臆病であること
臆病者…決して良い響きではありません。臆病者は何事に対しても
引っ込み思案で、進んで事を為す積極性が欠落しており、万事につけて
頼りなく、当てにすると必ず失望させられます。
マジシャンが臆病者であってはいけませんが、臆病な側面を持つのは、
決して恥ずべきことではないし、むしろ持つべきだと思います。
臆病であることは慎重であること、堅実であるとも言えるし、時と場合に
よっては知性すら感じさせる良い側面があると思います。
臆病なんて微塵も感じさせないぜ的なイケイケドンドンのイリュージョン
ショーなどは、その代わりに知性のかけらも感じません。良い意味で臆病
なマジシャンの演技は、たとえ大胆であっても裏ではきめ細かく丁寧で、
セットミスの可能性もほとんどありません。
私はというと以前の考察でも述べたように、マジシャンという職業自体が
ギャンブルであるという認識から、石橋を叩いてもなかなか渡らないほど
臆病で慎重な生き方をしているつもりです。(そろそろ知性などが滲み出
てほしいのですが…。)それゆえプロデビューも30代という遅めでした。
もちろん大学病院を辞める踏ん切りがつかなかったという理由もありまし
たが、それよりも当時のマジックの実力や知識、レパートリーで果たして
やっていけるのかという不安の方が大きかった気がします。
ですから近年のブームの影響で、簡単にプロ宣言する若者を見ると他人事
ながら心配してしまいます。とりあえずプロになっちゃって、それから
色々と勉強しますという若者と話した時は唖然としました。
彼等の辞書には臆病という単語は載って無いはずです。
(とりあえず医者になってから勉強…なんてありえないし怖いでしょ。)
他のマジシャンの内面を覗き見る事は出来ませんが、これまでは不安だ
という声はあまり聞こえて来ませんでした。マジシャン同士が集まっても
見せ合いっこばかりで、職業としての将来像や不安感について語り合う
機会は少なかったようです。(実は不安なのに見栄っ張りが多いのか、
本当に能天気なのか、私が必要以上に臆病なのか…。)
しかしブームも過ぎ去り、不況の追い打ちもあってか、マジックのお店の
閉店・撤退が始まった現在、ちらほらと不安な声が聞こえて来ます。
マジシャンである限り(限らなくても)将来の不安が付きまとうのは覚悟
しなければなりません。しかし将来がどうなるか分からないということは
幸せでもあるということ、それはまた挑戦する余地が残ってるということ。
つまり不安の材料ではなく、幸せの材料が残っていると認識すべきなので
しょう。
バブルはいつか弾けるからバブル。
ブームはいつか去るからブーム。
レギュラー出演はいつかなくなるからレギュラーなのです。
臆病であることは大切だと思います。
木陰のカサッという音で危機を察知して、脱兎のごとく駆け出す鹿はきっと
長生き出来ます。能天気に草を食べ続ける鹿は、天敵に襲われるか、猟銃
で撃ち殺されるのです。
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