必要なもの
「手が器用でないとマジシャンにはなれないんでしょ?」…とよく聞かれ
ます。確かにそれに越したことはありませんが、「手」よりも「生き方」が
器用な方が得な気もします。
マジシャンにとって最も必要なものは何でしょう…センス?ルックス?運?
人脈?…意見は様々あることでしょう。
マジシャンという職業は自由業です。自由であるならば、最も必要なのは
「自己管理能力」ではないだろうかと常々感じています。
所属する芸能プロの戦略のもと、アイドルが本来の自分を封印してまで
虚像を演じるのと違い、多くのマジシャンは自分でレパートリーを決め、
選曲し、好みの衣装をまとい、己の言葉で話しているという現実から考え
れば、普段の生き様(コピーならばコピーなりの)がストレートに見えて
しまう職業だと思います。
主な職場が毎日のように通うバーやマジックショップならば、どちらかと
いうとサラリーマンに近いのでしょうが、レギュラー出演もしていないフリー
のマジシャンがショーをせずに何日も自宅で過ごしていると、一般人から
見ると「暇」だと思われます。(実際に暇なのかもしれませんが…)
自由業なので、今日一日を暇にしようと思えばそうなるし、遊びや食事に
誘われやすくなりがちですが、本当の仕事は他人が見ていない時に行わ
れるものです。家に居なければならないから居ることも多いわけです。
アスリートは、その自己管理能力でしっかりとトレーニングを積んで試合
に臨むものです。人目の届かない場所でトレーニングをしているのに、
試合に出ていない時は暇なのだと思われるのは心外でしょう。
試合の結果を見せつけることが、ちゃんと仕事をしていたことの証しです。
マジシャンの場合も、普段の生き様が演技から透けて見えるものです。
観客の前で30分演じるというのは、普段の努力をたった30分で証明しな
ければならないことでもあるのです。
映画に例えると大げさですが、自宅での練習・動物の調教や手順構成作業は
映画の撮影や編集作業であり、ショーそのものは完成した映画を上映して
いるようなものかもしれません。
そう考えるからこそ、良いショーを見せるためには、普段の自分を律する
自己管理能力が最も必要なものだと思えてならないのです。
何度もマリック氏の自宅にお邪魔したことがありますが、氏の自室に入る
度に、ここで魔法が創られているんだなあと感じたものです。(テレビの
収録時間よりもはるかに長い時間ここで働いているはずです。)
自由業の意味をはき違えると、時間にもお金にもルーズな荒んだ生活を
送ることになってしまいます。
強烈な問題意識は、強烈な緊張の中からしか生まれません。
薄汚れたカップから、古くしぼんだレモンがコロッと出て来ると、その人
の生き様そのものがコロッと出て来た気がします。
.
| 固定リンク
最近のコメント