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王 道

台風4号に追っかけられながらも揺れることなく無事にクルーズショー
から帰って来ました。
夏休みということもあり、家族連れや年配のご夫婦等、まさに老若男女
500名超の参加者で盛況でした。

今回のクルーズは、かなり前から決定していた仕事なので、充分な構成
期間もあり、客層やレパートリーを見つめ直して、いわゆる「王道」を
演じるように心掛けました。
(クロースアップショー60分×1回、ステージショー45分×2回)
王道とは言っても、あくまでも私の中の基準であり、他のマジシャンから
見れば邪道かもしれませんが…。
現在よく目にするステージショーの王道は、ボールアラマ、フローティング
テーブル、ドライカップ、スノー…確かに優れたマジックなのですが、正直、
ショーを見慣れた観客やステージクルーにしてみれば、誰が来ても似たような
出し物というのは少々うんざりといったところではないでしょうか。

かつて何度か演じた空間なので、構成する際にはっきりとイメージできた
せいか、現時点では理想通りのショーをやれたのではないかと思っています。
(鳥達もその役割をパーフェクトにこなしてくれました)
とにかく色々と勉強になったり、確信を得たりと有意義なクルーズでした。

多くのマジシャンが経験していることと思いますが、奇をてらった演出を
したばっかりに、はずす…ということがよくあるものです。
一般客に対して、ある程度過大に自分なりの考えを理解してくれると期待
していると大きな間違いなわけで…。特に言葉を用いないサイレントアクト
の場合は、普通に理解しやすいストレートな現象でないと、観客に過剰な
負担とストレスを強いることになってしまいます。

私も過去、様々な出し物や演出を試みてきましたが、今後はもう肩に力を
入れずに普通にやってみようかなと…普通にやることで実力がばれるし、
もう実力がばれてもいいかなと…。

一般人から見れば、「マジシャン」という一括りの職業かもしれませんが、
その生き方や考え方は十人十色です。
どんなに過去のコンテストの実績をひけらかそうが、どんなにコンベンション
のゲストに招かれようが、やはり実戦の場において圧倒的に支持されて、
納得のいく報酬を受け取って、一定水準以上の余裕のある生活ができて
いなければ、一般人から見る限りプロとして成功しているとは言えないの
ではないでしょうか。「世界的な云々…」とアピールしても、それこそ一般人
にとってはマニアだけの特殊な世界であり、決して王道とは言えません。
特殊な世界のみで認められて満足している者ほど、実際の生活には窮して
いる場合も多く、マジシャンという職業のステータスを上げることに貢献して
いるとはとても思えません。

王道を軽視することなく、それをやった上で独自の演出を加味したり、他に
考えなければならないことがたくさんあるわけですよ、やっぱり。

いざ自分が客の立場になったら、レストランのシェフにはマニアックな変な
料理よりも旨い料理を望んでしまうし、人生の最後には、奇をてらった名前
も知らない料理よりも、王道を一口でも食べられたら幸せなはずですから。

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