プロの売りもの
まず最初に理解しておかなければならないのは、プロマジシャンを含めた
自由業には定年がないために、いつまでも働けると思われがちですが、
当然いつまでも仕事があるという保証はないということ。
いつまでも働けることと、いつまでも稼げることはイコールではないこと
を肝に銘じておく必要がありますね。
以前の考察「プロ・アマ論」でも綴りましたが、特にマジシャンの場合は
プロとアマの線引きは曖昧なのです。
スポーツで例えるなら野球やサッカーなど、競技自体が興行として成立して
いれば、リーグやチームが入場料収入や放映権料を選手に分配するので分か
りやすい一方、アマチュア競技のプロとの境目は企業に属さずにやっていく
ことぐらいで、アルバイトをしながら競技を続けてもプロになれることが
できるわけです。
アマからプロへの転職(転向)とは意味合いが若干違いますが、一般的に、
転職で成功している人の共通点は、前職でも成功を収めてきた人が多いと
いう現実を鑑みれば、これがダメだったらあれをというネガティブな転職
では、成功がおぼつかないのは当然のこと。
また、一概には当てはまりませんが、好きなことで食えたら幸せだなあ…
とばかりに趣味の延長線上でダラダラとプロになる人と、何かを成し遂げ、
手にしているものを捨ててまで転職する人とは、背負っているものの重みと
本気度と、新しい世界で成功してみせるという確信がまるで違うのですよ。
すでに家族もいて第一線で働いている社会人が一念発起して退職し、大学
入試を経るなどして資格取得が必須であるプロ(弁護士、医師、会計士等)
として新たな人生を目指すことがありますが、そういう人達は、なんとなく
入学した現役生と比較しても、確固たる目的と信念を持って、背水の陣で
臨んでいるので、留年するなんてことはほとんどありませんからね。
そしてプロになってみて厭というほど思い知らされるのは、それなりに高い
技術を誇っても、それが市場の求めるものでなければ、収入には直結しない
こと…つまり、市場で評価されない業界ウケの高い技術は、自己満足という
趣味の世界から一歩も抜け出せなくなる可能性が高いこと。
自分のパフォーマンスを市場が求めて、初めてそこに対価が生まれるわけ
ですからね。
しかし、同業者が認めるほどの圧倒的に高い技術であれば、その差を世間に
認知、理解させて収入に直結できるような方法論というか戦略を練る価値は
あると思うのですが…。
マジックの世界では特に顕著な事象ですが、市場に評価されるものは、幾つ
かの軸があると思うのです。
つまり、純粋に技術力で認められる人もいれば、キャラクターが受け入れ
られている人もいるわけで、職人的な世界もエンターティナー重視の世界も
(野球選手なら前者はイチロー、後者は新庄といったところですかね)両方
求められているのがマジシャンなのでしょうね。
ここでちょっと昨年からざわついている大相撲の話題になりますが、昨年の
春場所でしたか、怪我を押し切って強行出場した稀勢の里が優勝した姿は
感動を呼びました。
しかし、完治することなくそれ以降の本場所に出場し続けた結果、4場所
連続途中休場という事態に陥りました。
2001年、足の痛みに耐えて優勝して小泉首相を感動させた貴乃花が、あの
一番が引退のきっかけになったこと(翌場所から7場所連続休場)を思い出し、
稀勢の里も大事をとって年内いっぱいは休養すればいいのにと思っていたら、
やはり懸念していた通りになりました。
しかし、怪我を押しての出場や優勝に、美談好きで「あれぞまさしくプロ!」
と感動して賞賛する傾向があるがゆえに、力士生命を脅かしかねないのに
強行出場せざる得ないプレッシャーがあったのではないかと思うのですよ。
稀勢の里も、これ以上の途中休場を繰り返せば、引退を余儀なくされるかも
しれませんね。
ただ、稀勢の里も当時の貴乃花も優勝したあの時、本人にとっては、怪我の
痛みなど度外視した、プロとしての矜持や自負を見せ切ったアドレナリン
出まくりの瞬間でもあったと思うのです。
もっと突き詰めれば、プロアスリートには、勝利よりも大切な何かを守り
切るという矜持があるのではないか…翻って、プロマジシャンにはそれに
匹敵する何かがあるのだろうかと考えてしまいました。
本当のプロが売るべきものは、高い技術や存在価値に裏打ちされた戦いざま
であり、その積み重ねが生きざまになるのであって、他人の演技の模倣を
したり、ましてやコピー商品を使ったり売ったりして糊口を凌ぐことでは
ないはずです。
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