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2016年7月

チップ論 2

前回に続いてのチップ論2ですが、今回は私の経験談を中心に、かなり
生々しく下品かつ嫌味な内容だと受け取る人もいるであろうし、自分の
タブーにも触れることになりかねないし、マジシャンの固有名詞を出さ
ざる得ないエピソードも含まれるので、書きおろすには若干の抵抗があ
りました。(今回のエントリーに関しては、名前が出てくるマジシャンの
方々には当時の史実を確認して許可を取っています)
                                      
私が銀座のクラブやレストランバーに出演していたのは、27〜44歳
(1989〜2006年)までの実質17年間です。(最初の2年間はセミプロ
としての立場でした)
私のようなローカルマジシャンが東京それも銀座に進出できたきっかけ
はMr.マリック氏の推薦があったからでした。
高級クラブで通用するマジシャンをとのオファーをマリック氏の事務所
が私に振ってくれたことが始まりでした。
当時すでに中洲のクラブで実績を積んでいたのも理由だったのでしょう。
                                      
もちろん私の拠点は福岡なので銀座まで通っていたのですが、常勤と
いうわけではなく、クラブの周年記念、ママの誕生日、クリスマスや季節
ごとのイベント等、3〜5日連続の出演を年に5〜6回というパターンで
スタートしました。
当時は銀座のマジックバーもたしか老舗の2〜3店舗しかなく、レスト
ランではなく高級クラブでテーブルホッピングをするマジシャンは皆無
だったらしく、客のほとんどが眼前でマジックを観るのが初めてだった
のか評判を呼び、姉妹店を含めて出演店舗も次々に増えていきました。
ところが姉妹店はともかくライバル関係にある複数のクラブに二股三股
かけるわけにもいかなくなり、後年はマリック氏の事務所から派遣して
もらう形で、ふじいあきら氏やRYOTA氏、弟子のRintaroらと共に手分
けしながら出演していたものです。(彼等は言わば銀座の戦友ですね)
                                      
1991年に大学病院を退職し、本格的にプロ活動を開始するにあたり
腐心したのがスタイルやキャラクター作りでした。
「医師ライセンスを持つプロマジシャン」という「異端」を売りにすると
しても、まさか高級クラブに白衣で出演するわけにはいきません。
まず決めたのが、スーツ姿でも敢えて「ドクターズバッグ」を携行する
こと…それまでのマジシャンは100%アタッシュケースでしたから、
最初は違和感(やはりスーツにドクターズバッグはダサく感じましたね)
があったものの、テーブルホッピングの際には両足の間に置いて上部
から道具を出し入れできるし、ラピングできる便利さは重宝しましたね。

ドクターズバッグを携えテーブルに着く度に「はい、お待たせでした、
往診ですよ〜」という先手を打った導入も年配の富裕層が多かった
せいか、そこそこ受け入れてもらえていました。
相手の脈を測りながらカード当てを演じる等、ドクターというアドバン
テージを生かす演出を考えていました。
ドクターというのは診察で患者の身体に抵抗なく触れる(エッチな意味
ではありませんよ)習性がありますから、そこからウォッチスティールが
キラーエフェクトとして発展していったという事実もありますね。
その延長線上に「ドクターならでは」のギャグが生まれていきました…
「これが消える瞬間が見えた方は遠慮なく見えたと仰って下さい、紹介
状なら無料で書きますので良い病院を紹介します」
「こないだ見えたと仰った方はまだ入院しています」
さらにパフォーマンス終わりに立ち去る際には、
「お大事に!」
「お気を確かに!」
まあ現在ではあちこちのマジックバーを中心によく耳にするギャグにな
ってしまいましたが、特に発言主がドクターでなくてもウケるのは事実
のようですねぇ。
ドクターズバッグも、現在では多くのテーブルホッパーが常識のように
携行しているのを見ると隔世の感がありますが、これに関しては知り合
った1994年頃、その便利さに目覚めて早速アタッシュケースから切り替
えたふじいあきら氏の絶大な影響力が、その後の雛形として多くの若手
マジシャン達に及んでいることは間違いないでしょう。
                                      
私が銀座デビューした頃は、あの日本史上最大の宴会であるバブルは
弾けた直後だったものの、まだまだ熱狂の余韻はありました。
客足が減ったと巷間云われていましたが、減ったのは金持ちに奢っても
らっていた人達(このレベルの客にはチップを出す余裕はありません)
だけで、バブル前からちゃんと自分の金で遊んでいる上客だけが残って
雰囲気も良く、チップの渡し方も嫌味なく実にスマートな人が多かった
記憶がありますね。
中洲のクラブでも演じてきた経験があるとはいえ、やはり銀座は違うな
と感じたのは、チップを出す客の多さとその額でした。
一晩のチップが10〜30万(平均20万)でギャラと合わせると一晩合計
40〜50万というのが続いたのです。
ギャラは労働の対価としてキープし、浮世で貰ったチップなんて元々無
かったものとして浮世に還元すべく、客がチップをつい出してしまう様
に仕向けてくれたホステスさん達にキックバックしたり、アフターに連
れて行ったり、普段は扉を開けることも憚られる高級クラブやレストラ
ンで使いまくりましたね。(良くも悪くも現在に至る夜のクラブ活動の
習慣は、この頃醸成されてしまったわけです、はい)
また馬鹿な散財をして…と思う方もいるでしょうが、それによって大枚
を払う客の気持ちも把握できたし、背伸びしながら未知の体験をするこ
とでセレブリティとの接し方にも役立って、現在のマジックビジネスに
直結していることを考えれば生きたお金だったなと思いますね…やはり
勉強は自腹を切らなきゃ身に付かないってことですね。
                                      
一方キープしたギャラで生活することはもちろん、海外からイリュージ
ョンを取り寄せたり大型鳥を次々に増やしていたわけですが、そういう
目立つ行動や言動をしていると、真実を知らない口さがない一部の同業
者からは、やっかみなのか「あいつはどうせ医者で稼いでるんだろう」
などと 根拠の無い陰口を散々叩かれたものです。
そういうやっかむ人に限って昔も今も誰も憧れない暮らしをしているも
のですが…。
                                      
では何故銀座のクラブから足を洗おうと思ったのか…その一つは、次第
にやさぐれていく自分を自覚できたから。
最初はちゃんと完成されたルーティンを演じようとしていた自分が、無
意識に効率良くチップを「回収」しようとしていたのか、いつの頃からか
酔客に合わせた一発ギャグや下ネタでお茶を濁していた現実とそんな
自分と正直に向き合った時の嫌悪感…。
                                      
銀座デビューした頃、まだ純真(?)だった自分も次第にやさぐれて、
チップを貰うのが当たり前という感覚になっていき、チップを出さない
客に対して不機嫌な表情をした自覚もありました。
そしてついには一晩のチップが10万以下だと、今夜はついてないなと
すら思うようになっていました。(いやはや、このやさぐれ方は天罰が
下るレベルですよね)
                                      
まあ、ここまでのことなら接客業としての意識改革をすれば解決できた
はずなのですが、チップという魔物は私のプライドをズタズタに引き裂
き始めました…続きはチップ論3で。
                                      
                                      
                                      

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チップ論 1

今回は、私自身が欧米を旅行した際に「チップを払う側」として、また
夜の銀座でのパフォーマンスで「チップを受け取った側」としてという
二つの側面から、チップについて4回に渡って考察してみます。
                                      
もちろんチップ文化が根付いた欧米とそうでない日本とでは、チップの
イメージには相当な乖離があることを前提としても、一般的には「良い
サービスの対価、あるいは心づけとして支払うもの」という認識と思わ
れていますが、どうやら間違っているようです。
                                      
欧米の場合、チップとは…「単に従業員の給与の一部をオーナーに代わ
って支払うもの」なのです。
例えばレストランの場合、その従業員は大きく二つに分かれています。
一つは客と直接接する「チップ制従業員」…クローク、バーテンダー、
ウエーター等表のスタッフ、もう一つは客と接する機会がない「チップ
制でない従業員」…シェフや皿洗い等バックヤードのスタッフです。
連邦政府が定める最低賃金は「チップ制でない従業員」の方がかなり高
めに規定され、「チップ制従業員」についてはチップを含めた最低賃金
が「チップ制でない従業員」に満たない場合は、その差額を雇用者が補
うとされています。
                                      
つまり「チップ制従業員」は、我々が払うチップをサービスの対価とし
てではなく「給与の一部」としか考えていないわけです。
だからこそチップが少ないと追いかけて来ることもあるわけで、実際に
私もロサンゼルスの寿司屋で現地在住のマジシャン、ダグ・マロイ氏と
会食後、チップの額に不満を持ったスタッフが駐車場まで追いかけて来
たことがありました。(あまりの必死さに圧倒されて追加して払いまし
たが、サービスに不満があった場合は断固拒否してもいいようです)
                                      
実は従業員が受け取った現金のチップはプールされ、クレジットカード
で支払われたチップはオーナーから金額が伝えられて「チップ制従業員」
に振り分けられています。
客が払ったチップは法律で「チップ制従業員」しか受け取れないことに
なっているので、オーナーが一部を「チップ制でない従業員」の給与や
店の修繕や設備投資に充てたりして訴えられるケースもあるようです。
                                      
なんか面倒くさいので、最低賃金を統一して、いっそチップ制など廃止
すればいいのに…とも思いましたが、古き良き時代のラスベガスで毎度
ショールームのスタッフにチップを握らせて良い座席にアップグレード
させたことを思い出すと…チップのパワーが垣間見えるし、功罪含めて
悩ましい問題ですねぇ。
チップ文化が根付いていない日本においては、飲食店のメニューに別途
サービス料金や深夜料金が併記されていることがありますが、強制徴収
に近いあれがチップの代わりなのでは…と私は認識しています。
                                      
そんな日本におけるチップ…大衆演劇の花付け(おひねり)や老舗旅館
の仲居さんに心づけを渡す文化はあるものの、そのほとんどは高級クラ
ブやショーパブ等の酒席において、夜の蝶やエンターテイナーに対して
支払われているものでしょう。
このような場におけるチップの意味合いの多くは「相手に対する心づけ」
ではなく、ズバリ「支払う側の見栄」そのものではないでしょうか。
(あくまでも私の独断と偏見ですが…)
                                      
私は過去17年間、銀座の多くのクラブやレストランバーでクロースア
ップマジックを演じ、大変有難いことに潤沢なギャラとチップを頂戴し
続けてきました。
そして現在、このチップが発生するような現場のオファーは一切受け付
ていません。
そんなに儲かるのになぜやめたかって?…それは「チップは魔物」であ
ることをはっきり認識したからです。
では、ギャラだけ頂戴してチップを受け取らなければいいのではと思う
人もいるでしょう…いやいや、銀座の高級クラブにおいては、一度出さ
れたチップを受け取らなければ、客に恥をかかせることになりかねない
のです。
銀座の高級クラブからの撤退…それはあんなに有難かったチップこそが
原因でした。
この辺の生々しいエピソードについてはチップ論2で…。

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初夏の諸々

(映画の話)
「クリーピー 偽りの隣人」を鑑賞。
クリーピーとは「気味が悪い」とか「ゾッとする」という意味合いがある
そうですが、引っ越した先の隣人が、殺人によって他人になりすますこと
を繰り返すサイコパスだったというお話。
隣人役が香川照之というだけで、その怪演ぶりが想像できると思いますが
隣人の不気味な言動と行動によって、平和であるはずの日常が蝕まれてい
く様は、サスペンスよりもホラー映画の範疇に入れてもいいでしょうね。
近所付き合いが希薄な現代社会においては、まさに「隣は何をする人ぞ」
ってことで、誰の身に降りかかっても不思議ではないわけですね。
 
実は、我が家の隣の一戸建ても暫く空き家だったのですが、先日入居され
た方が挨拶に来られました。
5匹の猫と1匹の犬と共に越して来られたらしく、隣人である私が動物嫌い
だったらどうしようと危惧していた矢先、私も猫を飼っていることを告げ
るとホッとされていました。
まあ、動物の負い目で考えたら、一度もクレームが来たことはないにせよ、
市街地の住宅であれだけの大声で鳴き叫ぶ大型鳥を5羽も飼っている私の
方が、よほどクリーピーなんだろうな…。
 
 
(マジックの話)
ある番組の企画でタレントさんにマジック指導をとのオファーが…ありき
たりのマジックであれば、わざわざ私ごときのローカルマジシャンが出ば
って、交通宿泊費等の余計な経費をかけさせるのも心苦しいし、バードマ
ジックのリクエストであれば前向きに考えようかと思ったけれど、さらに
経費がかかるし、以前AKBの大島優子さんに指導した時も、本人いっぱい
いっぱいで、どんなに注意してもやはり大型鳥の危険性は排除できないし
…ということで、この案件は在京の後輩マジシャンにパス。
 
先月末〜今月で多くのマジック関係者と会食。
つい先日は、私が中学生の頃からお世話になっているレジェンドディーラ
ー・清水一正氏と二人で会食…昔話に花が咲きました。
さらに、私を含めて普段は交わらないであろうメンツによる怪しい会食続
きで疲労が蓄積したものの、ほぼ初顔合わせに近いF&K、U&K、S&Uと
いった組み合わせの化学反応は面白くて有意義だったと思います。
 
22年前に挨拶を交わした程度のプロフェッサー・サコー氏と内田貴光氏
という日本を代表するマニピュレーター同士の会食(激突)は、内田氏の
リクエストによるもので、なんとか日程を合わせて実現しました。
多くのマニアが驚愕し、幾多の若手や弟子達が、習いながらも脱落してい
ったサコー氏のウルトラテクニックを惜しげもなく内田氏に伝授、死にも
の狂いで食らいつき、短時間で形にしていく内田氏のセンスと底力にはサ
コー氏も驚いていましたね。
サコー氏、今後もプライベートで内田氏に伝授していくそうです。
 
このような建設的な話もある一方、悪しき慣習…先の映画のタイトルでは
ありませんが、「偽りの○○」が跳梁跋扈するマジック界の一部は本当に
クリーピー。
 
 
(腕時計の話)
先日、オーバーホールした時計を受け取った後、売り場をウロウロしてい
たら一本のギラついた時計を発見…ガランテSBLM006
真面目時計のイメージが強いセイコーが作ったとは思えないことで注目さ
れたガランテシリーズの中でも、一際目立つゴールドとダイヤの輝きにび
っくり…パッと見はケバくて下品なイメージですが、実際に手首に載せる
と高級感溢れる重厚なオーラを放ちます。
限定100本のこの派手時計を着ける自信がある人は、立派なクリーピー。
 
6月24日、シャングリ・ラ ホテル東京で開催されたフランク・ミュラー
新作発表会「WPHH JAPON in TOKYO 2016」に参加。
ホント、目の保養になりましたよ。
しかし、この日にイギリスのEU離脱が決定…その余波で金融資産を大きく
目減りさせて、どんよりした気分のままの招待客もちらほら。(あーあ、
時計買っときゃよかったのに…)
最も注目したのは、ヴァンガード グラビティ…文字盤の約半分を占める
トゥールビヨンが回転する様は異様な迫力を感じましたが、価格がやはり
クリーピー。
そして悩んだあげく、ここで出会ってしまった新作ダイヤモンドタリスマ
ンリングを購入。(あーあ、来年の誕生日まで待てなかったクリーピー)
 
日差しも紫外線も強い初夏ですが、目の保養に美しい時計の映像をどうぞ
フランク・ミュラー PV 2016                                     

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