鳥の話 7
鳩が戻って来るにはどんな照明がベストなのでしょう?…私の結論から
言うならば、「特定の照明でないと戻って来ないような調教はするな!」
周囲を暗くして、1本のスポットライトでマジシャンのみを照らす…私も
ずっとそれがベストだと思い、部屋の壁にスポットライトを設置して調教
していました。この方法は、周囲を暗くしておけば明るい方向に飛んで
来るだろうという希望的観測であると同時に、マジシャン以外を鳩に見え
ないようにして、仕方なく戻るように仕向けるネガティブなやり方です。
問題はその方法で戻るようになったとしても、演じる会場がいつもその
ような都合の良い照明が可能なのかどうかということです。
特にゴールデンタイムのテレビ出演の際など、大物タレントならともかく、
私のような無名のマジシャンが一瞬の鳥の芸のために照明をああしろ
こうしろとか、あのセットをどけろなどと命令出来る立場ではありません。
調教は明るい昼間にカーテンを全開した部屋で行うべきなのです。
たとえ部屋の中にとまりやすい障害物があろうが、まず飼い主を見つけて
戻って来るようなポジティブな調教をすれば、環境や照明設備が良くない
会場や、きらびやかなテレビスタジオでも成功率は高くなります。
そもそもピンスポットからはずれた鳥は暗闇を飛ぶことになります。
戻って来させることを最優先させて、せっかく飛んでいる鳥を客から見え
づらくするなど本末転倒です。特に現在の私は、極彩色のインコやオウム
を飛ばす以上、その美しい色がはっきり見えないと効果は半減します。
従って、私は打ち合わせの段階で、飛ばす際の客席の照明は出来るだけ
明るくするようにお願いしています。
ラスベガスのスターマジシャンであるランス・バートンは、20歳そこそこの
若さで画期的な鳩出しを披露しました。そのテクニックや芸術性もさること
ながら、同業者のダブアクターが最も驚いたのは…「アシスタントいらず」。
これまではマジシャンが出した鳩を、女性アシスタントが受け取る、または
マジシャン自身で鳥かごに入れたり止まり木に置いたりするのが常識でした。
特にマジシャンが自分で鳥かごに入れたりする行為は、なんとなく間が悪く、
演技の流れを中断する感じが否めません。
ところがランスは、鳩が自ら止まり木に飛んで行くという調教によって、間の
悪い部分をも拍手がとれる「演技」に変えてしまったのです。
1986年、私は調教した鳩を携えて、アメリカ・ロングビーチで開催された
IBM世界大会のコンテストにチャレンジしました。この時の演技については
以前の考察「マジックとリアリティー」において述べていますので、ここでは
割愛しますが、この大会で印象に残った2人のマジシャンを紹介しましょう。
1人目はミッチ・ウイリアムス…私と同じくコンテスタントで、楽屋が初対面
でした。空手家の故アンディ・フグを彷彿させる風貌で、毎朝ランニングを
するなど、ストイックなイメージも重なります。演技も彼らしいストイックで
繊細なものでした。7分の手順の中に近代5種目(鳩・ビリヤードボール・
カード・リンキングリング・ゾンビボール)を全て取り入れ、そのいずれもが
見たこともない技法で展開されていきます。ただ、ここ一番の重要な場面で
大きなミスをする傾向があり、常に優勝候補と言われながらの無冠の帝王
でした。1988年FISMオランダ・ハーグ大会では完璧な演技でスタンディン
グオベーションを得たのにも関らず賞を獲れなかったのは、客席で応援して
いた私にとっても残念でした。FISMでは1982年にランス・バートンが優勝
しているために、鳩出しをやるマジシャンにとってはランスレベルの演技で
なければ優勝には値しないという雰囲気が定着すると、今後は鳩出しでは
優勝者は出ないのではないかと囁かれたものでした。
現に今日に至るまで、鳩出しのマジシャンは優勝していないはずです。
印象に残った2人目は、島田晴夫、ジョニー・ハートと並んで、私のバード
マジシャンとしての人生の原点となったジョセフ・ガブリエルです…つづく。
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