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温故知新

あっという間に誕生日も過ぎ去り、改めて自身の年齢に合わせた仕事上の

マジックのスタイルについて考えています。

ここ数年は無理に(あるいは無駄に)レパートリーを増やすことはせず、
過去に培った得意な分野をブラッシュアップすることにエネルギーを傾注
して来ました。
 
そんな折、昔から多くのレアなマジック映像を蒐集してきた私が初めて
目にする、本当に貴重な古い映像をいくつか入手したために、ここ数日は
見入っていました。
鳩出し、ゾンビボール、マニピュレーション、イリュージョン…そこには
私が幼少の頃憧れていたマジシャンのイメージの原点が満載でした。
(今見ても新鮮だし不思議だし、もう決定版って感じなのですよ)
私は私なりに、今後のステージマジックやイリュージョンの取捨選択に
悩んだ末にそれなりの結論に至っているので、これから自分があの時代に
回帰することはないと思いますが、ノスタルジーに浸らせてくれる素晴らし
い映像でした。
 
一方、クロースアップマジックにおいては、今でも悩み多きところです。
ステージの分野では年齢的なイメージや体力的なことを基準に取捨選択で
悩んだわけですが、クロースアップはステータスを含めたプロの立ち位置
というか、スタンスが悩みの種なんです。
 
例えば、この年齢でテーブルホッピングを続けるべきなのか、もうやめと
こうかと…。
若い頃はステータスに拘るプライドもなかったせいか、仕事が決まれば何
でも有り難かったので気にも留めませんでしたが、今になってこの年齢の
オッサンが、食事中の円卓の狭い座席の間に何度も割り込んで演じたり、
桃太郎が猿・犬・キジを引き連れるがごとく、ずっと子供達に付きまとわ
れてマジシャンというよりも保父さんの役回りになるのもどうかなと…。
さらに、時間さえあればもっと良質なマジックが演じられるのに、ほんの
数分で次のテーブルに移動しなければならない宿命のために、どうしても
一瞬のギャグネタや、イベントの主旨とは何の脈絡もないのに角度に強く
リセットの早さを優先した単発ネタでお茶を濁してしまいがちになること
にも疑問が…。
 
ステージではそれなりの持ち時間で、この日のために構成した演技を観客
全員に披露するように、クロースアップにおいてもマジシャンが数分だけ
客席にデリバリーされるよりは、コンベンションで行われているように、
テーブルマットというステージ傍に観客自ら集まってもらい、ある程度の
時間をかけて何らかのテーマや世界観を携え、ストーリーを持たせたり、
クライマックスへの伏線を張ったりするのが王道なのでしょう。
特に近年は「時」をテーマに腕時計ブランドのショーを構成する機会を
得て、それを強く感じるようになりました。
 
だからといってテーブルホッピングを否定するつもりは毛頭ありません。
どんな環境や条件でも引き受けて、きっちりとやり遂げるのがプロだと
主張する人もいるでしょうし、全テーブルの全ての観客にクロースアップ
マジックを見せなければならない時、複数のマジシャンでホッピングを行
うことは大変有効で喜ばれるものです。
 
私も長年ホテルや結婚式場で円卓を廻ってきたし、20年近く銀座の幾多
のクラブで酔客を相手にやってきて、期待以上のギャラやチップを頂戴
して所謂オイシイ思いをしてきたので、「ホッピングこそがクロースアップ
の王道! ホッピング最高!」てな感じで何かが麻痺していたのも事実。
 
現在これだけは肝に銘じています…テーブルホッピングはクロースアップ
マジックを演じていることに間違いはありませんが、決して「クロース
アップショー」ではない。
 
偉大なマジシャンの有名な手順あるいは書籍に載っている名作のほとんど
がホッピングではなく、クロースアップショーを演じる環境を前提として
構成されています。
しかし現実の仕事の現場では、そのような理想的な環境はマジックバー
以外では少ないのかもしれません。
 
私はマジックをホッピングで慌ただしく廻ることを「空中戦」、テーブル
マット上でじっくり演じることを「地上戦」と呼んでいます。
実際の仕事では空中戦が多くても、やはり本当の醍醐味は地上戦にあるの
でしょう。
今月は良い環境での「クロースアップショー」の機会があるので、色々と
地上戦の工夫をしてみたいと思います。
 
キャバレー全盛期のステージマジシャン、テーブルホッピングはおろか、
クロースアップマジックという単語すら一般的ではなかった時代の先人達
のパフォーマンスを今一度振り返ると、悩み多き現在の事態に対処できる
ヒントがあるかもしれません…これこそが温故知新。
 
しばらくはこの古くて新鮮な映像にハマりそうです。

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