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2009年3月

鳥の話 2

鳩は手に入れたものの、どうすれば鳩出しが出来るようになるのでしょう。
当時の私の周りには、鳩出しをやっているマニアもいなければ、ビデオ等
の映像資料も皆無でした。もちろんマジック用品のカタログには当時から
ダブパン等の鳩出し用の道具がありましたが、若くてイキがっている頃は
そんな道具には頼らずに、テクニックを駆使してスマートなマジックをやる
方が絶対にウケるし、格が上だと思うものです。(クロースアップで例えれ
ば、トリックデックには頼らない、シェルコインは使わないというポリシー
とかこだわりのようなものでしょうか。)

当時の唯一の拠り所は「奇術研究」という本からの情報でした。(1956年
に力書房から創刊された季刊誌で、1979年に廃刊と記憶しています。)
私がこの本を読み始めたのは、廃刊前の2〜3年でしたが、毎回様々な
特集や珍しい道具の広告が載っており、届くのを楽しみにしていました。
この本のバックナンバーに鳩出しの特集があったのです。(1968年奇術
研究49春号)さっそく取り寄せてみると、故高木重朗氏の解説による12
ページに及ぶ詳細な特集でした。ここに解説されているハーネス(鳩を出す
仕掛け)を製作するところからスタートです。
もちろん素材は布なので、難しい縫い物は母親に頼ることになります。
(マジックに没頭して成績も低空飛行なので頼りづらいのですが、背に腹は
代えられませんでした。)

ここで少し脱線。文中で秘密に繋がる用語(シェルとかハーネス)を出すの
はいかがなものかと感じる人もいるでしょうが、避けては通れません。
一般人は意外と気付いています。鳩は湧いて出るのではなく、どこかに隠し
ていることや、リンキングリングのどこかに切れ目があることくらい薄々感じ
ています。しかしこれらのマジックが脈々と演じ続けられているのは、鳩を
隠しているのは知られていても、それがどうやって手元まで到達するのかが
謎であったり、リングに切れ目があるのは知られていても、卓越した技術や
錯覚や仕掛けの進歩によって、とてもそうは見えないからでしょう。

タネ明かしの問題は、いつの時代にも結論は出ません。
以前TBSの「オフレコ!」という番組で、数回に渡ってマリック氏によるタネ
明かしの特集が放送されました。私もバードアクトでゲスト出演した際に、
あんな番組に出演するのはけしからんというお叱りも耳にしましたが、日常
行われているショーや発表会を観に行くと、そこではバレバレのマジックが
繰り広げられています。本人にタネ明かしの意志が無く、一生懸命演じた
結果ならばバレても許されるのでしょうか。悪気は無いというだけでロード
する品物やダンシングケーンの糸が見えていいのでしょうか。
(殺意が無かったという理由で殺人が許されていいわけがありません。)

マリック氏をかばうわけではありませんが、手加減を知らない「素人の喧嘩」
よりも、「プロ格闘家のエキシビションマッチ」の方が、ずっと安心して見て
いられるはずです。

話を戻します。試行錯誤しながらもいくつかのハーネスを作り、さっそく試し
てみると…これが膨らみは目立つわ、鳩は暴れるわで、あげくの果ては鳩が
脱出してひょっこり出て来る始末。初めて、ある程度の調教が必要なんだと
実感した瞬間でした。その後、鳩は次第に慣れていきましたが、いかんせん
本からは、タイミングや間といった動きを学ぶことは困難です。
(逆に、独自のタッチや間が生まれるという利点があるのも確かです。)

そして高校1年生の春、ついに我が家にもビデオデッキ様が降臨されたのです
…つづく。


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客は意外と気付いてる!?

先日マリック氏から聞いた話です。
最近アメリカで認識のギャップを証明する番組(どっきり系?)が放送され
ました。100人の観客の前で、あるマジシャンが最も自信のある人体浮揚
を演じた後、観客にタネが解ったかをアンケートし、結果をマジシャンに
ぶつけるという企画だったようです。
司会者「何割の方が正解したと思いますか?」
マジシャン「う〜ん、1割? いや最近の客はするどいから2割かな。」
司会者「残念!その反対で8割の方が正解でした。」
マジシャン「…。」
司会者「このギャップはなんでしょう? どうしたら埋まると思いますか?」
マジシャン「…。」

あくまでバラエティー番組として面白く作られているのだとは思いますが、
我々が受ける観客の拍手の中には、「タネは解ったけど一応マナーで」
という優しさがあることは常に認識しておく必要があるでしょう。
マジシャンが雑なカップ&ボールを演じている時に、ロードするレモンが
何度もフラッシュしているにも関らず、苦笑いをしながらも一生懸命に
盛り上げようと拍手をしているけなげな観客を見たことがあります。
その優しさに包まれている自覚も無く、自慢げにレモンを出すマジシャン
の態度に、凄いギャップを感じました。
自分でパスが見えるのが怖くて、まばたきしたり一瞬顔を背けたりしても
客にはしっかり見えています。

私も時々ステージで「見破ろうとしないで楽しんで下さい。」とつい言って
しまうのですが、これなど観客に対してマナーを啓蒙しているようで実は
心理的に守りに入っているんだろうなあと自己分析しています。
あくまで観客に対しては冷静に、心の底では見破れるものなら見破って
みろという気概が少しくらいはあっていいのかも知れません。(ただし、
それを観客が感じ取ると嫌みなやつと思われるので注意は必要です。)

かなり前のエピソードです。
ある友人のマジシャンと飲みながらマジック談義をしていると、私達の話
が聞こえて興味を持ったのか、隣の席の客が話しかけて来ました。
(その客には何の悪気もありません。)
以下はその会話の一部です。

客「マジシャン各々に得意分野とかあるんですか?」
私「色々とレパートリーはありますが、得意なのは鳥を出すマジックです。」
客「しかしマジックで使う鳥って、よくおとなしく隠れていますよね?」
私「…。」 撃沈!

友人「私は空中から指先にカードを次々に出現させるマジックが得意です。」
客「ああ、それテレビで見たことあります。マジシャンってよくあれだけの
  カードを手の甲に隠せますよね?」
友人「…。」 撃沈!


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鳥の話 1

以前から鳥についての考察を書いてほしいとのリクエストがあるのですが、
なにしろ30年以上もバードマジックを演じている(内容は大きく変遷して
います。)ので、考察と言っても、自分の歴史であったり、想いであったり、
若手へのアドバイスになったりと脱線しながらになるかも知れませんが、
出来るだけ面白い読み物を書こうという心構えで、何回かに分けて述べて
みようと思います。(一般の方には分からないであろうコアな単語や人名が
出て来るかも知れないことをご了承下さい。)

各々のマジシャンが本格的にマジックにハマった理由は様々でしょうが、
ブームの影響だったり、特定の誰かに憧れたりする場合が多いのではないで
しょうか。近年のクロースアップブームでアンビシャスカードに代表される
カードマジックやストリートマジックが流行ったように、平成初期のマリック
ブームの時は、それこそ猫も杓子も袖を捲り上げてスプーン曲げやシガー
スルーコインを演じていたものです。(古い映像を観ると、えっ、この人も
便乗しているのというくらいのブームでした。)

私が本格的にマジックに取り組み始めた中学時代(主にダンシングケーン、
ビリヤードボール、ゾンビボール等を演じていました。)、チャンネル数が
少ない田舎に住んでいたせいか、巷間言われたほどユリ・ゲラーのスプーン
曲げや、故初代引田天功の脱出や催眠術のブームを体感した記憶はありま
せん。それよりも当時のテレビにおけるマジックは、一部のコメディマジ
シャンを除くと、ほとんどがBGMに乗って演じるサイレントアクトでした。

翻って現在のテレビは有名タレントの冠番組がほとんどで、出演するマジ
シャンにはそのタレントを直接驚かせたり、一緒に楽しむ役目を求められる
ため、喋りながら演じるクロースアップが主流となったのは必然と言えるで
しょう。サイレントアクトをテレビ用に短縮するのならともかく、現在は
なかなかフル手順で放送してもらえる時代ではありません。
当時のテレビでは、7〜8分のステージアクトが淡々と放送されていましたが
今のテレビの作り方では考えられないことです。

ですからスタートがクロースアップだった若者がブームに乗ってプロ活動を
始めるとすぐにぶつかる壁は、大人数のパーティーでの出し物ということに
なります。バーで大人しくマジックを楽しんでくれる良客と違って、騒がしい
立食パーティー等では空疎なトークなど、おもいっきり無視されて愕然とする
のです。(慌ててフローティングテーブルを買いに行くことになります。)

初回からかなり脱線していますが…そういう理由で私の場合はサイレント
アクトに強い影響を受けて来たわけですが(これは後のマジシャン人生を
考えると本当に良かったと思います。)、中でも鳩出しを演じるマジシャン
は百花繚乱で、最も憧れた演目でした。故チャニング・ポロックに憧れて
鳩出しを始めた多くの先輩マジシャン達が、私が中学生の時代にちょうど
円熟期を迎えて競うように演じていれば影響を受けないわけがありません。
当時はまだ家庭にビデオがありませんでしたから、テレビの一回限りの演技
を食い入るように観ていました。演技のみを記憶に留めて、そのマジシャン
の名前を覚える余裕は無かったほどです。

鳩を飼いたいと親にも言い出せず、飼ったところで出し方も分からないし、
勉強しようにも田舎には鳩を出してる人はいないし、いたとしても教えてく
れるとは限らないし、ビデオも無いし…と諦めかけていたある日、衝撃的な
鳩出しを見たのです。
中学3年生の頃、学校から帰ったある土曜日の昼下がりにテレビを点けると
アメリカのマジック番組が始まりました。(東京ではゴールデンタイムに
放送された木曜スペシャルでしたが、私の田舎では数ヶ月遅れの土曜日の
午後に放送されることなど珍しくはありませんでした。)
世界の一流マジシャンを集めた「ROXY」という番組のそのトップバッターに
日本人が登場しました。…島田晴夫。アクト全体を記憶に留めようとしても
次々に出現する鳩が前の記憶をかき消していくほどのインパクトでした。
マジックを見て(それもテレビで)涙が溢れそうになったのはこの時が初めて
だったと思います。多感な年齢でそのような体験が出来たことは財産です。
(この番組のビデオをやっと手に入れることが出来たのは数年後でしたが、
改めて手順を確認すると記憶とかなり違っていたものの、そのインパクトの
強さは全く同じでした。)

もうその翌日にはペットショップに4羽の鳩を注文していました。
鳩は手に入れたものの、さてどうすればいいんだろう…つづく。

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俯 瞰

俯瞰(ふかん)…難しい漢字です。辞書には「高い所から広く見渡すこと」
とあります。運動場ほどの広い絵の上にポツンと立つと何の絵なのかは
理解出来なくても、ヘリコプターに乗って上空から見ると理解出来ると
いった意味なのでしょうか。もっと簡単に言えば、以前の考察でも述べた
ように「客観的に見る」ということなのでしょう。

これはマジックショー(クロースアップやステージに関係無く)を構成する
際に、長時間になるほど全体像が把握しづらくなることを考えると、非常に
重要なキーワードとなります。素材が違うからと安心して構成してみると、
連続して同現象(例えば当てもの系)を演じてしまったりします。
クロースアップで、演技の都度にデック(カード)を取り替えるマジシャンを
見たことがありますが(現象の数とデックの数が同じ)、最低限デックの色を
統一した上で、せめてカードマジックの間に他の素材のマジックをはさんで
ほしいものです。
先日、あるローカルマジシャンの映像を観てしまったのですが、スケッチ
ブックからボーリングボールを出し、小さなスケッチブックからフルーツを
出し、さらに別のスケッチブックでライジングカードを演じるという支離滅裂
な構成、つなぎのトークも「さてさて次のマジックは…」の繰り返しで、エン
ターテインメント性を全く感じない上、演技もコピーなら道具もコピーという
陳腐なショーでした。このようなDVDを平気で配っているということは、自分
の映像を俯瞰で見るどころか、気持ち良さげに悦に入っているのでしょう。

自己満足して自己完結すると、上記のマジシャンのような演技に陥ります。
ですから、俯瞰の慧眼を持つ多くの優秀な仲間達がいるというのは有り難い
ことです。(先輩としていつも的確なアドバイスを頂くのはマリック氏、後輩
でも遠慮なくズケズケと指摘してくれるのは…ゆうきとも氏かな。もちろん
内田貴光氏やRYOTA氏ともお互いのショーの感想を言い合っています。)

今回の考察は奥が深くてキリが無いので、また次の機会にでも私の失敗談
や反省を交えて述べることにします。(他者批判だけで自己批判が無いと
説得力がありませんからね。)

最後にもう一つだけ述べておきましょう。大事なことです。
他人の行動やビジネスを冷静に俯瞰あるいは客観的に眺めると、様々な矛盾
や真意が見えて来るものです。
例えば一般的なレクチャーではなく、法外な授業料で一流のプロマジシャン
を育てるというスクールがあるとします。ではそこの講師のマジシャンは一流
なのでしょうか? いいえ、そのような商売をする程度のマジシャンだという
ことです。講師が一流の現役であるならば、堂々と出演ギャラで裕福な生活
を送ればいいのです。その生き様を後輩に見せることこそが最高の授業では
ないでしょうか。騙されてはいけません。ドブに捨てるような授業料を払う
余裕があるのなら自分で道具や衣装を買って独学すれば、すぐにその講師に
追いつき追い越すことが出来るはずです。(あなたが払ったその授業料で
講師が道具や衣装を買うつもりなのです。)二流マジシャンが法外な授業料
を要求して一流マジシャンを育てるなどと言う資格はありません。
(肥満の内科医から、あなた減量しなさいと言われたくないでしょ。)

「一流を育てる」という概念には全く意味がありません。
「一流ほど勝手に育つ」ものです。

マジシャンであるならば、俯瞰によって世の中のからくりを見抜く洞察力を
研ぎ澄ます努力を怠ってはなりません。

自己啓発書や占い本やビジネス書をどれだけ読みあさっても成功はしません。
成功するのはその著者だけです。


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Dr.ZUMA TV出演のお知らせ

日本テレビ 「99プラス」

2009年3月24日(火) 23:58〜OA

※ 鳥を使ってのマジックを演じましたが、動物ならではのナイスな
  ハプニングもあり、楽しい収録でした。ぜひご覧下さい。

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戦略と戦術

「戦略のミスは戦術ではカバー出来ない。」…初めて聞いた時にこれほど
印象に残ったフレーズはありませんでした。かつて物議を醸した戸塚ヨット
スクールの校長が、自分の教育方針の正当性を語る際に使っていたことで
私は記憶しています。最近では軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が好んで
使っています。

マジシャンである私がこのフレーズにこだわる理由は、ショーの場を戦場と
考えれば、そのまま当てはまるからです。若かりし頃、テーブルホッピング
の仕事でカードマジックを演じると、酔客から様々な嫌がらせや絡まれ方を
されたものです。引いたカードを返してもらえなかったり、突然カードを奪
われてメチャクチャにシャフルされたり…。
これは酔客が悪いのではなく、私の戦略ミスだったのです。
そもそも絡みそうな酔客に対して絡まれやすいカードマジックを選択した
こと自体が戦略ミスなのです。つまり引いたカードを覚えることも出来ない
ような酔っぱらいにカードマジックを演じようとすること(戦略)がミスで
あり、そこで世界一のカードテクニックを見せた(戦術)としても何の意味も
価値もありません。

医師の世界で例えれば、耐性菌に対して無力な抗生物質を延々と投与して
いるようなものです。焼き鳥屋で上司の悪口を言ってストレス発散している
サラリーマン達に名刺を配りまくって、良い仕事のオファーが得られるとは
思えません。

以前の考察でマリック氏の「何を演じるかを決めた時点で、もうそのショー
が上手くいくかどうかは決まっている」という言葉を紹介しましたが、まさに
このことを意味しているのです。
だからこそ仕事を引き受けた際の情報収集と構成(戦略)が重要なのです。
現場に着いて初めて360度から見られるステージだと知っても、もう遅いの
です。そこで自慢のカードマニピュレーションを演じても辛いのは言うまでも
ありません。(戦術ではカバー出来ない)

Aという素晴らしいマジシャンの演技をBという二流マジシャンがコピーしても
そこそこウケるのは、その手順(戦略)が素晴らしいからに他なりません。
逆にBが作った手順をAが演じたとしても…無論、技術(戦術)でカバーしきれ
ないのは明白です。(レシピ自体がマズイ料理なのですから。)

戦術を徹底的に排除して戦略のみで勝利を手にした代表例はカップ麺ではない
でしょうか。(だって戦術はお湯を注ぐだけなのですから。)

ここで今回の考察とはあまり関係無いかも知れませんが、面白いエピソードを
二つ紹介します。

[エピソード1]
他人の演じたマジックやBGMをすぐにマネしたがるナイト系(ホストくずれ)
のマジシャンがいるのですが、数年前、彼のショーを観た時の出来事です。
演技の途中、私が客席にいることに気が付いた彼は、突然あるマジックの
動作を中断したのです。以前から彼は私のショーをこっそり観に来ていたのは
知っていたので(記録ビデオを観ると、ショーの終わりと同時にそそくさと逃
げる彼の姿がいつも写っているのです。)、さあ堂々とコピーするのかなと
思っていたら、突然の中断には驚きました。コピー元が客席にいたら止める
なんて、開き直る覚悟も無いのかと少しガッカリしたものです。これは戦略
とか戦術とは関係無く、敵前逃亡と言えるでしょう。でも突然の中断によって
慌てた女性アシスタントがいじらしかったので良しとしましょう。

[エピソード2]
あるマジシャンが刑務所で慰問公演をした時の出来事です。そのマジシャン
は受刑者をステージに上げて、なんとギロチンマジックを演じたそうです。
こうなると戦略も戦術もあったもんじゃありませんな。

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