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功名心

iPS細胞から心筋細胞を作製し、6例の移植手術をしたと虚偽の発表をした

森口尚史なる人物が世間を騒がせています。

本家の山中教授のノーベル賞受賞の祝賀ムードに水を差す残念な騒動です
が、このニュースの信憑性への疑念が強まるにつれ、12年前に考古学界
に衝撃を与えた「旧石器捏造事件」を思い出しました。
これは考古学の学説の根幹を崩すほどのまさに「騒動」ではなく「事件」
でした。
いずれもその根っこには、賞賛されたいという功名心があるのでしょう。
ただ旧石器捏造事件の場合は、緻密なネタ仕込みがスクープされるまでは
長年に渡って欺き続けられたわけですが、iPS細胞騒動の場合、証拠開示
や理論武装の準備が無いままに、短期間というよりも短時間でばれる嘘を
嬉々として発表する神経を疑問視した方も多いのではないでしょうか。
 
翻ってマジック界を省みた時、以前の考察「受賞する意味」でも述べまし
たが、ちょっとしたコンテストで受賞した際に「世界チャンピオン」だの
「世界第○位」と名乗ったり、経歴詐称をするマジシャンのなんと多いこ
とか…これも功名心のなせる業なのでしょうか。
 
先の森口氏も東大医学部教授と名乗って、6畳一間のアパートに住んで、
大家や近所の人達も訝しく感じていたとのこと…マジックの世界チャンピ
オンの仕事の質や暮らしぶりは現実にはどうなのでしょう。
いやしくも夢を見せるという商売ならば、オンであるショーの時以上に
オフの時にこそ夢を見せてもらいたいものです。
 
そもそも医学界や考古学界等のメジャーな学問の世界では、虚偽の発表を
すれば直ぐに矛盾を突かれて発覚し糾弾されますが、マジック界ではマジ
シャン自身がこの世界がマイナーであることを自覚し、さらにそのことを
逆手にとって嘘が発覚しないであろうと(ある意味ナメて)確信犯的に
大げさな肩書きを披露しているとしか思えません。
 
歌手が出たこともない紅白に出たとはよもや言わないでしょう。
 
俳優が獲ってもいないアカデミー賞を獲ったと言い張ったら、即刻入院
かもしれません。
 
最も情けないのは、海外のマジックコンベンションに客として参加したに
過ぎないのに、あたかも出演したかのようにプロフィールに記載するマジ
シャンが存在すること。
ではマジシャンの眉唾な肩書きや経歴は、なぜ世間で問題になったり糾弾
されたりしないのでしょう?
それは、たとえ本当に世界チャンピオンになっても、本当にマジシャン・
オブ・ザ・イヤーを獲っても、新聞を代表とするメジャーなマスコミから
はニュースバリューとしては認めてもらえず、世間からはその存在すら知
られていないマイナーなマジック業界誌でのみ賞賛される程度の社会的な
ステータスでしかないことの証。寂しいねぇ〜。
 
大げさな肩書きや経歴詐称をしてまで同業者に対する優位性を誇示する前
に、このマジック界を功名心を抱くほどの価値があるステータスの高い
世界にしていくのが、我々マジシャンの責務だと思います。

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