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2018年6月

複業のススメ 3

多様化する働き方を反映するように、一部の企業や地方自治体の公務員にも
副業や兼業を認める時代になった一方で、「芸人たるもの安定を求めるべき
ではない!」とか「他に収入源があるならプロではない!」等の考え方に拘泥
して論難を仕掛ける「自称プロ」がいるのは承知していますが…そもそも資格
が必須の職業でもない上に、このご時世に浪花節じゃあるまいし、「末路哀れ
は覚悟の前」とばかりに芸人の美学に置き換えて強がったところで、価値観が
違う相手を鎧袖一触することなど不可能でしょう。
自身も老後の不安に苛まれながら、余白が増えていくスケジュール表を見れば
いくら斜に構えていても気が滅入るでしょうに。

まあ、この類のプロ論に頑なに拘泥する人は、他に何かをやるスキルも勇気
も無く、今さら人生のやり直しも棚卸しもできないために、痩せ我慢をして
でも自分の生き方こそが正解だったのだと己自身にも外にも叫び続けないと
精神の安定を得られないのです。
「諦めるのはまだ早い!」というよりも、もはや「諦めるにはもう遅い」段階の
人もいますし…。(ご自愛下さい)

極端な例ですが、タレントとしてのビートたけし、映画監督としての北野武
という大きな記号を持つ場合には、「どちらが本業なんですか?」と野暮な
問いかけをする人など皆無でしょうし、さらに土曜日の夜のTBS「ニュース
キャスター」ではフリージャーナリストという肩書きで出演する一方、画家
や小説家としても活躍しています。
このようなマルチな働き方に対して、「他に収入源があるなら、彼はお笑い
芸人としてはプロではない!」と喝破する論拠があるわけではないでしょう。
また、多くの芸能人やスポーツ選手が飲食店やジム経営などをしていますが、
それによってアマチュアのレッテルを貼られることなど、まずあり得ません。

昨年の番組でしたか、アスリートの引退後について特集していました。
大リーグでは、現役時代に大金を手にしたために引退後も贅沢な暮らしが
やめられずに破産する選手がいる一方、引退後を見据えて現役時代から勉強
をして、弁護士や会計士の資格を取得している選手も多いのだとか…翻って
日本の野球界の場合、幼少期から野球のみに傾注して社会性を養えなかった
選手が多く、引退後は潰しも効かずに再就職に苦労しているようです。
(平均引退年齢は、なんと29歳ですよ)

マジシャンの場合は野球選手と違って、戦力外通告で引退に追いやられる
ことはありませんが、若手イケメンであることが唯一のウリだったのが老い
たり、体力勝負のイリュージョニストが衰えたり、芸そのものが飽きられ
たり、ブランディング構築に失敗して差別化ができなかった結果、台頭する
ギャラの安い若手に駆逐されるなりして市場からの需要がなくなれば、否応
なく引退せざる得ない時がやってきます。
また身近でも散見してきましたが、景気や時代の趨勢による主戦場(温泉場
のステージやキャバレー)の閉鎖などの不可抗力の外部要因もあることで
しょう。

せっかく日本という職業選択の自由が保証され、世界に冠たる資本主義の
国家に暮らしているのなら、たった一度きりの人生…自身のポテンシャル
(資格、語学力、文才、歌やダンスや絵の素養、ITの知識等)を駆使して、
多種多様な働き方をすることによって、経済のダイナミズムを体感し、その
恩恵を享受しないと勿体無いと思います。
そして世の中を複層的な視点から見れるようになれば、マジシャンとしても
その演技に必ず良い影響が波及するはずです。

マジシャンであれば誰しも、大好きなマジックを本業として食べていきたい
と思ってプロになるのでしょうが、あてにしていた仮がバラされる度に凹ん
だりしないように、また仕事を得るために嫌な人間に頭を下げたり、いい歳
になっても深夜に酒席でこき使われたり、ネットで種明かしをして小銭を稼
ぐような卑屈な生き方をしなくて済むように、あるいは終電を逃しても余裕
でタクシーで帰れる程度の暮らしをするために、そして何よりも愛するマジ
ックを安定してやり続けられるように、あえて「副業」ではなく「複業」として
考察してみました。
今回のエントリー、将来に何の不安もない余裕綽々のマジシャン方には余計
なお世話だったかもしれませんが…。

最終的には、「えっ、俺の職業? … 俺!」が理想かなあ。

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複業のススメ 2

アルバイトが厳格に禁止されている企業の社員や公務員は別にして、複数の
収入源を持つ人間が、「仕事は複数やっています」と真面目に説明している
のにもかかわらず、しつこいほどに「で、どれが本業なんですか?」などと、
とにかく一つだけの職業枠にはめ込もうとする傾向は、今でも(特に日本では)
強いと思います。
このような事象は、個人を職業とセットで認識・記憶したり、評価・値踏み
する際の記号として便利なのでしょう。

一般的には「本業と副業」という、あくまでも「主と従」の枠に当てはめがち
なのは、複数の仕事をしている場合、最も収入が多い仕事を本業、その他を
副業やアルバイトとして世間は理解する傾向があるからです。
しかし、本業と副業の区別は収入の比率で決めるものではなく、まして世間
の判断に委ねるものでもなく、実は本人の認識と矜恃の問題なのです。
アルバイトのみで食いつないでいる売れないお笑い芸人でも、職業を問われ
れば躊躇なく「お笑い芸人やってます」と答えるわけですからね。

私事を吐露すれば、プロ転向のために大学病院を退職した20代末から体力的
に自信があった40代半ばまでは、銀座でのテーブルホッピングはもちろん、
複数の大型鳥やイリュージョンを携えて、全国規模でハードな仕事をこなす
ことができましたが、齢50を境に、体力の衰えや仕事の漸減のリスク対策と
老後に備えるために、マジック以外にも資格を活かした医業、法人の理事や
社長業、さらには投資関連等、現在は複数の収入源を確保しています。
これはマジシャンとしてプロ活動をスタートする前から描いていたビジネス
プランで、幸いなことに人生のタイムスケジュール通りに推移しているわけ
ですが、イメージとしては、加齢とともにブルーカラーからホワイトカラー
へと緩やかに移行している感じでしょうか。

そうした生き方を実践してみた感想ですが、まずマジックの仕事に関しては
スキミング戦略を基に、現在の自分に無理のない範囲でやりがいを感じる
オファーだけを受ければ済むようになったし、日々の生活がマンネリ化せず
にメリハリが出て、各々の仕事に対する集中力は確実に増しますね。
(これが前回書いた、時間意識の高まりによる労働生産性の向上です)
それでも将来における漠然とした不安が払拭されることはありませんよ。
(根っからの心配性ですからね)
マジック以外の収入源を確保している後輩も数人知っていますが、色んな
意味で相対的な余裕を感じるのもまた事実。

以前、あるドキュメント番組で紹介されているのを観たのですが、春〜夏に
かけては農業に従事し、雪が積もって農業ができない冬の間は、特技を活か
したスキーのインストラクターとしてペンションで働く男性の、その充実感
に溢れた人生を謳歌している姿に感動した記憶があります。
この男性は、どちらの仕事にも本業としての矜恃があるし、何よりも素敵な
二毛作だと思いましたね。

数種類の名刺を使い分けることも常識となった現代社会、自らの強い意志で
取り組み、矜恃ある仕事として収入を得ているものは全て本業であると認識
して、堂々と複業宣言すればいいだけなのですよ。

マジシャンも普段の営業出演以外に、マジックバーやショップを経営したり、
講習会を主催したり、複数のマジックバーでレギュラー出演したり、他者の
裏方やコンサルタントをすることでリスク分散しているように、もっと俯瞰
で見れば、マジック関連以外の収入源を確保することも、混沌としたこの
世の中を生き抜くためには必然になるのかもしれませんが、切羽詰ってから
動くのではなく、余裕のあるうちに準備を始めるべきであることは論を俟ち
ません。

次回「複業のススメ 3」で完結です。

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複業のススメ 1

働き方が多様化する現代社会、アメリカでは労働力人口の30%超の4千万人
以上が本業と別の収入源を持っているとか。

本来、副業・兼業は「特殊な技能」を売って高い報酬を得るものです。

例えばイタリアの男性には仕事を二つ持っている人が多いのですが、二つ目
の仕事は「ムーンライト」、つまり夕食後に月の光を浴びながら二つ目の職場
に出勤して深夜まで働く場合がほとんど。
ただし、彼等の大半は昼と夜で別の仕事をするのではなく、ほぼ同じ仕事
(例えばファッションブランド関連等)をしています。
つまり、本業のスキルがそのまま副業に活かされているという働き方なんで
すね。(マジシャンならば、営業出演しながらマジックショップやマジック教室
で働いているような感じでしょうか)

だからと言って特殊技能を持たない日本の普通のサラリーマンが、いきなり
副業・兼業を始めたところで、ビルのガードマンや清掃員、コンビニの店員、
高速道路や駐車場の料金徴収員等の「時給いくら」のアルバイトしかできない
でしょうし、近い将来、その役目もAIに取って代わられるでしょうね。

近年の日本においては、ロート製薬が週末や終業後に他社やNPOで働くこと
を社員に認めると発表して話題になりましたし、2012年に社外での労働を
解禁したソフトウェア会社・サイボウズの社長は「本業・副業という考え方自体
が時代遅れだ」と述べています。
そして本年4月にはユニチャームが、また新生銀行が大手銀行で初めて就業
時間外に異業種の仕事に就くことを解禁しました。(英語の得意な人が翻訳
の仕事をすることなどを想定し、競合の金融機関や情報漏洩のリスクが生じ
る仕事は除く)
企業は事業の短命化によって、従業員に生涯安定雇用を約束しづらくなって
いるという背景から、一方の個人も終身雇用にすがらずに「雇われる力」を
高めようとしているのでしょう。

そして最近「複業(パラレルワーク)」という働き方が広がりつつあります。
(私は随分以前からそうあるべきだと思っていました)
つまり、単に本業の収入を補うために時間を切り売りする「副業」とは違う
「複数の本業を持つ」という新しい働き方です。

あくまでも私見ですが、複業は個人にも企業にも果実をもたらすと思います。
例えば、新しい人脈の獲得、イノベーションの創出、リーダーシップの向上、
時間意識の高まりによる労働生産性の向上(私はこれが一番大きな果実だと
思います)…それに企業イメージとして、複業社員の存在は他の優秀な人材
を引き寄せる可能性もありますからね。
何より複数の仕事先で揉まれ、複層的な視点を持てば、すべての仕事に共通
する部分で、間違いなく良い影響が出るはずですから。

マジシャンにも当てはまることですが、「個人の法人化」が重要だということ
ですね。
複業を通じて法人化した個人が、本業以外の場所でも活躍することが当たり
に前になれば、安定した人生設計に寄与することはもちろん、多様化する社会
を支える一つの装置にもなり得るのでは…。

次回「複業のススメ 2」では、私事を含めてもっと具体的に考察します。

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