« マスクに思う | トップページ | マスクに思う 2 »

マジシャンのスタンス

一言でマジシャンと言っても、そのスタンス(ここでは立ち位置や働き方の意)
は様々なはず。
現在の自分のスタンスに満足している人もいれば、自分に適したスタンスが見
つからずに、右往左往している若手もいることでしょうね。
ここではかなりざっくりですが、マジシャンそのものをレストランに例えて
考察してみます。
シェフをマジシャンに置き換えると、その拘りや営業方針が理解しやすいかも
しれません。
料理人の腕はマジシャンのテクニックそのものだし、食器や厨房機器は道具や
イリュージョンそのものです。
最高の食材を使っても腕が悪ければ料理は不味いのと同様に、どんなに優れた
ギミックを使っても、テクニックとセンスがなければ不思議さは伝わらないし、
逆にテクニックがあればリカバリーも可能なわけです。
レストランであれば、最高の食材で最高の料理を提供できればそれに越したこ
はありませんが、スタンスによって様々な形態があって当然でしょう。
ドレスコードが必要なセレブ向けの店もあれば、サンダル履きで気軽に家族で
訪れる店もある…結局は「何を目指すか」なのです。

大雑把ですが、レストランを以下のようなスタンスに分けてみました。
自分がマジシャンであるならば、どのスタンスに最も近いのでしょうか?

・ シェフがメディアで頻繁に紹介されて知名度が高い店
・ 最高の食材と腕で極上の料理を提供する要予約制の最高級店
・ 最高を求められていないが、チェーン店で安価で安定した味を提供する店
・ 辺鄙な立地でも、オンリーワンの料理を出す知る人ぞ知る隠れ家的店
・ 特に理由はなく、近くて夜遅くまで開いてるからなんとなく行く店

まあ、どの店でも繁盛する可能性はあるわけですが、マジシャンのスタンスを
当てはめてみると、自ずと方向性は見えてくるのではないでしょうか。
街の定食屋さんが、あえてミシュラン掲載店に対抗する必要はないし、地域で
愛される店を目指せばいいのです。(野心があれば別ですが…)
三つ星シェフはメディアやプロからの評価が下がれば死活問題ですから、常に
緊張感に苛まれてピリピリしています。
マジシャンも同様に多様性があるので、スタンスが違っても当然として受け入
れるべきなのでしょうが、有名店だから必ず美味しいとは限らないように、
コンテストで受賞したからといって世間に受け入れられたり、ましてやプロと
しての将来が約束されるとは限らないのです。

料理人業界では、長く厳しい修行を経て、いつかは有名店の厨房で腕をふるう
のが目標ですという話を聞くと、王道のストーリーとしてストンと落ちるので
すが、一方マジック業界では、マジックで稼ぐのなんてチョロイとばかりに、
ほぼ素人レベルの若者が夜の店を入り口に参入して、目も当てられない演技を
(それも客からお金を取って)垂れ流しながらワイワイ騒いでいるケースがある
のも事実。
またコロナの影響なのか(実はコロナ以前からですが)、自称一流マジシャンや
世界大会で入賞といった肩書きが売りなのに、そんな偉い人がなんでそんな
場所でそんなギャラでやってんの?というケースも散見します。
生きていくためには背に腹は…ってことなんでしょうが、ミシュランと違って
一般人には全く訴求しない肩書きが返って邪魔をしているような気がしますが…。
(しかしマジシャンてホント同業者に認められたがりだもんなあ、モンドセレ
クション金賞受賞の方がインパクトがありそうなんだけど…あ、独り言です)

コロナ禍で飲食業界も大変なようですが、追い詰められたミシュランの三つ星
シェフだったら、牛丼チェーン店の厨房に立つことはあるのでしょうか?
あって欲しくはありませんが、もしその時が訪れたら潔く辞めるでしょうね。
先が見えないから辞めるのか、先が見えたから辞めるのか…。
いずれにしても、ここはマジシャンとは大きく違うような気がします。

失いたくないスタンスがあるということは、即ち矜持と覚悟があることの「証」
なのかもしれません。

|

« マスクに思う | トップページ | マスクに思う 2 »

マジック」カテゴリの記事