先輩・後輩
知る人ぞ知るファイヤーマジックの大家にして、稀代のマニピュレーター
であるプロフェッサー・サコー氏…暫くお会いすることがなかったのです
が、今年になって何度も会食する機会に恵まれました。
2月末も、氏が九州でのマジックイベントにゲスト出演後、ご子息と福岡
に一泊されるとのことで、馴染みのステーキハウスとマジックバーを梯子
して朝までコースでした。
実は氏と私は、共に宮崎県が郷里で、卒業したのも同じ県立宮崎大宮高校
という、ちょうど一回り違う先輩・後輩の間柄なのです。
私が高校に入学してすぐにマジックを披露したところ、かなり年配の教師
の「10年以上前に君のようにマジックをやる生徒がいたなあ、名前は酒匂
だったかなあ、しかしあいつは上手かった」との情報で、自分の高校のOB
であることを知ったのでした。
氏は1977年、IBM、PCAM、TAOMというアメリカの三つの大会で優勝し、
1978年世界奇術大賞の日本代表として銅メダルを獲得、80年代はテレビ
の花王名人劇場で何度も特番が組まれてラスベガス公演を成功させるなど
スターマジシャンとして一躍脚光を浴びており、当時の私はモロに影響を
受けたマジック少年でした。
あの頃、マジシャンとしての私の身体の半分は島田晴夫氏、残りの半分が
サコー氏で構成されていたと言っても過言ではありません。
8ミリフィルムで撮影した私の高校時代の映像がありますが、島田晴夫氏
とサコー氏のコスプレそのものでしたからね。(しかし、いかにコンプラ
イアンスが緩かったとはいえ、あれだけのファイヤーの使用許可を出した
高校も凄いですよ)
そんな氏とバーで朝まで飲む間に、久しぶりに氏のウルトラテクニックが
見たくなってリクエストしたところ、やってくださいましたよ…いやあ、
指が長いのと相まって、もう何と言うか上手いだけではなく、手首から先
の動きが美しいんですよね。
1組のカードで見事な5つのファンを作って見せた時、先輩相手に失礼なが
ら言ってしまいました…「やっぱりあなたは化け物だ!」(あ、これ私の
最上級の賛辞ですから)
以前は氏のテクニックを目の当たりにすると絶望感に苛まれたものですが、
久しぶりに感じる妙に清々しいこの感覚は何だろう…と考えていたところ、
実はとっくの昔に降参して、楽しむ側になっていたのですね。
星の数ほどある全ての種類のマジックを、高い偏差値でマスターするのは
不可能なわけで、自分に向いていないと自覚したり、天賦の才ある人間に
圧倒されて競争することや比べることを降りた分野は、自身の心の曇ガラ
スが払拭されて他のマジシャンの演技を素直に楽しめるからなのか、現象
の彩度がくっきりと上がって見えるものです。(ふじいあきら氏と出会っ
た時もそうだったし、最近では北原禎人氏もそう感じさせましたね)
とんでもない才能やポテンシャルを秘めている人間が、世間からの賞賛や
自己顕示欲を満たすために本気で猛烈な努力をしているとしたら絶対に敵
うわけがないし、その根底には、私などでは想像できない孤独感や欠落感
を超越できる人種なのではと思ってしまうのです。
近年のサコー氏は、裏方というかマジックのギミック作りに傾注されてい
るようで、私が「久しぶりにもっとスポットライトが当たる場所に出て来
てくださいよ、このままじゃ仙人になっちゃいますよ」とお願いしても、
「今は部屋に閉じこもって、ネタ作りをしている時が一番幸せなんだよ」
とのこと。(氏が製作する道具は、少量生産で世界中のマジシャン達から
引く手あまたで、数年待ちというギミックもあるほどですからね)
で、そんなサコー氏の技術の片鱗の映像収録と、氏のみが知るマジック界
の史実や、通り過ぎた弟子達の話(本当は足を向けて寝られない人が多い
んですよね)を語って頂きたく、マリック氏と私とで対談を行いました。
(ニコニコ動画・マリックチャンネルにて3月20日配信)
まさかこの三人で対談をする日が来ようとは…二人のモンスターを目の前
にして、久々に背筋がピンと伸びました。
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