普段しない事はしない方が…
マジックにおいて違和感を覚える理由の多くは、そのマジシャンが普段は
していないであろう動作や発言等に起因しています。故ダイ・バーノンの
「Be Natural」という言葉は有名ですし、ふじいあきら氏も自身のブログで
「普段の自分自身であること」の重要性を述べています。
昔の私は、燕尾服をまとい、しかめっ面でハードボイルドな演技をする事
(それがダンディズムであるとの勘違い)に憧れ、アマチュア時代から長年
そのような演技をしてきました。
しかし、そんな張りつめた空気は、もっても10分がいい所でしょう。
コンテストやスポット出演ならともかく、プロとして30分以上をこなすのは
とても無理です。普段の自分はハードボイルドやダンディズムとは程遠い
のに、そうしてまでも自分には無いキャラクターに憧れていたのでしょう。
当時の険のある演技を観たマリック氏からも言われました。
「なんであんなしかめっ面でやってるの?楽屋で嫌な事でもあったの?
プライベートで話すとあんなに人を楽しませて笑わせるのに、もったいな
いよ。格好つけずに素の部分をショーに出した方がいいと思うよ。」
それからは肩の荷が降りたように楽になり、今ではほとんど素の状態で
ステージに立っています。(たまに行き過ぎがあるのは自分でも重々承知
しています、はい。)
いまさらビジュアル的に格好つけたって、若手のイケメンマジシャン達には
とても太刀打ち出来ないのですから、ウケることが最も格好いいことなのだ
と確信を持って自分に言い聞かせています。
今回の考察では色々と思う所があるのですが、最も感じるのは普段から
人を楽しませる習慣が無いと、ショーの時に観客を笑わせる事は出来ない
ということ。普段話していて退屈な人が、ショーの時だけ都合良く突然面
白くなるはずがありません。
普段しない事が目立ってしまう場面は、あらゆる分野で見受けられます。
クロースアップにおいては、普段はそうでもないのに何かをパームしてい
る時に限って、ミスディレクションのためか袖を引き上げる動作を連発
したり、さっきまでタメ口で話していた友人が、カードを手にした途端に
「一枚引いて下さい。」と敬語になったり…。
私がずっと気になっているのは、イリュージョンショーにおける所作です。
全盛期のデビット・カパーフィールドや欧米のイケメンイリュージョニスト
の女性アシスタントとのキメポーズや抱擁は、計算しつくされた動きで、
口づけする程に顔を近付け合っても自然な上、全くいやらしさを感じさせま
せん。翻って、それに影響された日本人イリュージョニスト(なんちゃって
カパーフィールド的な)が同様な抱擁をすると、不自然でいやらしい感じが
否めません。(こちらまで照れくさくなる程イタイ演技もあります。)
これは根っこに絶対的文化の違いがあるのです。
映画を観ても分かるように、欧米の男女は行ってきますでチュッ、ただいま
でチュッ、家庭内はおろか人前でも当たり前のように抱擁しています。
欧米のイリュージョニストのステージ上での動きは、日常生活の延長線上に
あるために違和感が無いのです。
ほとんどの日本人イリュージョニストが普段から欧米人のように抱擁して
いるとはとても思えません。どっぷりと日本文化に浸りながら、ステージ
でのみ取って付けたような動きをするからいやらしくなってしまうのです。
亭主関白な夫が、急に妻に優しい言葉をかけ始めたら…それは確実に浮気
を疑われます。
やはり、普段しない事はしない方が…。
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