時代に抗うマジック
コンプライアンスが強化されつつある現代社会…大企業でも、たった一つ
の不祥事が原因で信用が地に堕ちるこのご時世であれば、それもむべなる
かな。(フォルクスワーゲンどうなるの?)
マジックを演じる環境も、時代と共にコンプライアンスが厳しくなって、
会場サイドから「火気厳禁! 動物なんてもってのほか! 紙吹雪で会場を
散らかすべからず!」などと機先を制せられて思わずシュンとうつむき、
結局無難な売りネタで演技を構成…結果、金太郎飴のごとく似たり寄った
りの営業マジシャンが増えていく一因にもなっているわけです。
そう考えると、昔は緩かったというか、おおらかだったというか、一流
ホテルの宴会場でも火はボウボウ出すわ、鳩は飛ばすわ、特効でドッカン
ドッカン煙は出すわと、やりたい放題でそれなりの報酬を頂いていたわけ
ですから、オイシイ時代を生き抜いたなあとしみじみ感じます。
老婆心ながらアドバイスをすれば、これからプロ活動を始めるマジシャン
は、できるだけファイヤーマジックや動物を使うマジックは避けた方が
賢明でしょうね。
私自身がそうだっただけに、そのやりたい気持ちはよ〜く理解できるけど
始めるのは容易でも、ウケるだけにやめるのは困難だし(薬物と一緒)、
レパートリーの幅を広げた結果、わざわざ仕事の幅を狭めることもないと
思いますよ。
ファイヤーや動物のマジックが代名詞になるくらいの実績を作って、その
演目が前提でのオファーであれば何の問題も無いのですが、一番やっかい
なのは、その演目を強く望んでいるクライアントからの直接のオファーで
あっても、会場サイドのコンプライアンスでNGになったり…ハードルは
色々とあるわけですよ。
この点に関しては、時代に抗わない方が賢明だと思いますよ。
無理筋を通したところで、気持ちの良い演技はできませんからね。
どうしてもやりたい放題を貫き通したければ、自分専用の店や劇場を持つ
しかない時代になったり、近い将来にはマジックショップのカタログから
ファイヤーと動物マジックのカテゴリーはなくなるかも知れませんね。
最近のコンテストにおいても、予選の段階からファイヤーはNGの場合も
あるし、動物に関してはヨーロッパ、特にドイツを筆頭にペットショップ
の規制もかなり厳しくなっているくらいですから、動物を使うマジシャン
は肩身が狭くなる一方でしょうね。(フランスのバードマジシャンとして
有名なアルファは元気なのかな…久しぶりに会いたいなあ)
私の場合、時代に抗ってファイヤーとバードマジックを続けていますが、
どうしてもNGの時、それ抜きのステージは勝手が違い手抜きしたようで
物足りなく感じる時期もありましたが、出番直前に慌ててセットするスト
レスがないだけでも精神的にかなり楽になるのか、自然とトークが冴えた
り、既存のレパートリーがブラッシュアップするんですよね。
得意料理が作れない時は、冷蔵庫の残り物でも美味しい料理を作るように
なるという、災い転じて福となすとポジティブに考えるべきですね。
つまり、ファイヤーや動物を売りとするプロとして食べていくには、それ
に劣らない「プランB」は必須ということです。
30〜40年前、ファイヤーマジックで一世を風靡し、独壇場の魅力を漂わ
せていたジミー忍氏や、元祖動物マジックのジャック武田氏…現代ならば
真正面から時代に抗うことになるようなマジシャンは、残念ながら二度と
現れないでしょうね。(お二人共、その晩年の十八番芸に到達する前に、
かなりのスライハンドの名手でしたしね…それだけでも凄いプランBです)
あのようなパワフルな先人達を生で見て強い影響を受けた上で、おおらか
な時代にやりたい放題やれた私の世代は、本当に恵まれていると思います。
昔の映像を整理しながら思わず見入ってしまい、ノスタルジーに浸ってし
まった一日でした。
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