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2015年2月

プロフェッショナル・コンセプター

                                    
 
久しぶりに、本の紹介です。
 
先日、超高級腕時計ブランド、リシャール・ミルのオーナーズイベント
「リシャール・ミル ミーティング in FUKUOKA 2015」(ヒルトン福岡
シーホーク)に招聘されて、クロースアップマジックを演じました。
 
なにしろ「腕時計業界にライバルはいない、競合はフェラーリやランボ
ルギーニ」と云われるほどのブランド…もちろんこのブランドにちなんだ
オリジナルマジックも用意してそれなりに喜んで頂いたのですが、男性客
の一人が、写真でしか見たことがない世界30本限定の驚愕モデルである
RM52-01を実際に着けていることに驚いて、演技中に思わず見入ってし
まいました。
パーティーの最中、私と同じRM023を着けている仲間を探したところ、
スタッフの一人が色違いのWGモデルを着けているのを発見しました。
そんなこんなで話も弾み、最高のフルコースディナーも味わいながらの
素敵な一夜となりました。
 
このパーティー、実は創業者であるリシャール・ミル氏の肩書きを題した
出版を記念してのイベントだったので、購入して予習として読み込んだ
ところ、VIPやセレブリティを主な顧客とするラグジュアリービジネスの
哲学について、色々と考えさせられました。
 
その内容を簡潔に言えば、ラグジュアリービジネスにおいては「ブレない
明確なコンセプト」があれば、次第に賛同者が増えてブランディング化の
成功に通じるということ。
 
一部を抜粋すると…
 
私が作っているのは、「誰もが欲しくなるような腕時計」であり、「誰も
が買うことが出来る腕時計」ではない。最近、ブランドの認知度がかなり
上がってきた。そうすると、もっと買いやすいエントリー価格のモデルを
出すべきだとアドバイスしてくる人が出てくる。もし利益だけを追求する
ならば、その考え方は正解かもしれない。100万円で買えるようなモデル
があれば、今なら数千本という単位で売れるだろう。だが、私自身がそん
な腕時計を欲しいとは思わない。もしそんなモデルを出してしまったら、
これまで愛してくれた多くの顧客が失望し、ブランドから離れていってし
まう。私は高価な腕時計を作りたいわけではない。理想の腕時計を追い求
めてきただけだ。それぞれの時計には唯一無二のコンセプトがあり、そこ
に世界でも最高水準のテクニックが加わる。その実現のためにかかったコ
ストが価格に反映される。一切の妥協をせず、理想を追い求めた結果、必
然的に価格が高くなってしまうのだ。(リシャール・ミル 談)
 
ラグジュアリーブランドの世界では、付加価値という要素がとても大きな
意味を持ちます。付加価値という言葉は、顧客満足度と言い換えてもいい
かもしれません。顧客が満足できれば、それこそが「価値」であり、世間
で常識とされているものとしての相場に関係なく、人はそこにお金を払う
のです。(リシャールミルジャパン代表取締役 川崎圭太 談)
 
 
またリシャール・ミル氏は「好きなことだけして、作りたいものだけを作
っている」とも述べていますが、そこには「ブレない明確なコンセプト」
が前提としてあるわけです。
これをこのままマジック業界に置き換えることには無理があると思いつつ
…誤解を恐れずに言えば、マジシャンの場合、趣味感覚の延長でスタート
して、「大好きなマジックで生きていけるだけで幸せ」という人も多いせ
いか、コンセプトの有無どころか、まあとにかく「キャラ」も「ギャラ」
もブレまくりですからね。
 
同じスプーン曲げやアンビシャスカードや鳩出しでも、なぜ演者によって
説得力や重みに差があるのか、なぜギャラに雲泥の差があるのか、古い車
でも中古車とクラシックカーとに区別されるのは、どこに差があるのか…
結局はコンセプトの質によるブランディングの差に行き着くのですね。
 
時間を確認するだけなら安価な腕時計で充分だし、スマホがあれば腕時計
すら必要ないこのご時世に、超高級腕時計がなぜ必然なのか…この本には
作る側、売る側、買う側それぞれからの必然性が明確に書かれています。
 
同様にマジックそのものは生活必需品ではない以上、マジックを提供する
という仕事が本来贅沢な時間を売っているという一つの考えに鑑みれば、
マジックを創る側、演じる側、観る側それぞれに必然性があって然るべき
でしょう。
 
この本は、マジシャンを含めた「ラグジュアリービジネスとして贅沢品を
提供しているという自覚がある人」ならば必読です。
逆にラグジュアリービジネスを否定したり、マジックをボランティアで演
じたり、せっかく苦労して完成させた自身の芸を安価でお気軽に提供する
ことをコンセプトとするマジシャンには、全く必要のない本です。
 
で、この本の価格はというと、腕時計と違ってごく普通に1200円なので、
amazonでお気軽にどうぞ。
 
表紙の帯に書いてある言葉…「妥協=自分に嘘をつくこと」…納得!
 
 

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