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鳥の話 15

以前にも述べましたが、私が大型インコ・オウムを飼い始めた頃は、慣れ
そうな鳥を選べる状況ではありませんでした。
稀少動物保護のワシントン条約の規定が厳しくなる前に輸入された老鳥も
多く、当時飼っていたスカーレットマコウ(3色コンゴウインコ)などは、
10年以上もペットショップで飼われていた鳥で、自分が飛べる動物である
ことさえ忘れているほどでした。
1993年前後は、とにかく素質の良い鳥に出会うために、多くの鳥を飼い
続けました。(仕方なく手放したり不幸にも亡くなってしまったりと、つら
い別れも多く経験しました。)

どんなに調教しても(そもそも調教の仕方が分からなかったのですが)、
飛んで戻って来るどころか、出現させるだけで精一杯で、ショーの度に噛み
付かれてしょっちゅう流血していました。(現在でもテレビ出演の映像を確認
すると指の絆創膏がはっきり確認できることがありますが、これは出番直前
に噛み付かれた証拠です。)

当時は10数分のアクトの中で、鳩6羽、タイハクオウム、ルリコンゴウイ
ンコ、ベニコンゴウインコ、ハルクインコンゴウインコを出していました。
飛ばして戻って来るのはまだ鳩だけでしたが、クライマックスに大型鳥が
立て続けに出現すると、もの凄い歓声が上がります。
こうなると最も注意しなければならない「営業ズレ」の気持ちが生じます。
「出すだけでもこれだけウケるんだから、飛ばさなくてもいいんじゃないか。
墜落して迷惑をかけて仕事が減る危険性もあるし…」と、調教を諦めようと
している自分を正当化してしまうのです。

そんなある日、マリック氏が福岡に来られました。仕事の合間を利用して
私の自宅に遊びに来てくださいました。
以下はマリック氏をバードルームに案内した時の会話です。

マリック氏 「うわぁ! 凄い鳥達だねぇ。こんなのが出て来たらウケる
でしょ?」

私 「もちろん! いつもかなりウケてますよ。」(自慢げに)

マリック氏 「こんな凄い鳥達を出せば誰だってウケるよ。その歓声や拍手
はあなたに対してではなく、鳥に対してだからね。それを忘れたらダメだよ。
単に出すだけではなく、自由自在に操れるようになった時に、観客は初めて
あなたを賞賛するんだよ。」

私 「……。」

確かに出すだけならば、それは超豪華なクス玉に過ぎないのかもしれません。
妥協してグラグラになって落ちかけていた皿回しの皿が、マリック氏の言葉
によって、再び勢いよく回り始めました。

飛ばしたコンゴウインコが初めて戻って来たのは、それから1年後でした…
つづく。

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