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複業のススメ 3

多様化する働き方を反映するように、一部の企業や地方自治体の公務員にも
副業や兼業を認める時代になった一方で、「芸人たるもの安定を求めるべき
ではない!」とか「他に収入源があるならプロではない!」等の考え方に拘泥
して論難を仕掛ける「自称プロ」がいるのは承知していますが…そもそも資格
が必須の職業でもない上に、このご時世に浪花節じゃあるまいし、「末路哀れ
は覚悟の前」とばかりに芸人の美学に置き換えて強がったところで、価値観が
違う相手を鎧袖一触することなど不可能でしょう。
自身も老後の不安に苛まれながら、余白が増えていくスケジュール表を見れば
いくら斜に構えていても気が滅入るでしょうに。

まあ、この類のプロ論に頑なに拘泥する人は、他に何かをやるスキルも勇気
も無く、今さら人生のやり直しも棚卸しもできないために、痩せ我慢をして
でも自分の生き方こそが正解だったのだと己自身にも外にも叫び続けないと
精神の安定を得られないのです。
「諦めるのはまだ早い!」というよりも、もはや「諦めるにはもう遅い」段階の
人もいますし…。(ご自愛下さい)

極端な例ですが、タレントとしてのビートたけし、映画監督としての北野武
という大きな記号を持つ場合には、「どちらが本業なんですか?」と野暮な
問いかけをする人など皆無でしょうし、さらに土曜日の夜のTBS「ニュース
キャスター」ではフリージャーナリストという肩書きで出演する一方、画家
や小説家としても活躍しています。
このようなマルチな働き方に対して、「他に収入源があるなら、彼はお笑い
芸人としてはプロではない!」と喝破する論拠があるわけではないでしょう。
また、多くの芸能人やスポーツ選手が飲食店やジム経営などをしていますが、
それによってアマチュアのレッテルを貼られることなど、まずあり得ません。

昨年の番組でしたか、アスリートの引退後について特集していました。
大リーグでは、現役時代に大金を手にしたために引退後も贅沢な暮らしが
やめられずに破産する選手がいる一方、引退後を見据えて現役時代から勉強
をして、弁護士や会計士の資格を取得している選手も多いのだとか…翻って
日本の野球界の場合、幼少期から野球のみに傾注して社会性を養えなかった
選手が多く、引退後は潰しも効かずに再就職に苦労しているようです。
(平均引退年齢は、なんと29歳ですよ)

マジシャンの場合は野球選手と違って、戦力外通告で引退に追いやられる
ことはありませんが、若手イケメンであることが唯一のウリだったのが老い
たり、体力勝負のイリュージョニストが衰えたり、芸そのものが飽きられ
たり、ブランディング構築に失敗して差別化ができなかった結果、台頭する
ギャラの安い若手に駆逐されるなりして市場からの需要がなくなれば、否応
なく引退せざる得ない時がやってきます。
また身近でも散見してきましたが、景気や時代の趨勢による主戦場(温泉場
のステージやキャバレー)の閉鎖などの不可抗力の外部要因もあることで
しょう。

せっかく日本という職業選択の自由が保証され、世界に冠たる資本主義の
国家に暮らしているのなら、たった一度きりの人生…自身のポテンシャル
(資格、語学力、文才、歌やダンスや絵の素養、ITの知識等)を駆使して、
多種多様な働き方をすることによって、経済のダイナミズムを体感し、その
恩恵を享受しないと勿体無いと思います。
そして世の中を複層的な視点から見れるようになれば、マジシャンとしても
その演技に必ず良い影響が波及するはずです。

マジシャンであれば誰しも、大好きなマジックを本業として食べていきたい
と思ってプロになるのでしょうが、あてにしていた仮がバラされる度に凹ん
だりしないように、また仕事を得るために嫌な人間に頭を下げたり、いい歳
になっても深夜に酒席でこき使われたり、ネットで種明かしをして小銭を稼
ぐような卑屈な生き方をしなくて済むように、あるいは終電を逃しても余裕
でタクシーで帰れる程度の暮らしをするために、そして何よりも愛するマジ
ックを安定してやり続けられるように、あえて「副業」ではなく「複業」として
考察してみました。
今回のエントリー、将来に何の不安もない余裕綽々のマジシャン方には余計
なお世話だったかもしれませんが…。

最終的には、「えっ、俺の職業? … 俺!」が理想かなあ。

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