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2009年5月

鳥の話 9

1986年アメリカから帰国すると、仕事としての出演依頼がポツリポツリ
と舞い込むようになりました。特に売り込んだわけではなかったのですが、
知人の結婚披露宴や大学の教授から依頼された学会の懇親会等で演じて
いるうちに、次第に芸能プロダクションやホテルの担当者に知られるように
なったものと思われます。

しかし、仕事の依頼は30〜40分程度のショーがほとんどです。
ずっとコンテストを対象に作ってきた演技時間は、10分にも届きません。
不慣れなトークマジックや、それまでは興味すらなかったタイプのマジック
にも手を付けなければ30分はもちません。それゆえオープニングに鳩を
演じた後は尻すぼみなっていく始末。お客様に楽しんで頂こうという余裕
は無く、なんとか30分もたせようという後ろ向きなショーばかりしていた
ような気がします。それでも世の中はバブルに向かっていたこともあり、
出演依頼は増える一方で、家庭教師のアルバイトをしていた同級生とは
比較にならないほどの収入を得る月もありました。

こういう時に注意しなければならないのは「営業ズレ」です。
楽して稼げればそれでいいと思うと、鳩の調教もおろそかになり、失敗
するよりはマシとばかりにお手軽な方法を選ぶようになります。
コンプライアンス上、鳩が出せない環境でない限りは、流されないように
自分で納得できる鳩出しをやるように心がけていました。
まだまだやりたいことがあったので、このままズルズルと営業マジシャン
になるわけにはいかなかったのです。お金が絡んで営業でウケることが
最優先の生き方に慣れてしまうと、こだわりの演技のために心のエンジン
をかけてモチベーションを高めるには、かなりのエネルギーを要します。

学生セミプロマジシャンとしてある程度のお金が貯まると、またムクムク
と病気が頭をもたげます…オウムを飼いたい…しかし、以前にオウム
(キバタン)で懲りている私が、その代わりに飼ったのは…ふくろう。
大きさもオウムとほぼ同じで、たまにホ〜と鳴く程度なので集合住宅でも
問題ありませんでした。思ったほど凶暴ではなく(慣れていない大型の
インコやオウムの方がよほど危険です。)、扱いやすかったのですが、
なにしろ肉食の猛禽類なのでエサが大変でした。毎日生肉を食べさせ、
たまに大学の薬理学教室から実験で余ったマウスをもらってくることも
ありました。アクトのクライマックスで出現させたりしていたのですが、
全身が茶系の保護色なので、インコやオウムと比較すると鮮やかさや
高級感で劣るのは否めません。しかし、大型鳥のハーネスを研究する
機会ができたことは決して無駄ではありませんでした。
その後、大きさではふくろうには劣るものの、扱いやすい孔雀鳩を2羽
手に入れて次のステップへと進んで行くことになります。(孔雀鳩は
一般的にマジックで使用される銀鳩の2〜3倍の大きさで、尾羽根が
孔雀のように広がっています。)

孔雀鳩といえば、絶対に触れておかねばならないマジシャンがいます…
ダーク・アーサー。 初めて見たのは1981年PCAMロサンゼルス大会
の模様がNHKで放送された時です。
色鮮やかに染められた孔雀鳩を、ベアハンドで立て続けに4羽出現させ、
コーン状に丸めたスティール板から溢れるように10羽以上出現させた
のです。さらにセキセイインコ、チャボ、アヒルと続き、アヒルが巨大な
ダチョウに変化するという、とんでもなくパワフルなバードアクトでした。
その後はテレビやコンベンションでも見かけることはなかったのですが、
1995年バハマのホテルで出演しているとの情報が入ったので、すぐに
バハマまで飛びました。(福岡→関空→ロサンゼルス→シカゴ→マイアミ
→バハマと乗り継いで36時間もかかってしまいました。着いた時には
少し髭が伸びていましたね)
初めて見てから14年が経ち、その演技内容は虎やヘリコプターを出現
させるなど、すっかりイリュージョニストに変貌していましたが、コーン
からの孔雀鳩の出現は演じ続けていたので嬉しかった記憶があります。
近年はラスベガスの様々なホテルに不定期で出演中です。

1986年末、孔雀鳩を手に入れた私は、翌年のコンテストに向けて
新たなアクトを作り始めました…つづく。

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分類に意味はあるのか!?

航空機の中で乗客の容体が悪くなり、「お客様でお医者様はいらっしゃい
ませんか?」と機内アナウンスが流れるシーンをドラマ等で観たことがある
でしょう。(私は実際にこのような場面に、過去4度も遭遇しました。)
この場合は○○科とかの専門性は関係無く、「医者」という一括りで認識
されているわけです。

マジックの世界においては、「クロースアップ」や「イリュージョン」等
の単語の認知度が以前よりは高まったとはいえ、まだまだ一般に広く認識
されているわけではありません。
銀座のクラブでテーブルホッピングの仕事をしていた頃、酔客から時々
「今パッと鳩出せる?」とか「この女のコを浮かせてよ」などと言われた
ものです。これも客サイドにはクロースアップやステージ等の分類という
ものは無く、「マジシャン」という一括りの認識でしかない証拠でしょう。
このような分類は、あくまでマジシャンサイドの都合なのですから。

医者の世界でも専門分野は、かなり細分化されています。
内科、外科、精神科、眼科…。内科の中でもさらに呼吸器科、循環器科、
消化器科…。
どちらの世界も、1人の人間が全ての分野をマスターするのは不可能に近い
ですから、どこかで線を引いてスペシャリストにならざる得ないのではない
でしょうか。(しかし過疎地においては、1人の医者がほとんどの症状に対応
している実態を考えると、マジシャンに例えるならば、何でもこなす偉大な
ジェネラリストと言えるかも知れません。…実はこれが私の目標です。)

ここで少し脱線。
このようにマジシャンと医者の世界は似てるなあと思っていたのですが、
全く違うことに気付いたのです。(単に気付いただけで、それがどうした
程度のことですから。)
医学の世界は人体における疾病が対象であって、スケールで分類している
わけではないのです。つまり「クロースアップからイリュージョンまで」と
「赤ちゃんからお年寄りまで」は全く違うということです。
ですから無理矢理合致させるとしたら、メンタルマジックと精神科とか、
マニピュレーションと外科、催眠術と麻酔科という感じになるのでしょうか。
(ホントにどうでもいいことですよね。)ということは、スケールとは関係
無く「現象のスペシャリスト」がいたら面白いかも…コインにタバコを通し
たと思ったら、本人が鏡を通り抜けて去って行く貫通のスペシャリストとか、
客の指輪を浮かせたと思ったら、自身も浮いているという浮揚のスペシャリ
ストとか…はい、脱線終了。

とにかくマジックにおいて、現象による分類はともかく、スケールによる
分類は必要なのでしょうか?
1988年のFISMでは、初めてクロースアップ部門からグランプリウィナー
が誕生しました。ウィナーのジョニーエース・パーマーがカップ&ボール
でヒヨコを出し、最後に鳩を出して分裂まで演じたことに対して、いくら
なんでもクロースアップで鳩を出すなんてという非難の声は、会場にいた
私にも聞こえてきました。それならば、クロースアップでは動物厳禁とか
何センチ×何センチ以上の道具は不可とかのルールを明確にするべきでは
ないでしょうか。

マリック氏は言っています…「テレビの世界では、スケールで分類する
なんて全く意味が無いんだよ。イリュージョンがアップで映った時など
視聴者は、その会場の最前列の客よりも近くで観ていることになるんだ
から。最前列の客には見えないはずのイリュージョンの傷や、ペンキが
剥がれた痕まで見えるんだから。もはやクロースアップだよね。客から
2メートルの距離でバレるような出し物は、テレビでは絶対にやっては
いけないよ。」

今から20年近く前になるでしょうか…私とマリック氏の会話です。

私 「僕が最も凄いと思うマジシャンは、クロースアップではMr.マリック
  ステージならジョセフですねえ。」
Mr.マリック「ふ〜ん。俺ステージもやってるんだけど。」
私 「……。」(あちゃ〜、やっちまった。)


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鳥の話 8

ジョセフ・ガブリエル…1986年IBMロングビーチ大会のゲストとして登場
しました。当時すでに、ラスベガス・スターダストホテルのレギュラーマジ
シャン(後にフラミンゴヒルトンに移籍し、1997年にはブロードウェイに
進出)であり、超有名番組「ザ・トゥナイトショー」に数度出演を果たすなど
の成功をおさめており、聞いた話では、コンベンションにはそれほど興味が
無く、このようなゲスト出演は最初で最後ではないかと言われていました。
(2016年IBMサンアントニオ大会のガラショーに久しぶりに出演したよう
です)

確かにそうですよね。コンベンションにプロが出演するのは、そこでの優勝や
ゲスト出演した実績を利用して、次の良い仕事を得るのが最大の目的である
以上(ラスベガスのレギュラー出演はある意味ゴールですが、コンベンション
のゲスト出演を繰り返すことは上がりの無いスゴロクのようなものです。)、
すでに成功しているマジシャンにとっては、わざわざギャラの安いコンベン
ションに出ることに魅力を感じるわけがありません。
マニアの前でウケるのが生き甲斐だったり、ディーラーとして出店することに
メリットがあるという理由の人も多いようですが…まあ人それぞれでしょうが
一般人に知られることもなく、世界チャンピオンだと言い張り続ける人生も
どうなのかなと…。
ですからデビット・カパーフィールドやランス・バートン、日本においては
Mr.マリックのように、真の意味で成功したマジシャンがコンベンションで
演技することはほとんどありません。(出演しないことが成功の証しかも)

イギリスのトップマジシャン、ポール・ダニエルズの紹介でジョセフが登場
しました。目が覚めるような鳩のベアハンドプロダクションの連続、合わせた
両手の間から湧き出るように現れるセキセイインコ達…最後は2羽の巨大な
コンゴウインコの出現。1羽は会場を旋回した後、手元には戻りませんでした
が、嵐のようなスタンディングオベーションでした。(今でもこの映像を観
ると涙腺が緩みますね)

ここでベアハンドプロダクションについての考察です。(以下ベアと表記)
一般的な鳩出しのイメージは、ハットやシルクからもぞもぞと出て来る感じ
ですが、ベアは、一瞬にして手元やステッキやファンカードの上などに出現
させたり、鳩を分裂させる際に用いられる方法です。
しかしあざやかな反面、ばれやすい危険性をはらんでいます。
シルクから出現させる手法では、ロードして手元に到達するまでの過程は、
よほど下手な動きをしない限り、客の目に触れることはありません。
ベアの場合は白い大きな物体が一瞬とは言え、A地点からB地点へ移動
するのですから、その軌道がはっきり見えてしまう可能性が高いのです。
とにかくジョセフほどのスキルがあれば別ですが、多用するのはお勧めしま
せん。5〜6羽の鳩の手順の中で1〜2回程度アクセントとして演じるのが
ベストでしょう。
稚拙なテクニックのマジシャンが演じた場合、ネタバレの危険性の他にも鳩
の命を危険に晒してしまうのです。実際にそういう失敗をしたマジシャンを
知っていますが、ジャリが鳩の首や足に絡んだことに気づかずに一瞬で引っ
張り出せば、その残酷な結末は想像がつくでしょう。

ここでワンポイントアドバイス…1羽の鳩に、戻って来たり、ベアでステッキ
にとめたりと、多くの役割を求めてはいけません。「この鳩にはこの役割」
と固定すべきです。ベアで使用する鳩には、飛び立たない調教をします。
ある程度羽根を間引いた後に指にとめて、すばやく上下左右に動かしても、
しっかりと指を掴んで飛ばないようになるまで慣らします。
ベアでは一瞬で出現して目的物に安定してとまるために、握力を強化する
必要があります。日頃から止まり木の太さを指よりもやや細めにして飼う
ようにすれば握力は次第に強くなり、指にとめた時にそれを実感できるよ
うになります。鳥かごの中や移動用のキャリーの中に止まり木を設置せずに
地べたを歩かせる飼い方などはもってのほかです。物が掴めないベタ足に
なる上、糞で足や尾羽根が汚れます。
また鳩によってはベア用のハーネスを装着した途端にへたへたと座り込む
タイプもいますが、これはベアには向いていませんので避けましょう。

さあ、刺激を受けたアメリカから帰国、学生セミプロマジシャンとしての活動
が始まります…つづく。

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鳥の話 7

鳩が戻って来るにはどんな照明がベストなのでしょう?…私の結論から
言うならば、「特定の照明でないと戻って来ないような調教はするな!」

周囲を暗くして、1本のスポットライトでマジシャンのみを照らす…私も
ずっとそれがベストだと思い、部屋の壁にスポットライトを設置して調教
していました。この方法は、周囲を暗くしておけば明るい方向に飛んで
来るだろうという希望的観測であると同時に、マジシャン以外を鳩に見え
ないようにして、仕方なく戻るように仕向けるネガティブなやり方です。

問題はその方法で戻るようになったとしても、演じる会場がいつもその
ような都合の良い照明が可能なのかどうかということです。
特にゴールデンタイムのテレビ出演の際など、大物タレントならともかく、
私のような無名のマジシャンが一瞬の鳥の芸のために照明をああしろ
こうしろとか、あのセットをどけろなどと命令出来る立場ではありません。
調教は明るい昼間にカーテンを全開した部屋で行うべきなのです。
たとえ部屋の中にとまりやすい障害物があろうが、まず飼い主を見つけて
戻って来るようなポジティブな調教をすれば、環境や照明設備が良くない
会場や、きらびやかなテレビスタジオでも成功率は高くなります。

そもそもピンスポットからはずれた鳥は暗闇を飛ぶことになります。
戻って来させることを最優先させて、せっかく飛んでいる鳥を客から見え
づらくするなど本末転倒です。特に現在の私は、極彩色のインコやオウム
を飛ばす以上、その美しい色がはっきり見えないと効果は半減します。
従って、私は打ち合わせの段階で、飛ばす際の客席の照明は出来るだけ
明るくするようにお願いしています。

ラスベガスのスターマジシャンであるランス・バートンは、20歳そこそこの
若さで画期的な鳩出しを披露しました。そのテクニックや芸術性もさること
ながら、同業者のダブアクターが最も驚いたのは…「アシスタントいらず」。
これまではマジシャンが出した鳩を、女性アシスタントが受け取る、または
マジシャン自身で鳥かごに入れたり止まり木に置いたりするのが常識でした。
特にマジシャンが自分で鳥かごに入れたりする行為は、なんとなく間が悪く、
演技の流れを中断する感じが否めません。
ところがランスは、鳩が自ら止まり木に飛んで行くという調教によって、間の
悪い部分をも拍手がとれる「演技」に変えてしまったのです。

1986年、私は調教した鳩を携えて、アメリカ・ロングビーチで開催された
IBM世界大会のコンテストにチャレンジしました。この時の演技については
以前の考察「マジックとリアリティー」において述べていますので、ここでは
割愛しますが、この大会で印象に残った2人のマジシャンを紹介しましょう。

1人目はミッチ・ウイリアムス…私と同じくコンテスタントで、楽屋が初対面
でした。空手家の故アンディ・フグを彷彿させる風貌で、毎朝ランニングを
するなど、ストイックなイメージも重なります。演技も彼らしいストイックで
繊細なものでした。7分の手順の中に近代5種目(鳩・ビリヤードボール・
カード・リンキングリング・ゾンビボール)を全て取り入れ、そのいずれもが
見たこともない技法で展開されていきます。ただ、ここ一番の重要な場面で
大きなミスをする傾向があり、常に優勝候補と言われながらの無冠の帝王
でした。1988年FISMオランダ・ハーグ大会では完璧な演技でスタンディン
グオベーションを得たのにも関らず賞を獲れなかったのは、客席で応援して
いた私にとっても残念でした。FISMでは1982年にランス・バートンが優勝
しているために、鳩出しをやるマジシャンにとってはランスレベルの演技で
なければ優勝には値しないという雰囲気が定着すると、今後は鳩出しでは
優勝者は出ないのではないかと囁かれたものでした。
現に今日に至るまで、鳩出しのマジシャンは優勝していないはずです。

印象に残った2人目は、島田晴夫、ジョニー・ハートと並んで、私のバード
マジシャンとしての人生の原点となったジョセフ・ガブリエルです…つづく。

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