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戦略と戦術

「戦略のミスは戦術ではカバー出来ない。」…初めて聞いた時にこれほど
印象に残ったフレーズはありませんでした。かつて物議を醸した戸塚ヨット
スクールの校長が、自分の教育方針の正当性を語る際に使っていたことで
私は記憶しています。最近では軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が好んで
使っています。

マジシャンである私がこのフレーズにこだわる理由は、ショーの場を戦場と
考えれば、そのまま当てはまるからです。若かりし頃、テーブルホッピング
の仕事でカードマジックを演じると、酔客から様々な嫌がらせや絡まれ方を
されたものです。引いたカードを返してもらえなかったり、突然カードを奪
われてメチャクチャにシャフルされたり…。
これは酔客が悪いのではなく、私の戦略ミスだったのです。
そもそも絡みそうな酔客に対して絡まれやすいカードマジックを選択した
こと自体が戦略ミスなのです。つまり引いたカードを覚えることも出来ない
ような酔っぱらいにカードマジックを演じようとすること(戦略)がミスで
あり、そこで世界一のカードテクニックを見せた(戦術)としても何の意味も
価値もありません。

医師の世界で例えれば、耐性菌に対して無力な抗生物質を延々と投与して
いるようなものです。焼き鳥屋で上司の悪口を言ってストレス発散している
サラリーマン達に名刺を配りまくって、良い仕事のオファーが得られるとは
思えません。

以前の考察でマリック氏の「何を演じるかを決めた時点で、もうそのショー
が上手くいくかどうかは決まっている」という言葉を紹介しましたが、まさに
このことを意味しているのです。
だからこそ仕事を引き受けた際の情報収集と構成(戦略)が重要なのです。
現場に着いて初めて360度から見られるステージだと知っても、もう遅いの
です。そこで自慢のカードマニピュレーションを演じても辛いのは言うまでも
ありません。(戦術ではカバー出来ない)

Aという素晴らしいマジシャンの演技をBという二流マジシャンがコピーしても
そこそこウケるのは、その手順(戦略)が素晴らしいからに他なりません。
逆にBが作った手順をAが演じたとしても…無論、技術(戦術)でカバーしきれ
ないのは明白です。(レシピ自体がマズイ料理なのですから。)

戦術を徹底的に排除して戦略のみで勝利を手にした代表例はカップ麺ではない
でしょうか。(だって戦術はお湯を注ぐだけなのですから。)

ここで今回の考察とはあまり関係無いかも知れませんが、面白いエピソードを
二つ紹介します。

[エピソード1]
他人の演じたマジックやBGMをすぐにマネしたがるナイト系(ホストくずれ)
のマジシャンがいるのですが、数年前、彼のショーを観た時の出来事です。
演技の途中、私が客席にいることに気が付いた彼は、突然あるマジックの
動作を中断したのです。以前から彼は私のショーをこっそり観に来ていたのは
知っていたので(記録ビデオを観ると、ショーの終わりと同時にそそくさと逃
げる彼の姿がいつも写っているのです。)、さあ堂々とコピーするのかなと
思っていたら、突然の中断には驚きました。コピー元が客席にいたら止める
なんて、開き直る覚悟も無いのかと少しガッカリしたものです。これは戦略
とか戦術とは関係無く、敵前逃亡と言えるでしょう。でも突然の中断によって
慌てた女性アシスタントがいじらしかったので良しとしましょう。

[エピソード2]
あるマジシャンが刑務所で慰問公演をした時の出来事です。そのマジシャン
は受刑者をステージに上げて、なんとギロチンマジックを演じたそうです。
こうなると戦略も戦術もあったもんじゃありませんな。

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