逃げ切り世代
マジシャンとして、コロナ禍以前から近年のコンプライアンスの厳しさを
ひしひしと感じていました。
規制のゆる〜い昭和から平成初期の感覚で生きてきた私としては、昨今の
マジックを取り巻く環境には辟易しているわけです。
BGMに関してはJASRAC絡みの面倒さや、動物愛護の観点からの動物マジック
のやりづらさ…世界中の多くの国では、サーカスでの動物を調教した芸は
NGとなっているため、日本におけるイルカやアシカの曲芸ショーや猿回し
も、実は海外からは冷たい視線で見られています。
ヨーロッパでは鳩出しを演じるマジシャンはめっきり減ったのだとか。
(ドイツではペットショップそのものがなくなっています)
かなり以前から、火や煙の使用をNGとするホールやホテルも増えていたし、
近未来ではキャッシュレスの社会になるのは既定路線なので、お札やコイン
のマジックは廃れていく可能性が高いでしょう。
嫌煙社会とも相まって、数十年後にシガースルーコインを演じたとしたら、
何に何を貫通させているのか理解できない客もいるかもしれませんね。
自分が好きな分野のマジックが次々と封じられていく様は、ホント笑い事
では済まされません。
今後、動物や火やタバコを使ったマジックがさらに廃れていくのは明らか
なので、若い世代のマジシャンが、これらの素材をメインで使用するのは
決してオススメはできません。
でも、時代を味方に付けて、これらの素材を好き放題に使い倒して荒稼ぎ
をさせてもらった自分としては、やり残したことも後悔もないラッキーな
逃げ切り世代のマジシャンだったのだなあと回顧しています。
これは自動車にも共通することで、昨今のニュースによれば、ジャガーや
ボルボは2025年までに全ての生産車をEVに切り替えると宣言しました。
脱炭素社会を目指す世界の潮流の中で、中国では2030年、ヨーロッパ
では2035年までには全ての車がEVに変わることになるのです。
それが現実であれば、V8エンジンを積んだモンスターカーなんて今のうち
でないと乗れなくなるわけですよね。
見かけはマッチョなくせに、ウィーンという音で走る車は受け入れられない
自分がいます。
厳つい顔のオヤジが、声変わり前の小学生の声で怒鳴っているようなもので
はありませんか。
自分の年齢を考えると、せめてあと5〜6年はブイブイいわせる車に乗って、
その後にEV、もしかすると運転自体が辛くなって、自動運転車を切望して
いる自分がいるかもしれません。
これまでのマジシャン人生を車に置き換えたなら、燃費の悪い大型エンジン
を積んで、排気ガスを撒き散らしながら走る、一昔前のアメ車だったような
気がします。
そう考えると、時代の変化におけるコンプライアンスに左右されるマジックや、
環境問題に起因する法改正に影響を受ける自動車業界と違って、我が道
を行く高級機械式時計の世界は凄いなあと、改めて感じます。
安くて正確な電波時計やスマートウォッチが登場しても、メンテナンスも
面倒な機械式時計が売れ続けるその理由はいったい何なのか…若い頃から
ずっとマジシャンとしてのブランディングを訴求し続けてきた私にとっては
大いに参考になる事象です。
自分がどう考えるかが人生の基本であり、自分を楽しませるために自分は
生きているのだから、他人様に迷惑さえかけなければ、素直に自分の思う
通りに自由に生きればいいのだ…と自らに言い聞かせている昨今です。
ですからマジックにおいても時計においても、これから買い替え予定の車
においても、自分のできる範囲で好き放題にやれるところまではやって、
逃げ切り世代としての人生を謳歌するつもりです。
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