歳を重ねる(後編)
今回の考察の前編では、マジシャンとしての、特に体育会系で体力
勝負の側面が強いイリュージョニストの歳の重ね方は難しいのでは
ないかということを述べました。
今回はその後編です。
歳を重ねていることを客観視していないと、次第に演技内容やBGM
や衣装の雰囲気とのズレが生じます。
年配の男女ペア(あくまで一部の)のイリュージョンショーに痛々
しさすら感じることもあり、これは止め時を逸しているのかなとも
思います。(いい大人になった歌手が、アイドル時代のデビュー曲
や衣装のままステージに立っている…という違和感のようなもので
しょうか)
あのカパーフィールドでさえ40代後半からは、特定の美女と演じる
イリュージョンは控えて、自分自身をアピールして印象に残る出し物
にシフトしています。これは実に先見の明がある戦略でしょう。
ショー終了後に、豪華な道具と美女しか印象に残らないマジシャンは
おおいに参考にすべきです。
マギー司郎氏が若い頃、次々に持ち歩く道具が増えていき、この調子
では歳をとった時に運べなくなると感じ、将来を見越した上で現在の
おしゃべりマジックに切り替えていったという話には説得力がありま
した。
現在の私はというと、BGMに乗って女性アシスタントと演じるタイプ
のイリュージョンは基本的に封印しています。
しかし、この手の出し物は昔から好きだし営業的には実に売りやすい
のですが、道具が優秀であれば誰が演じてもある程度はウケてしまう
傾向には内心忸怩たるものがあったし(実際にタレントに指導すれば
短期間でマスターして、ちょっとしたプロマジシャンよりも上手く演
じる場合もあるほどです)、年齢的にも少し合わなくなってきている
のかなと…。それと以前から軽度の頸椎ヘルニアを患い、重い機材を
運んだり組立てたりした後に、左手が痺れるようになったのも理由の
一つです。
封印するまでは漠然とした不安(派手なイリュージョンをやらないと
手抜きをしたと思われる恐れと、戦場に丸腰で向かうような不安感)
があったのですが、一度封印して、バードマジックやトークマジック
だけで構成すると自分自身が前面に出せるし、現在はより個性豊かな
ショーができるようになったと確信しています。
長い期間をかけて積み上げてきた記憶や経験を「結晶性能力」と言い
ます。つまり「経験値」とも言えます。
結晶性能力でウケる…歳を重ねたマジシャンのゴールはここしかない
ような気がします。
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