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興味の壁

以前読んだビジネス書にこんな事が書いてありました。

人に物を売るには2つの壁がある。
第1はその商品に興味を持ってもらう壁、第2は財布を開かせる壁。
この2つの壁のうち第1の壁の方がはるかに高い。
興味を持って壁を乗り越えさえしてくれれば、後は払うか払わないかと
いうことになるわけだが、人間一度興味を持ってしまえばどうしても欲
しくなって購買に向かってしまうもの。
多くのビジネスの失敗は、興味を持ってもらおうともせずに、ひたすら
サービスしたり値引きしたりと第2の壁だけを越えようとすることにある。


確かにその通りだと思います。
例えば、私はゴルフも釣りもたしなみません。
従って、もし100万円のゴルフクラブや釣り竿が千円で売られていたと
しても食指は動かないでしょう…なぜなら興味が無いのですから。

これは現代のデフレ社会の縮図であって、どんなに安くしても物が売れ
ないのは興味を持たれていないということと、ほとんどの日本人は必要な
物はとりあえず持っているし、あえて買いたい物が無いわけです。
一方で、不要不急のブランド品が富裕層に売れ続けているのは頷けます。
これは富裕層が「付加価値」という部分に興味を持っていることに他なり
ません。
マジシャン自体は決して社会の必需品ではなく、付加価値の要素が極めて
強い職業だと感じます。いや、むしろ付加価値そのものかもしれません。

マジックをビジネスと割り切って考えた場合、第2の壁だけを越えようと
してギャラのダンピングをしても、良い仕事に結びつくことはほとんど
ありません。
たとえ結びついたとしてもそれは本人の腕はさておき、本質から外れた
「安さ」という部分に興味を持たれたに過ぎません。
マジシャンに仕事を依頼するというのは、付加価値を購入する本来贅沢な
行為であり、ダンピングするマジシャンには大きな付加価値を見出せない
ということになります。(銀座の高級クラブでは、チップが貰えるので
ギャラは要りませんと言って売り込むマジシャンもいたようです。)

趣味としてのマジックを考えた場合「趣味はなんですか?」と問われた時
に「マジックです」と答えれば、映画鑑賞や読書、スポーツといった類い
の趣味と比較しても、はるかに興味を持たれるかもしれません。
そんな場面で「ひとつお見せしましょうか?」と言えば「ぜひっ!」と
いうことになるでしょう。
しかしこんな時、マジックにどっぷりハマって見せる機会に飢えている
人達は、見てくれる客はみんな自分と同じくらいにマジックが好きなんだ
と勘違いして、これでもかとばかりに見せまくることがあります。
(いわゆるマジックハラスメントというやつでしょうか)
そもそも見る側が同じレベルのマジック好きだとしたら、その客もすでに
マジックをやっていても不思議ではありませんよね。
ここで空気(凄いがウザイに変わる時)が読めないと、客に興味を持って
もらうどころか忘れ去りたい思い出にもなりかねません。

人が何らかの行動を起こす原点は、その対象に強い興味を持つこと。

マジックビジネスにおいては、現象はともかくそれを演じる人間に興味を
持ってもらうことに尽きるのでしょう。
世の中の人達は、マジックを生業にまでしてしまったプロや徹夜で見せ合う
マニアほどにはマジックそのものに興味はありません。
マジック以外の話題になったら全く間がもたなくなって急激に魅力が色褪せ
るマジシャンには、まともな社会人は強い興味は持ってくれないでしょう。
結局は高い第1の壁を越えるのを避けて(あるいは壁に気付かないまま)、
壁の無い仲間同士で語り合い、見せ合うのが至福のひとときとなるのです。

猿は木から落ちても猿だが、政治家は落選したらただの人と言います。
マジック抜きでも魅力的なマジシャン…これが理想ですよね。

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