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続・とんがってる

とんがってる男・北原禎人氏から新書「HUMINT」を献本してもらい
ました。
送付元のスクリプト・マヌーヴァ社の滝沢氏が私へのメールで、これ
までのマジック関連本では扱ってこなかった内容に踏み込み、北原氏
本人をそのまま映したような本です…と紹介されていましたが、まさ
にそんな感じです。
 
ここで注意!…単に何かいいネタが載ってるんなら買おうかなっとい
う軽い気持ちでこの本に齧りつくと、胡桃のような硬い殻に阻まれて、
前歯が数本欠けるかもしれません。
 
読解力が高い人でも何度か読み返さないと理解し難い彼独自の表現や
言い回し、哲学が満載なので初心者向きではありません。
また理解した直後に、自分に当てはめた情景が瞬時に、かつ条件反射
的(梅干しを見たら唾液が出るように)にイメージできるまで脳内筋
力を高めておく必要があります。
 
医学的に例えるならば、この本はオペの術式解説をしている外科学で
はなく、あえて言えば病理学、生理学、精神医学に近く、さらに神経
や血管の走行を始めとする解剖学を熟知した上で読み進まないと、お
そらくちんぷんかんぷんになることでしょう。
税抜きで6200円の本ですから、初心者はお手軽なグッズやDVDでも
購入することをお薦めします。
 
内容は、過去の書籍で発表した作品に補足的に加えた考察や、近年の
マジックブームについて実名を挙げての考察、失敗した際のリスクマ
ネージメント、そしてプロマジシャンとしてのあるべきスタンス等、
多岐に渡ります。
 
その文章や表現、考え方には賛否両論あることでしょう。
私が気に入った一部を抜粋してみると…
 
・ 夢を与えたいだとか、他人を幸せにしたいなどというのは演技を
  するのであれば演技に埋め込めばいいものであって、埋め込めな
  い者が口で言って補足する為のものではない。口にすれば演技者
  としては蛇足でしかないのだ。夢を与えたければ与えればいい、
  他人を幸せにしたければすればいい。何か違うだろうか。
  何故それを叫び続けなければならない状態を健常としてしまえる
  のかと言えば、演技がクルクルパアなのである。
 
・ Derren Brown を見て、彼のアプローチを表面的に捉えて憧れ、
  彼の他人の体験へのアプローチをDB本人がそうではないと断じて
  いる「コントロール」という言葉で誤解しながら真似事をしている
  連中は、ただ「能力」というものの響きにシビれているのだ…
  (中略)劣化コピーが生産される根源に常にあるのは、オリジナル
  の表面だけを対象に採用する処にある。
 
・ 変な集まりに何かのおこぼれを期待して顔を出すのではなく、自分
  がダメだと思った社会には背を向けて安易に馴染まなければ、貴方
  は健康でいられるだろう。
 
まだまだ紹介したい一文があるのですが、これから読む人のことを考慮
して、ここまでにしておきましょう。(因みに私の事は、辛口の機関銃
と表現しています…まっいいか)
 
このような内容の本を29歳の人間が出版すれば風当たりが強いであろう
ことは容易に想像できますが、アスリート(サッカーの本田とか)に置
き換えれば、この世代がとんがっていても私は何の違和感も感じません。
(実力も仕事も無い年長者の非難や愚痴は傾聴に値しないので、自分の
経験上無視するに限ります)
 
確かにその表現は時に過激で辛辣(お前が言うなって?)なので、万人
に受け入れられるのは難しいかもしれませんが、彼には絶対的な強みが
あります…それは正直であること。
自らの思考を正直に吐露すれば、何も恐れるものは無いはずです。
 
どうしようもない悪人が、感謝感謝と卑屈な笑顔で揉み手をしながら
善人ぶったり、低レベルの仲良し互助会的な組織や新興宗教的グループ
に自分の意志で出入りしておきながら、陰では愚痴をこぼす輩が多い中
で、正直であることは強固なステータスを構築する上では必要十分条件
でしょう。
 
この本を読み終えた時に、北原という男が誤解されなきゃいいなと心配
しましたが、どうやらそれは杞憂でしょう。
なぜなら彼は確信犯的にこの本を世の中に投下しているし、この本を読
んだ人間が今後初めて彼に遭遇することがあれば、すでにどんな考え方
をしている男なのかを理解した上でのことなので、そこに誤解が生じる
ことは起こり得ないでしょう。
 
そう考えると、この本は彼の「名刺」…いや、とんがってる北原という
マジシャンの「取り扱い説明書」なのかもしれません。

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