まだ遅くない?
突然ですが、日本において合格するのが最も難しいのは何の試験だと思い
ますか?
個人的には司法試験か公認会計士の試験と思っていましたが…実はなんと
剣道八段の審査だそうです。
なにしろ合格率は1%で「七段取得後10年以上修業した、かつ46歳以上」
の猛者が集まり、それぞれ計4回立ち合い、技量はもちろん風格や品位も
問われ、10年以上挑み続け、70歳代で合格する人もいるとか。
すでに実力はお墨付きなわけですから、審査内容には、ぶら下げた5円玉
を突く、対向車とすれ違う瞬間にナンバーや車内の様子を見定めるなんて
のもあるそうです。
合格者の体験談がまた興味深く、それぞれ工夫を凝らして精進し「結果が
気にならなくなったとき」に合格したりするらしいです。
(ほとんど悟りの境地という領域ですな)
マジシャンで例えれば、はったりイリュージョンや自慢げなスライハンド
等は関係無く、もう登場しただけで圧倒的な存在感のオーラが漂うレベル
が剣道八段なんでしょうね。
以前、卒業したらすぐにプロマジシャンになりたい、会社を辞めてプロに
転職したいという相談を少なからず受けたことがありますが(実際はプロ
になってしまってからの困った相談の方が多かったけど)、各々の事情や
背景に違いがあるとはいえ、プロという剣道初段に挑戦するには、どのタ
イミングが最適で、何歳くらいがリミットなのでしょうか?
私はプロになるタイミングというのは自分で設定するのではなく、「プロ
の世界が自分のことを放っておいてくれない状況だな」と感じた時だと思
うんですよ。
かつて、桑田真澄投手がPL学園卒業後は大学進学を宣言していたのにもか
かわらず、巨人からドラフト1位指名を受けてプロ入りしたという経緯が
ありましたよね。まさにあれですよ。
学生から社会人になろうとしている、あるいは現在社会人として働いてい
るのに、セミプロとして「充分な報酬を伴う出演依頼」が引きも切らなく
なり、それらを承諾すれば生計が成り立つ見積もりができて、そのために
は学校や会社を休むか退職せざる得ないという状況になれば、世間の方か
らプロマジシャンになることを求められているわけです。
世間から堂々とドラフト1位指名を受けたと言ってもいいでしょう。
(マニアの集いにすぎないコンベンションからのオファーは、ここでの
ビジネスの定義には全く当てはまりません)
翻って、自己評価が高過ぎるプロ志望の若者は、世間が求めていないどこ
ろか親や友人の心配する声にも馬耳東風で、自分で自分を1位指名して
(独りドラフトですね)勢い良くプロ宣言したものの、ほどなく困窮して
必死で飲み屋のレギュラー枠を探したり、出演料のダンピングをしたり、
ちまちまとコピー商品を作って、アマチュアに売りつけたりして糊口を
凌ぐというパターンに陥りやすいのです。
年齢に関しては私の考えだと、20歳前後の若者であれば、そんなに焦って
プロになる必要はないと思うんですよ。
己のマジックの好きさ度合いを知るために、また社会性を身に付けるため
にも、アルバイトではなくマジックとは全く無関係の正社員という立場に
数年でも身を置いて、そこでの社会の理不尽さやマジックにさく時間が無
い切なさ、反対に社会的安定感の有り難さを体感するなどした後、それ
でもプロになりたいと思うのなら、その気持ちは本物かもしれない…。
つまり捨てるものが大きいほど、その後に元を取ろうとする覚悟も大きく
なるもの。
スタートから失うものは何も無いとばかりに開き直って始める人とは何か
が違ってくると思うんですよ。(もちろん、いきなりプロ入りしても常識
と社会性をも備えた素晴らしい活躍をしているマジシャンも多くいます)
成功するために安定を一度捨てる必要があるとすれば「安定を捨てる時に
感じた不安は、成功するために必ず味わわなければならない感情」という
ことになります。
成功と不安はワンセットだということですね。
多くの起業家を見出した慧眼を持つ、幻冬舎社長の見城徹氏はその著作の
中で「リスクのない転職はない」と喝破した上で、年齢に関しては次の様
に述べています。
「努力と覚悟があるのなら、やり甲斐が感じられない職場は辞めて新たに
チャレンジすればいい。ただし、せいぜい45歳までがリミットだ。45歳
であれば、再チャレンジに失敗してもまだなんとかなる。できれば35歳
を超えていないことが望ましい。45歳を過ぎれば、誰だって若い頃に比べ
て体力は落ちる。残りの人生の年数だって見えてくる。転職や起業によって
人生を差し替える決断は、遅くとも45歳までにとどめておいた方がいい」
ところで、今年の医師国家試験合格者の最高齢は…なんと60歳!
入学式では保護者と間違われ、患者からは教授と勘違いされたとか。
還暦の研修医かあ…ご本人はこれから30年働くと張り切っていらっしゃい
ますが、実働20年と考えても、まだ遅くはないのかなあ。
人生って可能性だらけですね。
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