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THANK YOU HIDE

伝説のマジックバー、銀座「ハーフムーン」が6月6日をもって閉店しました。
5日と6日のファイナルショーは多くのファンで賑わったようです。
私も参加したかったのですが、両日ともに大阪と名古屋で所用が入っており、
残念ながら希望は叶いませんでした。
閉店に伴い、縁のあったマジシャン達の映像メッセージをお願いしている
ので、私にも宜しくとヒデから電話をもらったのですが、お互いが認める
ように、マジック界ではダントツに付き合いが深くて長い間柄であるため、
「短い映像ではとても想いは語れないから、ブログに書くよ」ということに
なりました。
従って今回のエントリーは映像メッセージに代わるものとして、またヒデ
本人に読んでもらうことを前提に書いています。

ヒデとの出会いの詳細は、SPEAKERS Part6の終盤で語っているので、ご覧
ください。

ヒデとは同世代で、出会ってから約30年の付き合いになります。
豪華客船「飛鳥」での出会いから8年の間をおいて、ハーフムーンの前身と
なる「かりん」という店で再会し、以降は東京や福岡で会ったり、全国の
ホテルで共演したり、一緒にラスベガスツアーに行ったり…ハーフムーンが
オープンした2000年代初頭は、私も銀座のクラブでブイブイいわせていた
ので、仕事終わりにはお店に寄って色々と語り合ったものです。

二人は性格も違えばマジシャンとしてのスタンスもまるで違うし、得意と
する演目もリスペクトするマジシャンも全く違ったのですが、唯一の共通
点は短気であること(T-faL並み)…なので、怒鳴り合いの喧嘩も何度か
しましたかね。
まあ、長所も短所も知り尽くしているわけですが(ヒデの奥さんからは、
第二夫人と呼ばれて、絶対にヒデとは別れないでねとお願いされる始末)、
彼の最大の短所は、すぐに人を信じて裏切られること(もう伝統芸能です)…
その速度には呆れ返るばかりなのですが、さらに罪作りなのは、一旦親しく
なると、どんな素性の人物かを吟味することもなく「良い人なんだよ〜」と
紹介して回って繋ごうとする人の良さと軽佻浮薄さ。
猜疑心が強い私がその点を諌めると、「でもズマちゃん、まずは信じないと始ま
らないじゃん」…と可愛いというか本当に純粋というか…。
彼が騙される度に私はいつも心の中で「またかよ! いい加減に免疫作れよ!」
と怒鳴っていました。

長所は皆さんが認めるように、その圧倒的なエンターテインメント性…彼が
マジシャンとして成功したのはマジシャンではなかったからなのです。
若くしてショーパブのトップとなった彼のマジシャンとしてのスタートは
かなり遅く、マジックの基本となるものはほとんど出来ていませんでした。
正確無比な技法を信条とするプロやマニアからすれば、彼のテクニックは
いまだに荒くて大雑把に見えるかもしれませんが、そんな粗を遥かに凌駕
するほどの明るさと演出のセンス…全国になんちゃってハーフムーンが続出
したのもうなずけます。(お気を確かに!というギャグが流行りましたが、
あれは私が銀座のクラブで使っていたのをヒデが使うようになって、全国の
マジックバーで当たり前のように浪費されるようになったのです。ただし、
ヒデは、「ズマちゃん、そのギャグ使っていい?」と仁義を切ってくれました)
この点こそマジックの技法のように練習すればなんとかなるということでは
済まない天性のものなのです。

かなり以前に私はヒデのことを「鬼に金棒」と表現しました。
エンターテイナーとしてのヒデはまさに鬼なのです。
素手でも強い鬼が、マジックという強力な金棒を手に入れたのですから、
もうウケるに決まっているのです。
世の大部分のマジシャン達は鬼になった気でいるだけで、自分が「ただの
人間」であることに気づいていません。
いや、あえて気づこうとしていないのかもしれません。
ただの人間には金棒を振り回す腕力はありません。
マジシャンにとっての「マジック用品カタログ」は「金棒のカタログ」なの
でしょうが、金棒を手にする前に鬼になることが焦眉の急なのです。
早い話が「普段面白くない奴が、マジックやるときだけ面白くなるわけが
ない」ってことですよ。

さて、銀座の鬼は沖縄へと旅立ちます。
きっと現地でも慕われてマジック界のシーサーとなる日も遠くないはずです。

ヒデ、ありがとうね。
あなたは日本のマジックバーの世界に、不滅の金字塔を打ち建てました。
そして、あのサインにまみれたハーフムーンの壁は、そのままファンの心の
壁紙となっていることでしょう。

ヒデそしてハーフムーンに栄光あれ!




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