVクラス…実は、この車と
別れる時が来たら、自分の人生も一度棚卸しをして、リセットしようと
考えていました。

私は、それまでの自身の経験や、先人達の栄枯盛衰の人生を観察したり、
謦咳に接したりした結果、究極の不安定な職業であるマジシャンは、臆病
であるべきだと確信していました。
リーマンショックや震災やコロナ禍によって、いみじくもその不安定さが
露呈してしまいましたが、こうした災禍は、今後も必ず繰り返されること
でしょう。
ですから、「自分が生きている間に、こんなことが起きるとは思わなかった」
などという発言は、今後の未来においては泣き言にしか聞こえず、意味を
持たなくなりそうな気がします。

昔、ここで書いた文をもう一度書きます…

「臆病であることは大切です。木陰のカサッという音で危機を察知して、
脱兎のごとく駆け出す鹿は、きっと長生きできるはずです。能天気に草
を食べ続ける鹿は、天敵に襲われるか、猟銃で撃ち殺されるのです」

用心深くて臆病な私は、当時こんなことを考えていました…

「自分のようなローカルマジシャンに、これだけ多くの営業出演のオファー
があるだけでも有り難いのに、様々なテレビ番組に呼ばれて、順風満帆に
やってこれたのは奇跡に近い。
健康も含めて、こんな良い状態がずっと続くはずがない。
10年前には最新と云われたイリュージョンもコモデティ化し、コピー製品
も蔓延り、あえてそれに手を出すセコいマジシャンや、安いだけが売りの
マジシャン、さらに本当に脅威に感じる若手も台頭してくるだろう。
今後の戦略としては、営業では動物や火気を使ったマジックはやりづらく
なるだろうから、バードマジックはテレビ用だけにブラッシュアップして、
営業は量より質で勝負するために、キャラクターを活かしたトークを中心
として、小回りの効くサロンマジックの分野を確立し、ターゲットを絞り
込んで、さらに先鋭化したスキミング戦略に舵を切ろう。
年齢もまもなく50代に突入する…きっとイリュージョンを運ぶのも演じる
のも無理はできなくなるだろう。
幸い体力的にも経済的にも余裕がある今のうちに、将来に向けてマジック
以外の収入源を確保するための一手も打たねばならない。
ここで新型Vクラスに乗り換えてしまうと、元を取るために今までの路線
を続けてしまう可能性が高いし、リクエストをされ続ければ、辞め時を
逸してしまう。
無駄な服を買ってしまわないためにクローゼットをわざと狭くするように、
今後は車の荷室容量を縮小して、強制的にイリュージョン中心の営業形態
からの離脱を図ろう。
それでもイリュージョンをやらなければならない時は、弟子にミニバンで
協力してもらえばいいし、いざとなったらレンタカーや運送会社に頼む手
もあるし…うん、そうしよう!」

このように決心した私は、ヤナセの担当者に伝えました…「ライフスタイル
が変わるので、もうミニバンは必要ない。適度に荷物が積める程度のラグ
ジュアリーなワゴン車はないのか?」と。
「それならこちらへどうぞ」と案内された別棟のショールームに、デーンと
鎮座していた車に一目惚れをしたのです。

次回、7へ続く…

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