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鳥の話 1

以前から鳥についての考察を書いてほしいとのリクエストがあるのですが、
なにしろ30年以上もバードマジックを演じている(内容は大きく変遷して
います。)ので、考察と言っても、自分の歴史であったり、想いであったり、
若手へのアドバイスになったりと脱線しながらになるかも知れませんが、
出来るだけ面白い読み物を書こうという心構えで、何回かに分けて述べて
みようと思います。(一般の方には分からないであろうコアな単語や人名が
出て来るかも知れないことをご了承下さい。)

各々のマジシャンが本格的にマジックにハマった理由は様々でしょうが、
ブームの影響だったり、特定の誰かに憧れたりする場合が多いのではないで
しょうか。近年のクロースアップブームでアンビシャスカードに代表される
カードマジックやストリートマジックが流行ったように、平成初期のマリック
ブームの時は、それこそ猫も杓子も袖を捲り上げてスプーン曲げやシガー
スルーコインを演じていたものです。(古い映像を観ると、えっ、この人も
便乗しているのというくらいのブームでした。)

私が本格的にマジックに取り組み始めた中学時代(主にダンシングケーン、
ビリヤードボール、ゾンビボール等を演じていました。)、チャンネル数が
少ない田舎に住んでいたせいか、巷間言われたほどユリ・ゲラーのスプーン
曲げや、故初代引田天功の脱出や催眠術のブームを体感した記憶はありま
せん。それよりも当時のテレビにおけるマジックは、一部のコメディマジ
シャンを除くと、ほとんどがBGMに乗って演じるサイレントアクトでした。

翻って現在のテレビは有名タレントの冠番組がほとんどで、出演するマジ
シャンにはそのタレントを直接驚かせたり、一緒に楽しむ役目を求められる
ため、喋りながら演じるクロースアップが主流となったのは必然と言えるで
しょう。サイレントアクトをテレビ用に短縮するのならともかく、現在は
なかなかフル手順で放送してもらえる時代ではありません。
当時のテレビでは、7〜8分のステージアクトが淡々と放送されていましたが
今のテレビの作り方では考えられないことです。

ですからスタートがクロースアップだった若者がブームに乗ってプロ活動を
始めるとすぐにぶつかる壁は、大人数のパーティーでの出し物ということに
なります。バーで大人しくマジックを楽しんでくれる良客と違って、騒がしい
立食パーティー等では空疎なトークなど、おもいっきり無視されて愕然とする
のです。(慌ててフローティングテーブルを買いに行くことになります。)

初回からかなり脱線していますが…そういう理由で私の場合はサイレント
アクトに強い影響を受けて来たわけですが(これは後のマジシャン人生を
考えると本当に良かったと思います。)、中でも鳩出しを演じるマジシャン
は百花繚乱で、最も憧れた演目でした。故チャニング・ポロックに憧れて
鳩出しを始めた多くの先輩マジシャン達が、私が中学生の時代にちょうど
円熟期を迎えて競うように演じていれば影響を受けないわけがありません。
当時はまだ家庭にビデオがありませんでしたから、テレビの一回限りの演技
を食い入るように観ていました。演技のみを記憶に留めて、そのマジシャン
の名前を覚える余裕は無かったほどです。

鳩を飼いたいと親にも言い出せず、飼ったところで出し方も分からないし、
勉強しようにも田舎には鳩を出してる人はいないし、いたとしても教えてく
れるとは限らないし、ビデオも無いし…と諦めかけていたある日、衝撃的な
鳩出しを見たのです。
中学3年生の頃、学校から帰ったある土曜日の昼下がりにテレビを点けると
アメリカのマジック番組が始まりました。(東京ではゴールデンタイムに
放送された木曜スペシャルでしたが、私の田舎では数ヶ月遅れの土曜日の
午後に放送されることなど珍しくはありませんでした。)
世界の一流マジシャンを集めた「ROXY」という番組のそのトップバッターに
日本人が登場しました。…島田晴夫。アクト全体を記憶に留めようとしても
次々に出現する鳩が前の記憶をかき消していくほどのインパクトでした。
マジックを見て(それもテレビで)涙が溢れそうになったのはこの時が初めて
だったと思います。多感な年齢でそのような体験が出来たことは財産です。
(この番組のビデオをやっと手に入れることが出来たのは数年後でしたが、
改めて手順を確認すると記憶とかなり違っていたものの、そのインパクトの
強さは全く同じでした。)

もうその翌日にはペットショップに4羽の鳩を注文していました。
鳩は手に入れたものの、さてどうすればいいんだろう…つづく。

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