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鳥の話 17

ここを読んでおられるマジシャンで、海外のコンベンションを飛び回って
活躍したいと夢見ている方がおられるならば、「調教したインコ・オウム」
が必要な手順は組むべきではありません。(単に鳩を出すだけならば、
現地のマジシャンから借りることも可能でしょうが…。)

1993年は、「マジシャン」としてと言うよりも「バードマジシャン」
としてのある方向性を決意した年でした。
「営業ズレ」し始めている自分に喝を入れるために、久しぶりに海外の
コンテストに挑戦しようと思い始めたところに、マリック氏の勧めもあり、
翌年のドイツ・マジックハンズの大会への出演を計画していました。
マリック氏と共に和洋折衷の手順を構成し、BGMも決めて衣装や道具
の製作を始めた矢先に立ちはだかった壁は、鳥の出入国手続きの問題
でした。
ワシントン条約でその輸出入が厳しく規制されているため、その手続き
の煩雑さたるや想像を絶するもので、多くの役所のたらい回しでした。
保健所に始まり、税関、通産省、農水省…電話に出た担当者にとっても、
ペット業者が輸入するのではなく、飼い主と一緒に出国して帰国すると
いうケースは初めてのことなので、なかなか事が運びません。
KDDIの電話通訳を介して、ドイツの役人との交渉…鳥の正式な学名を
調べて提出…正規のルートで入手した鳥であると証明するための書類
…日本からの出国だけでこの煩雑さです。
さらにドイツへの入国と出国、日本への入国手続きが必要です。
ドイツの役所からは、無条件で3羽までならOKという返事をもらえたの
ですが、最終的に日本の役人が出した回答は、すんなりと出国できるか
どうかは保証できないというありさまで、結局断念せざる得ませんでした。
(今でも渡り鳥が飛来したというニュースを見ると、自由でいいなあと
複雑な気持ちになります。)
この出来事がきっかけで、海外のステージに立つという意欲は急激に
萎えて行きました。

しかし、法律の壁はポジティブに考えればいいのです。
私が鳥を持って出国するのが困難ならば、海外のマジシャンが日本に
鳥を持ち込むのも困難です。
国内において「バードマジシャン」としての立場を確立すれば、その分野
では独壇場になる…法律に邪魔されたけど、逆に立場は守ってくれる。
…そう開き直ったわけです。

以前、品川プリンスホテルのクラブeXに出演したジェイソン・バーンや
ジョセフは、バードアクトが売りであるのに演じることはできなかったし、
コンベンションのゲストとして来日したディメールは、日本で借りた鳩で
ダブアクトを演じましたが、当然本来の出来ではなかったようです。

近年はワシントン条約の他にも、SARDSや鳥インフルエンザの問題も
あってか、ますます鳥の移動は難しくなっていますし、営業面においても
食事中に動物や火気を使用することを嫌がるホテルも増えつつあるなど、
クライアントサイドから、あえてリクエストされるくらいのインパクトのある
アクトを作らない限り、動物を使ったマジックを演じることができる機会は
ますます減って行くことでしょう。

国内での出演に特化することを決めた私は、鳩、孔雀鳩、小型から大型
までのインコ・オウムと、さらに多くの鳥を集めてバードマジックの研究に
没頭して行きました…つづく。

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