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鳥の話 3

ビデオデッキが設置されたことは、高校受験合格に匹敵する喜びでした。
手当たり次第にマジックを録画したかったのですが、物事はそう甘くは
ありません…当時のビデオテープは1本が2千円程度だったと記憶して
います。家族1人に1本しか支給されませんでしたが、大学受験でテレビ
を観る暇もない姉から譲ってもらうなどしながら、着々と資料映像は増え
ていきました。

今でも民放が2つしか映らない地方なので、「笑点」や「ひるのプレゼント」
(近年の金曜バラエティーの枠)に登場するマジシャンの鳩出しは貴重な
映像でした。1979年からでしょうか、NHKが「世界のマジックショー」
というタイトルで海外のコンベンションの模様を毎年放送するようになりま
した。これによりプロ・アマ問わず全国のマジシャンが多大な恩恵を享受した
ことでしょう。それからは海外のマジシャンはもちろんのこと、島田晴夫氏、
渚晴彦氏、ジャック武田氏、故引田天功氏等の鳩出しの映像を何度繰り返し
観たことか。

思えば私くらいの年齢のマジシャンが、資料の無い不便さを味わった最後の
世代であると同時に、お手軽にビデオで研究を始めた最初の世代なのかも
知れません。私より上の世代のマジシャンの鳩出しからは、手順そのものは
チャニング・ポロックの影響を受けていても、独自のタッチや雰囲気を醸し
出すセンスやエネルギーを感じます。

入学した高校では、年に2回ほどステージマジックを披露する機会があり
ました。9月の文化祭と2月の予餞会(卒業生を送り出すイベント)です。
入学後、文化祭に間に合うように鳩出しを練習していましたが、落とし穴
があります。カードマジックの場合は技法を修得してもそれだけではマジッ
クとしては成立しづらいので何かのカードマジックの中で使用して活かす
のですが、鳩出しの場合はテクニックの練習のみで「現象」が成立してしま
うために、「演技」までは思いが至らないのです。

この夏、ホテルオークラで日本テレビ開局25周年記念「世界奇術大賞」が
開催されました。島田晴夫、リチャード・ロス、スライディニー等のスーパー
スターが集う大会だったので、親を拝み倒して参加させてもらいました。
後に同じ高校のOBだと判明する酒匂正文氏のファイヤーアクトも、この大会
で初めて見たのでした。とにかく世界の一流マジシャンの演技を生で見た
出来事は、16歳の私にとっては刺激が強過ぎました。もう頭の中は混乱し、
とても9月の文化祭までに手順を固めるのは不可能で出演を断念、安易な
「演技」をしようとしていたハードルの低い自分に嫌悪感を抱きながら、高校
でのデビューは翌年2月の予餞会にずれ込みました。島田晴夫、酒匂正文、
リチャード・ロスの3氏のコスプレで明け暮れた3年間でした。

今振り返っても、レベルの高いマジシャンに憧れたことは、その後の人生に
とって本当に良かったと思います。なにしろ高校時代にフィクルファイヤー、
ウォッチプロダクション、両手ミリオンカード、鳩の2羽消しやベアハンド
プロダクション等を人前で演じることを、出来はどうあれ一応は経験したの
ですから…(今でも多くの若手マジシャン達を見ていると、誰に憧れたかで
人生って結構左右されるんだなあと感じます。)

ただ、高校の3年間で最もやりたくて実現出来なかった現象がありました。
それは島田氏のオープニングエフェクト…鳩を飛ばして手元に戻って来る
演技です。どうすればあんなことが出来るのでしょう。(高校時代にこれを
実現出来なかったコンプレックスが、今でも鳥の調教にこだわる原動力に
なっているのかも知れません。)

さあ、諦めずに調教を続けようと思った矢先に卒業…全ての鳩を手放すこと
になりました…つづく。

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