スペシャリスト? ジェネラリスト?
マジシャンとしてどうなりたいのか、どうありたいのか、どうあるべきなのか、
どう生きるのか、そしてスペシャリストを目指すのか、ジェネラリストとして
安寧を得るのか…真面目にマジシャン人生と向き合う人であれば、必ず立ち
はだかる壁ではないでしょうか。
マジック業界での評価はともかく、世間に認知されて、テレビにも出まくって
稼ぎたい…逆に、収入じゃない、とにかくコンテストで受賞して同業者に一目
置かれたい…この辺りの人生観は人それぞれなので、そこに断定的な答えは
ないのでしょうね。
でもね、実は両方とも欲しいのですよ…マジック業界には、本当は稼ぎたい
のに「お金は追わない、食えるだけあればいい、夢を見せるんだ!」なんて聖人
君子みたいな人を散見しますが、平然とこれが言える人は、市場に受け入れ
られて有名になることからも稼ぐというレースからもドロップアウトしている
ことを、実は自覚しているのでは…。
「マジシャンの夢=不思議を見せて感動させる、笑顔にする、皆様に感謝感謝
です」というケチのつけようがない安全地帯に逃避しているような気がするの
ですよ。
まあ、本心を糊塗しながら、結構お金に貪欲な人を散見してきましたけどね。
マジシャンよりも遥かに夢を見せてくれる(稼ぐという意味でね)プロ野球
選手達は、オフシーズンには、プロに憧れている無垢な野球少年の視線など
一切気にせずに、えげつないほど必死で年俸闘争しているではありませんか。
さらにどれだけ年俸がアップダウンしたのかを堂々と記者会見で発表したり、
新聞に書き立てられるのもお構いなしで「稼ぎ」という部分で闘うほど正直
なのです。
それも草野球ではなく野球のスペシャリストとしての矜持があればこそ。
私世代の感覚で回顧すれば、マジック界にはキラ星のごとくスペシャリストが
存在しています。
例えば…超魔術、イリュージョン、コメディー、マニピュレーション、鳩出し等
すぐに頭の中に顔が出て来るこれらの分野を代表する大御所マジシャン達の
歴史を、今の若いマジシャン達がどれほど理解しているのかは知りませんが、
この方々、その得意分野で世に知られるようになったとしても、実はベースと
なるマジックをほとんど網羅していて、現在はそれを演じていなくても、絶妙
なバランス感覚があるからこそ認められているはずなのです。
もっと分かりやすく例えれば、学校の全科目を悠々と平均点を上回った状態で
さらに得意科目を持っているということ…つまり、ジェネラリストとしての
分厚い基盤の上に、ある分野のスペシャリストとして君臨しているのです。
医師の世界もよく似ていて、大学医学部の卒業試験や国家試験において全科目
をクリアした後、医師ライセンス取得と同時に、プロフェッショナルの立場で
最も得意な科のスペシャリストとして標榜することがほとんどです。
時が経過し、専門科以外の知識が薄れていくことを鑑みれば、知識という点に
おいては、卒業直後がジェネラリストとしてのピークなのかもしれません。
コンテスト出場経験があるマジシャンならば、食べていくための営業出演の
現場では、コンテストアクトがなかなか通用しづらいというのは十分に理解
そして体感されていることでしょう。
私自身、若かりし頃(1980年代)に、一応は「鳩出し」のスペシャリストとして
(自称ですが)、国内外のコンテストで優勝できたものの、その芸一本で食える
わけがないことを厭というほど体感したが故に、稼ぐために究極のジェネラリ
ストを目指して遮二無二レパートリーを増やし続け、レパートリーの全てを
ギャラを頂戴するのに失礼のないレベルにまで昇華させて、その上でバード
マジックのスペシャリストという居場所をようやく見つけたのです。
(最近は、ほぼほぼコメディーマジシャンになっておりますが…)
海外のコンテスト出場のために、渡航費用等をクラウドファンディング的手法
で集めようとする動きもあるやと耳にしたこともありますが、所詮は自分が
好きで始めたマジックであるのなら、自分のケツは自分で拭いて完結するくら
いの矜持があって然るべしだと思うのですが…その方が、結果はどうであれ、
間違いなく達成感はあると思うのですよ。
また、若いマジシャンがコンテスト受賞だけを目的に、ある分野だけを研究し
練習を積むことを否定はしませんが、受賞後にプロフェッショナルとして稼ぐ
ことを目標とするのであれば、老婆心ながらの考えを…「チャンピオンになった
のに食えないマジック界っておかしい」という愚痴を耳にしたことがあります
が、実は業界のせいではなく、チャンピオンになったのに食えないその人の
戦略と戦術がおかしいんです。
「宮大工を目指したら、もはや普通の家は建てられない」ことくらい自覚しま
しょうよ。
では、あえて普通にローカルマジシャンとして食べていくのなら、ボーリング球
出して、ペットボトルにカードを入れて、テーブルを浮かすという軽佻浮薄な
ジェネラリストでもなんとか生きていけるのかもしれません。
でも少しでも脚光を浴びたければ、その上で何かのスペシャリストを目指す
しかないのです。
記憶に残る幕の内弁当なんてありませんから…。
| 固定リンク
« 2019年 始動 | トップページ | これは便利! »
最近のコメント